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滅ぶ世界のヒストリア  作者: なつ
第二章 蒼炎の黒き魔導師
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第三話 四つの光、最初の邂逅

 第三話 四つの光、最初の邂逅


 ※※※


 王宮の中の人の動きが慌ただしい。

「それで、なぜお前が止めなかったのだ?」

 その王宮の、中央にある応接の間。さらにその中央にあるこの王宮にある中でもっとも威厳のある椅子に座り、その頭に王冠を載せているこの国の王カセル・E・ウォーマが同じ質問を繰り返す。

「貴方……」

 カセル王の隣の比較的こぢんまりとした椅子には妻にして王女アルミナード・E・ウォーマが心配そうに様子を見守っている。椅子のある場所より一段低くなった床に片膝で立ち、ベールで覆った顔に、その両手には水晶球。この王宮に使えている宮廷占い師マナドールだ。

「わたくしには、止める力も、止める知恵もありませんでした。大きな波にさらわれる葉でできた小舟のように、ただその流れに身を任せることしか、わたくしにはできませんでした」

 マナドールは動じることなく答える。

「確かに、娘の育児はすべてお前に任せていたが……」

 そこでカセルは言葉を切る。アルミナードの不安そうな顔が一層強調される。

「父上!」

 応接の間に一人の男性が入ってくる。甲冑に国色である真紅のマントを翻した王の息子ギル・E・ウォーマだ。

「何をしていた、遅いぞ、ギル」

「準備をしておりました。どうぞすぐ私めに捜索の命を出して下さい」

 ギルはマナドールの隣に立ち、左手を胸に当てた。

「ギルよ。お前の気持ちは嬉しく思うぞ。だが、今お前まで王宮を出て行ってもらっては困るのだ。それに、今回の件は極秘裏に解決せねばならない。このような事態をサバラートに悟られる訳にはいかないのだ」

 カセルはギルに対して分かるな、と後押しをし、改めてマナドールに対して話しかける。

「マナドールよ、私はお前の占いを信じている。お前は何かを視たのだろう。そうでなければアセリーナを行かせるとは思えぬ。お前は何を視たのだ?」

「今は、それを申し上げることはできません」

 マナドールはギルをちらと見てから言った。

「ですが、わたくしの水晶には、はっきりと光が見えました。か弱い光ですが、その光が、この世界を覆っている闇に抗うための、ほとんど唯一の、儚い光です」

「マナドールよ。俺の顔に何か付いているか? あなたには育てて頂いた恩義がある。だが、此度のこと、俺は看過できぬぞ」

「下がりなさい、ギル。お前への命は追ってする。部屋で待機していなさい」

「ですが父上! どうして父上は占い師風情を庇うのですか?」

「やめなさい、ギル。マナドール殿は先代より王宮に忠義を尽くしているのですよ」

 アルミナードの言葉は柔らかかったが、王の命令よりも力強さがあった。ギルはマナドールに聞こえる程度の舌打ちをすると、一礼して部屋を辞した。

「それで、お前は何を視たのだ? なぜ、止めなかったのだ?」

「王よ。わたくしは、すべて見ていました。この王宮に起きたことならすべて、です。未来のことは、かすかにしか見えませんし、あるいは、正しくないこともあります。ですが、過去にさかのぼり、起きたことを視ることはできます。彼女が……アセリーナ様が、この度王宮を抜けだしてまで探そうとするものは、すべて過去のある一点にさかのぼります。彼女が未来への光である可能性は、わたくしにも言い切ることはできません。ですが、過去のあれは……、妖精のいたずらだったのです、ジェルは」

 カセルが激高した。

「下がれ!」


 ※※※


「そこまでだ!」

 という大きな声と同時に、周りに集まっていた人が一瞬固まる。刹那、正面の青年とアセリーナは同時に動いた。アセリーナが踵を返し、その最後にとらえた彼の動きは、同じように後ろを向いて走りだそうとした姿だ。彼の意図は分からない。けれど今は、自身の身を隠すことが優先だ。

