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滅ぶ世界のヒストリア  作者: なつ
第二章 蒼炎の黒き魔導師
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第四話 こうして彼らは一緒に旅する仲間になりました

 空色の髪の青年が、よう、と気さくな口調で言い、まっすぐアセリーナに近づいてくる。

「何かご用?」

 気丈に答えつつも、自分の声が震えているのが分かる。財布を拾い上げた銀髪の男性が怒鳴る。

「貴様、人の財布を!」

「あんたらには関係ないの。それを返してやったんだから、さっさと帰ったらどうだ? もっとも、その残金じゃぁ、一泊がギリギリだろうけどな」

 彼は、アセリーナとは反対に走りだしたはずだ。念のため途中何度か振り返ったが、追ってきている様子はなかった。それが何故今また、アセリーナの前に現れたのか。そして、どうして居場所が分かったのか。

「わざわざ返しに来てくれたのかしら?」

「まぁ、そういうこった。そのお礼にちょっと付き合って欲しいんだけどな」

 青年の手がアセリーナの腕を取る。見た目とは裏腹に力強い。抵抗したとしても、すでに疲れきっているアセリーナには彼から逃げ切れる自信がない。その彼の手を、さらに大きな手が覆った。クォを肩に乗せた彼だ。

「別に手荒なことはしないさ。仕事なんでね。彼女に用があるって人がいるんだ。何ならあんたらも一緒に来てくれたって構わないぜ。他のことは条件に入っていないんでね」

「どこからの仕事?」

「こいつほど巨体じゃなかったが、結構な旦那だったぜ」

「その人に、わたくしを売るということ?」

「……いや、さすがに俺も人身売買には手を出さない。その旦那の真意は俺にも分からないけどな、そんな様子じゃなかった。純粋にあんたに用がある雰囲気だったぜ。それで俺にあんたを連れてくるよう頼んだってだけだ」

 アセリーナは考える。ナニーはセイラーでジェルの手がかりが得られると教えてくれた。彼がその手がかりとなるのか、あるいは、城からの手のものなのか。判断できる材料は少ない。それでも、アセリーナはナニーの言葉を信じることにした。

「分かったわ。あなたのその言葉を信じる。大丈夫、もう逃げないから手を離してもいいわよ」

「だとよ」

 順に手が離される。それじゃあこっちだと彼は言うと、先頭で歩き出した。例え逃げ出したとしても捕まえられると思っているのだろう。アセリーナはフードを被り直すと彼に続いた。後ろから二人も付いて来てくれている。二人とは知り合いではないが、心強く感じる。アセリーナは思い出したように、青年に話しかけた。

「どうしてわたくしがあそこにいると分かったの? すぐに現れたけど」

「ああ、あんたがあの叫び声を聞いた時に、俺と反対方向に逃げていったのは最初から見えていたしな。それで大体の方向は特定できるし。それに、今も被ってるフード。まるで人目を避けているみたいだったし。だったら大通りにいないだろうって想像がつくだろ」

 簡単に言うが、実際はそれほど簡単な事じゃないはずだ。あの僅かな間に相手の特徴を観察し、正しく判断している。それにおそらく彼は、アセリーナのことを知らない。最初に感じた異国風の、というのは合っているだろう。フードを取っている状態のアセリーナを見ても、彼はそのことに関して何も言及しなかった。

やがて表通りに出て、中央広場の片隅にある宿の前まで来た。宿の前には数台の乗合馬車が止まっている。その宿から、上背のある恰幅のいい先ほどセイラーの村の外で出会った御者が顔を出した。

「お、早かったな」

 赤ら顔は酒を飲んでいるのだろうか、上機嫌そのものだ。彼が、アセリーナに用があるのだろうか?

