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白詰草の首冠  作者: 輪回道
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プロローグ


 大好きな祖父が亡くなったのは二年前の事だった。

 

 死因は老衰。かかりつけの医者が言うには、最後は自分の住む洋館の寝室でほほえみながら眠るように亡くなったらしい。私はその時期はまだ父の強い勧めで入った自衛隊に所属していて、勤務日で立ち会えなかった。死ぬ日の数日前に姉弟と一緒にでかけた時の元気そうな祖父の顔は今でも覚えている。

 祖父はちょっとしたお金持ちだった。優しさと厳しさを持つ朗らかな祖父は人脈も広く、海外の友人も多かった。会うたびに友人やお客さんたちのおかげだとはにかみながら言っていた。

 小さい頃、大きな窓からシロツメクサと一本の金木犀きんもくせいが咲き乱れる中庭の見えるリビングで木製のアンティークの丸テーブルとイスに私と祖父、姉の二人で向かい合って腰掛け、祖父の淹れた紅茶と小皿に盛られカットされた甘い洋梨を食べながら何の仕事をしているのか聞いたことがあった。すると祖父はわざとらしく周りをキョロキョロと見渡して私と姉に顔を寄せ、眼をキラキラさせながら小声で言った。

 

「表向きは宿屋なんだけどね、実は私は魔法使いなんだ。やってくるお客さんに薬やまじないをほどこして手助けをするお仕事をしているんだよ」

 

一見ふざけたような、信じられないようなその答えに姉は胡散臭そうに顔をしかめていたが、私は目を輝かせて信じた。祖父の家には古い本が沢山あったし、見たことの無い草や花に使い込まれた試験管やフラスコが置かれていたからだろう。

 

 それからも姉は勉強に、弟は部活に取り組む中、私は中学や高校に上がっても祖父の家に通った。祖父の家にはあと一人住んでいたヒトがいた。でも何故か上手く思い出せない。祖父の小さな畑で、その誰かと育てている薬草や花、野菜に水をやったり、夜に中庭で星空を眺めたり、祖父と誰かが魔法の薬や物を作るところを眺めたり、三人で森の奥にある綺麗で静かな湖でピクニックをしたり、祖父と誰かとの思い出は溢れるほど沢山あった。

 

なのに、私は祖父とあともう一人の誰かを思い出せなかった。鮮明に、はっきりと覚えているはずなのに、思い出せない。大切な誰かを。

 

 そんな少しの違和感と懐かしさを抱えたまま、祖父の三回忌の日を迎えた。そしてその日、その違和感の答えは突然現れた。

 

 

 

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