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滅ぶ世界のヒストリア  作者: なつ
第二章 蒼炎の黒き魔導師
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第五話 南への旅立ち

 ※※※


 マナドールは自分の部屋に戻ると、意識を集中するために灯りを全て消した。太陽はすでに西に沈んでおり、月の光も弱い。わずかに浮かぶ部屋のシルエットも慣れたもので、ベッドに腰掛けると水晶を取り出す。そしてさらに目を閉じ、意識を一点に集中する。

 次第に城の中の慌ただしさも彼女の耳から遠ざかる。闇に包まれた部屋の、彼女の手元が不意に光を持つ。すぐにその光は凝縮し、水晶の中へと吸い込まれる。ゆらゆらと揺れる光が四つ。その揺らめく光が一つに重なると、さっと光が弱まり、今度は水晶の奥から闇が広がってくる。

 そこで彼女は目を開いた。額から汗が流れている。四つの光の一つが姫……、今まではその四つの光が集まることに希望を感じていたが、最後に膨らんだ闇は何なのだろうか、不安が増す。

 マナドールは水晶を片付けると、別のことを考える。

 ギル・E・ウォーマ。

 アセリーナの兄である彼が、どうしてここにいるのか。

 彼女の中に昔からある疑問だ。彼女が見ることができる過去は状況でしかない。けれど、納得ができる過去ではなかった。それにカセル王はこの話題を避けている。さっきだって……。

 ふと、彼女は部屋がノックされていることに気がついた。はい、と返すとドアを開ける。そこに立っていたのは、そのギルだ。

「今灯りを点けます」

 ギルは、部屋の椅子に腰掛けた。子供の頃からここに来ると彼はそこに腰掛ける。彼の格好は、先ほどと同じだ。鎧もマントも付けていて、腰には剣がある。先ほど父であるカセル王の前であのような扱いを受けたことに腹を立てているようだ。

「どうしたのですか、ギル?」

 マナドールはドアを閉めて振り返った。彼は口を開こうとしない。けれど目は、まっすぐ彼女を睨んでいる。どうしたのですか、と聞くまでもないことだ。

「アセリーナのことですね」

 彼女は視線を外すと切り出した。ギルの体に力が入るのが分かる。

「彼女が旅立つ運命を、わたくしには止める力がありませんでした」

「今更過去のことを言ってもしょうがないさ」

 ギルは鼻で笑う。アセリーナが、一度決めてしまったら滅多なことではそれを変えようとしない性格だとギルにも分かっていることだ。

「あいつが今どこにいるのかを教えてくれればいい。それくらい分かるのだろう?」

 ここにはカセル王も、アルミナード王妃もいない。ギルは引かないだろう。マナドールは水晶を取り出すと、再びベッドに腰掛けた。アセリーナがどこに向かったのか、なら占う必要はない。マナドールがセイラーに行くよう彼女に言ったのだから。問題は、ギルに教えていいのか、ということだ。意識を水晶に集中する。

「……いくつもの光が一点に集まっています。その光はとても弱々しいものですが、決して消えることはありません。ですが……それから、闇が!」

 額から汗が吹き出る。

「闇が、ここへやって参ります。それは……貴殿の、消失……それは、大国の戦争の予感……」

 確かに、ギルがこの国からいなくなってしまえば、大変なことになる。ギルは次期国王なのだから。敵国サバラートにとって、それはまたとないチャンスだ。その機に乗じて攻めてくるかもしれない。その虚をつかれれば、戦争はエーナ国にとって非常に厳しいものになる。

「あなたを、城から出すことは出来ません」

 マナドールは荒い息のまま続ける。

「ですから、彼女の居場所を教えることも出来ません」

 ギルの顔が険しくなる。けれどその険しさは、マナドールを責めているものではない。彼だって、自分の立場というのは充分に理解しているところだ。アセリーナの心配ももちろんだが、次期国王として、他にも考えなければならないことが山ほどある。

「分かった。あなたの占いはよく当たるからな。大人しくしているよ」

 立ち上がると、ギルはそのまま部屋を出て行った。マナドールは彼を見送った後で、もう一度考える。払いきれない不安。変えられないであろう色濃い未来。ギルに、何か起きようとしているのだろうか?

 けれど、連続して水晶を使い、占いをしたせいで、マナドールは疲れ果ててしまっていた。そのままベッドに横になると、すぐに深い眠りに落ちてしまった。


 ※※※


 翌日の早くにドン・パロト・アッハーニは仕事に戻った。今は部屋にアセリーナしか残っていない。フィルとエサカ、スタインは昼には戻ると言って、買い物に出かけてしまった。アセリーナも一緒に行こうとしたのだが、フィルに丁重に断られてしまった。曰く、その格好で出歩くのはまずい、だ。確かに服もだいぶ疲れているし、それ以上に髪もボサボサで、寝ぐせがひどかった。昨晩すぐに眠ってしまったせいだ。

 なので、彼らが戻ってくるまでに部屋にあった風呂に入り、身なりを整えたところだ。慣れない手つきで三つ編みを作り、簡単に化粧を済ます。といっても、持ち歩いているものは少ないので、それも大して出来ないけれど。