「ん? 何かおまけが付いて来てるな」

「別に構わないだろ? 用件は彼女を連れてくることなんだから」

 青年に押され、私は彼の前に出た。無精髭のある口元がにやりと歪む。

「あなたは確か、馬車の御者でしたわね。わたくしに何か用があるのかしら?」

「とりあえずみんな、俺の部屋に来いや。今日は気分がいいからな。全部俺のおごりだ」

 その後豪快に笑い、くるりと背を向けると先頭に立って宿に入っていった。不安は多い。が、きっとこれも意味のある出会いに違いない、そうアセリーナは思い、その後に続く。青年も、二人組もなにか文句を言いながらも続いてくる。

 宿の最初のフロアは酒場になっているようで、テーブルの周りにはたくさんの人が溢れ、喧騒も極まるほどだ。そこを素通りし、奥にあった階段から二階に上がる。さらに奥に進み部屋に入ると、酒場の声もほとんど聞こえなくなり、静かな空間だ。

「とりあえず、俺は早く報酬がもらいたいんだが」

「まぁ、そう急くなって。俺はドン・パロト・アッハーニ。しがない乗合馬車の御者を生業にしている。アッハーニとでも呼んでくれ」

 しがない、とは思えないくらいアッハーニの取っている宿の部屋は広く、その中央にある木製のテーブルの奥にアッハーニは立つと、ぐるりとこちらを見回す。

「みんなとりあえず、名前を教えてくれや。何て呼べばいい?」

「そんなもんに答える義理はないね。俺は、今は金さえ貰えればいいんだから」

「だーら、そう急くなって」

 もう一歩アッハーニに近づこうとする青年を制するように、二人組の背の低い方が先に切り出した。

「私はエスァケル・ド・カイナックと言います。エサカ、と呼んで下さい。それから彼は」

 エサカは後ろから付いて来ていた巨漢を見上げる。その肩には行儀正しくクォが座っている。

「シュタイベルグ。スタイン、と呼んであげて下さい」

「それからその子犬は、クォというのよね」

 アセリーナの言葉をまるで無視するかのように、アッハーニはエサカを見つめ、眉をひん曲げている。

「お前さん、カイナックのもんか?」

 その視線が、エサカの足元から頭までをめぐる。

「カ、カイナックをご存知、なのですか?」

「記憶を失っているな」

 アッハーニの言葉に、今度はエサカの瞳が大きくなる。それに合わせるように、銀の髪がふわりと浮く。

「カイナックという姓はあまり名乗らないほうがいい。それだけで命が狙われかねない。ただでさえお前さんの容姿は目立つし、その声を聞くだけでも、分かる奴には分かっちまうからな」

 エセカは口を結び、黙ってしまう。思い当たるフシがあるのだろう。続いてアッハーニはスタインに視線を向ける。

「それからお前。呪いがかかっているな。それもかなり強力な」

 スタインは動じる様子も見せず、ただクォの頭を撫でている。

「なるほど。これは面白いな。これなら四人とも……」

 ただのしがない御者が、どうしてこれほど博識なのだろう? アセリーナもカイナックという言葉は知っている。暦にその名が与えられているからだが、そういえばその由来や、来歴などまるで知らない。それに、スタインに対しては呪いがかかっていると見ている。アセリーナには分からないことだ。魔法的な能力なのか、それとも単純な知識の差なのか。分からないことだが、あるいは彼なら、ジェルについて知っているかもしれない。

「どうでもいいけど早くしてくれないかなぁ」

「「ジェル」をご存知ではないですか?」

 青年の言葉に被せるように、アセリーナにとっての切り札を出した。セイラーでジェルについての手がかりが得られると、そうナニーに言われてここまで旅をしてきた。それに今その言葉を発し、目の前のアッハーニは明らかに驚いた表情を見せた。彼はジェルを知っている。アセリーナは相手を信頼させるためにフードを取った。

「わたくしは、アセリーナ・E・ウォーマと言います」

「本当かい? いや、本当だな。顔を見れば分かる」

「わたくしは、訳あってこうして一人旅をしてきたのです。そしてどうしても、「ジェル」が何であるのかを知らなければならないのです」

「だけど、危険過ぎる。あなたのようなか弱い女性が一人で旅など……」

 驚いたままアッハーニの口調が畏まる。アセリーナはそういう態度をあまり好まない。けれど、今はそのようなことに気をかけている場合でもない。

「それならば、命令します」

 が、アセリーナの命令口調に対してアッハーニは豪快な笑い声で返した。

「何ですか、突然。「ジェル」について教えなさい」

「分かった、分かった」

 アッハーニは口調を元に戻した。

「っても、俺も大して知りやしないがね。俺の昔の仲間にな、エレネ・リューンっつう司祭がいるんだわ。彼女はまぁ、本当に博識でね、何だって知ってるんだけど、確か彼女が昔に、「ジェル」について何かを言ってたような気がするんだ」