 アセリーナは疲れた足に鞭打つように走る。集まっていた人たちの間を抜け、さっとあたりを見渡し、中央の広場から伸びている無数の道の一つを選ぶ。それから路地を適当に走り、意識的に奥へと急ぐ。

 途中から走る速度はかなり遅くなったものの、それでも五分ほど。路地裏に少し開いたスペースを見つけ、周りに植えられている大きめ目の木の影に座った。息は乱れ、心臓が激しく打っている。表通りのような灯りはなく、かなり薄暗い。自分が入ってきた側を見るが、追ってくる様子はない。逃げ切れたのだろうか。

 アセリーナが三度、息を整えるために深呼吸をしていると、ガサと音がする。近くだ。緊張し、前後左右を見渡す。

「クォン!」

 すぐにそれは子犬だと分かった。いや、もしかしたら犬じゃないかもしれない。犬によく似た生き物だ。薄暗い中にあっても、毛並みはシルクのように輝いている。ちょうど先ほど見かけた二人組の、銀の髪の毛を思い出した。と、同時に、もう一人の肩に乗っていた子犬を思い出す。もしかしたら、あの犬じゃないだろうか?

「あら、お前、もしかして……」

「クォン!」

 鳴いているが大きな声じゃない。フサフサのしっぽが嬉しそうにパタパタと揺れている。同じようにフサフサの首筋にアセリーナは手を伸ばす。柔らかな感覚はそれだけで癒やしだ。その艶やかな毛並みに比べ、なんと自分の腕の汚れていることか。予定ではセイラーについて、宿を見つけて、この時間には綺麗さっぱり汚れを落としていたはずだというのに。けれど、今のこの状況にも意味があるのかもしれない。

「すいません」

 その子犬をあやしていたせいで、アセリーナは自分に近づいていた存在に気がつくのが遅れた。はっとして顔を上げる。銀の髪に、その端正な顔はまるでビスクドールのような美しさだ。

「あっ」

 と、アセリーナはつい声に出してしまう。彼女かと思ったが、すいません、という声は低く男性のものだった。彼の後ろには二メートルを越える巨体の戦士だ。その巨体の戦士が、さらに低い声で、クォ、と呼ぶと、アセリーナのあやしていた犬は同じように一声鳴くと、彼の肩に駆け上った。

「あら、やっぱりあなたたちでしたのね」

 アセリーナは立ち上がり、顔を傾ける。そう答えたものの、よく考えるとおかしな返事だ。アセリーナの反応に驚いたのか、背の小さな、と言ってもアセリーナよりも上背のある彼が、髪同様に銀色の瞳をぱちくりする。

「あの、知り合い、でしたか?」

 知り合いではない。けれど、セイラーでのこの出会いは意味があるに違いない。アセリーナはフードを取った。それに合わせて、ローブに隠れていた三つ編みも表に出す。一度にこりと笑って見せてから、子犬に目をやる。

「その犬はクォと呼ぶんですの?」

「ええ、変わった名前でしょ? 鳴き声から取ったみたいなんですが。それよりも、わたしたちのことを知っているのですか?」

 顔を見せたのだから、もし知り合いじゃないのなら相手にも分かるはずだが、通じなかったようだ。アセリーナは再び顔を傾けると、先ほどたまたま見かけたことを告げる。

「そうだわ。それで確かあの時、ほら、酔っぱらい風の男性が倒れてきたでしょう? その時、何かを盗られたように見受けられたんですが」

「何か?」

 彼はそう言いながら、鎧や服の内側をまさぐる。途中で見る見るその表情が変わっていく。

「あれ? ない、ないぞ……財布が、ない!」

 相当焦った様子で彼は服を探しているが、その奥で我関せずという態度で肩のクォをあやしている巨漢を見ていると、あまりにも二人の様子がアンバランスに思えて笑えてくる。

「いてっ」

 ポンと彼の頭に何かが辺り、地面に落ちた。それはまさに彼の財布であり、簡単な革袋のようなポーチだ。驚きつつそれを彼が拾うと、ちょっとした空き地の入り口からまた別の声が聞こえた。

「それ返すよ。大して入っていなかったしな」

 そこには先程の青年が立っていた。


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