しばらく待っていると部屋がノックされた。はい、と返事をする。

「入ってもよろしいですか?」

 エサカの声だ。三人が買い物から帰ってきたようだ。どうぞ、と言いながら扉を開ける。

「お帰りなさい」

「お前さぁ」

 入ってくるなり、フィルが怪訝な表情でこちらを見てくる。

「そのローブ止めたほうがいいんじゃない?」

「似合わない?」

 確かに一番上に着ているローブはあまりいいものではない。人目につかないようにと揃えた黒いローブだ。ここに来るまでに塵と埃に汚れている。あまりにも汚れていたので、風呂場で洗おうかと思ったのだが、それさえもためらってしまう程だった。

「いや、そーいうんじゃなくて。なんか逆に怪しいんだよね、その格好」

 そう言いながら、手に持っていた袋から小物を取り出す。

「下手に変装するくらいだったら、これくらいの変装の方がばれないもんだって」

「ああ、最後に買っていたのはそれなんですね」

 フィルの後ろからエサカが小物を見ながら言う。どうやら眼鏡のようだ。フィルがそれを手渡してくれる。

「そゆこと。まぁ、だまされたと思ってローブを脱いでそれに変えてみなよ。伊達だからレンズも入ってないしね」

 言われた通りにローブを脱いで、眼鏡を掛けた。王宮で本を読むために眼鏡を掛けることはあったが、普段からは使っていない。多少違和感があるが、それも慣れるだろう。

「よし、悪くないな。一層のこと、髪をバッサリ切ってしまえばもっと印象も変わるだろうけど、それはさすがにね」

「髪型変えてますから、きっと分かりません」

「ああ、そこは工夫してるわけね。うんうん、良いことだ。それともう一つは、名前、だな」

「名前?」

「アセリーナって呼ぶわけにもいかないだろ? 人気のないところならいいかもしれないけど、どこで誰が聞いてるか分からないしな」

 鋭い指摘だ。それよりも、フィルにはすべてばれてしまっている気がする。対峙すると嫌いなタイプだけど、仲間でいる間は頼もしい。

「気になってたんですが、アセリーナって何者なんです? 聞いたことがある気もするのですが?」

 エサカが割り込んでくる。

「分からないのか? こっちの出身じゃない俺でさえ分かっているってのに。もっと頭を働かせろよ。まぁ、彼女が秘密にしておきたそうなんで、俺からは言わないけど」

 フィルがこちらに目配せしながら代わりに応えてくれる。

「すみません」

「いいえ、誰にでも、人に言えないことってありますから」

「いずれ、時期が来たら話しますから」

 エサカが悔しそうな表情をする。それはどうやら自らの無知に対してのようだ。

「それで、何て呼べばいい?」

 考える。最初に浮かんだのは、ナニーの姿だ。実の親よりも先に、彼女の姿が思い出される。

「そうですね。でしたら、マナ。そう呼んでください」

「マナ、ね。よし、今からマナ、そう呼ぼう」

「はい」

 私は微笑む。

「それじゃあ、マナ、もう一つこれを」

 さっとフィルは動き、レイピアを私に差し出す。

「これくらいならマナでも扱えるだろ?」

「まあ、偶然。幼少のころからレイピアの扱い方、習ってきたんですよ」

 これでも結構褒められたものだ。

「やっぱりね。そうだろうと思ったから選んだんだ。でも、実際に使ったことは?」

「実戦では、ないですけど」

「ここまで来るのだって、楽じゃなかっただろ?」

「どちらかと言えば、魔法のが得意ですから。それに、ここまでは極力戦闘は避けて来ました」

「へぇ、それは頼もしいな。どのレベルまで使える?」

「レベル?」

「レベル」

 フィルの言っていることが理解できず、私は首を傾ける。

「なんだ? もしかしてこっちじゃ魔法が体系化されていないのか? スタインは、使えなさそうだが、エサカは?」

「何の魔法が使えるか、ということですか?」

「……簡単に言えば、等級のことだ」

「それでしたら、応用級まで使えます」

「あ、私も同じ、応用級までです」

「それじゃあ精霊魔法も使えるな。高速言語魔法は?」

 使えない。エサカは、使える、と答える。

「神聖魔法は?」

 エサカは首を振る。

「なるほどね。魔法ってのは、大体使えるランクが決まってるんだよ。能力以上の魔法はがんばって覚えようとしても、時間の無駄、ということ」

「へぇ、なんだかフィルって先生みたい」

「馬鹿言え、そんなの縁遠い職業だ。こっちじゃその先生が集まって、そういうことを教えてくれる場所ってのはないのか?」

「寺子屋的な?」

「ああ、そう……分かっちゃいたが、こっちは二世代くらい遅れてるみたいだな」

「何よ、それ」

「まあいいや。とにかくこれから一緒に冒険するんだ。お互いの能力をある程度知っておくことは必要だろ? サーラ港に行くまでに、そういったことは話しておこう」

 そのままフィルは部屋を出る。そうだ、これからサーラ港まで行くんだ。これから、本当の冒険が始まるんだ。そう思うと胸が高まる。私もすぐにフィルに続いて部屋を出る。そのまま宿をチェックアウトし、まっすぐ南へ進み村を出る。

 途中、誰もアセリーナの姿を気にしない。フィルの言うとおり、あえて変装する必要もなかったようだ。考えてみればこちらの国にまで来たのは初めてのことだし、アセリーナの顔を知っている者は多くないだろう。

 ここからサーラ港まで歩いて行けば一週間くらいだろうか。アッハーニが言うにはエレネという司祭が「ジェル」について知っているのかもしれない。アセリーナは高鳴る胸を押さえ、仲間とともに南へと進んだ。


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