 どうにも回りくどい表現をアッハーニはする。

「俺が言付けを書いてやる。彼女に会いに行くといいだろう。今はサーラ港の郊外にある教会に住んでいるんだ」

 さっと彼はテーブルに紙を用意すると、手紙を書き始めた。

「ありがとうございます。この御恩は一生忘れません」

「とんでもねーよ。後で打ち首にならないこと祈ってるよ」

 冗談だろうか、彼は片手を上げて答えた。

「へー、それは面白そうな話だな」

「なんだ? お前も興味が有るのか?」

「興味は……大いにあるね。いくつか合点のいかないこともあるしな」

「厳しいことを言うなぁ。まぁ、彼女の一人旅よか、そのほうが安心っちゃあ安心だが」

「そのかし、報酬は上乗せな」

「分かった。いいだろう」

 アセリーナを含まず、話が進んでいく。

「その代わり、仲間は絶対裏切るな」

「ああ、もちろんさ。裏切らない」

「待ってください」

 アセリーナよりも先にエサカが声を上げる。

「私たちも同行させてもらってよろしいでしょうか?」

「そう言ってくれると信じていたよ。お前さんの記憶喪失や、そいつの呪いについても、エレネだったら何か分かるかもしれない。こいつ一人じゃさすがに頼りないしな。それに、別の危険が付きかねん」

「んだと?」

「お前さんたち二人は大丈夫だと思うが、仲間は絶対に裏切るなよ」

「分かっています」

「あの……皆さん」

 会話が落ち着いたところで、ようやくアセリーナが切り出す。

「心遣いは嬉しいのですが、わたくしなんかのために……」

「俺達が勝手について行くと言っているんだ」

 アセリーナの言葉を遮るように、青年が言葉をかぶせて、口元に笑顔を見せた。対峙してこちらを睨んでいた表情よりかはましだ。それでも、彼と二人で行けと言われたら考えものだった。エサカとスタインも一緒に来てくれるとなると心強い。けれど、アセリーナ個人の目的のために、それぞれの旅の目的を中座させるのは心苦しい。

「それに、俺たちの旅の目的が重なるのは運命だったんだ」

 運命……その言葉にアセリーナの心臓がドキッと高鳴る。ジェルに関する手がかりをセイラーで手にすることは、運命だ。その運命に連なることならば、きっと彼らと旅をするのは意味があることだ。

「と、俺の自己紹介がまだだったな。俺はフィルウィルド・グランス・アッシュフォード。フィーと呼んでくれ」

 視界が歪む。王宮から抜けだしてここまで旅をしてきて、心では分かっていても、体は辛いと悲鳴をあげていた。一人での旅は寂しかったし、それに王宮にいた頃からも、周りに同じ年くらいの子はいなかった。大抵は年上で、露骨に慇懃な態度を示して。そういうのは苦手だったし、だから、こうやって普通に話しかけてくれるのだけでも……嬉しくて。ああ、自分は泣いているんだ、とアセリーナは気がついた。

「て、おいおい、何も泣く事ないだろ、ただの自己紹介で」

 アセリーナは首をふる。と、ハンカチを持った大きな手が突然後ろから差し出された。スタインだ。見上げると、いかつい顔と反比例して、彼の内面の優しさがその表情に現れている。アセリーナはハンカチを受け取った。

「よし、書けたぞ」

 さっと封をして、アッハーニがその手紙をこちらに差し出した。アセリーナは手紙を受け取る。これからが、本当の旅の始まりなんだ、と改めて感じる。振り返り、笑顔を作ってアセリーナは言った。

「ありがとう」


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