狩りの時間
短めです。
あああああ!
なんと甘美な! どんな麻薬でもここまでハイになることなんてなかった。
これが契約! これが可能性!
血の臭いを嗅ぎつけて向かうとなんと幸運なことか!
俺の体には魔力が溢れでんと充溢している。まるで体が生まれ変わったようだ。
いや、現に俺の悪魔としての格が上がっている。ただ一つの契約でここまで格が上がることは珍しい。希有と言っても良いだろう。
俺の格は下級から中級に変貌している。兵士長から騎士へ。
俺が初めて契約した奴は相当な可能性を秘めていたらしい。
まあ、いい。
せっかく得た力だ。ここは存分に試させて貰おう。
野盗達は俺の姿を見ると散り散りに慌てて逃げ出している。
この村はそこまで広くない。来た道を引き返して柵を越えて森に逃げるか、それとも村の家屋の方に逃げるかだ。契約者が野盗を引き留めていた分、村人たちは何とか逃げ出している。どうやら俺の契約者はお人好しらしい。自分が命をかけて守るから村の男達にも逃げ出せと言っていた。
とりあえずは森へと逃げた奴を追いかける。追いつくのは一瞬だった。それを真上から爪でひと撫で。
ビシャリと血と肉が飛び散って弾けた。砲弾のような一撃。
続いて村の柵を越えて森に逃げようとしている男二人。
腕を掲げて、魔力を手のひらに集中させる。虚空に黒い銃弾のようなものが浮かび上がる。イメージは使い慣れた銃。そのトリガーを引く。
黒い銃弾は真っ直ぐに飛び、柵を昇っていた男の頭を爆砕させる。100ヤードすら離れていない人間のピンショットなど造作もない。立て続けに三点バーストでもう一人も血の海に沈めた。
のこり三人。奴らは家屋に隠れた。
俺の聴覚は人間だった頃よりも断然高感度だ。どこに隠れようとも場所は分かっている。
さあ楽しい狩りの時間だ。
俺が残りの三人を挽肉に変えた後、なんとか血の猛りがおさまった。村の広場にもどるとお人好しはぼんやりと片膝を立てて俺を見ていた。端正な顔立ちでまだ十代半ば。童顔を考慮すれば18歳といったところか。
俺が近づくと彼は口を重そうに開いた。
「助かったよ」
おいおい。悪魔に礼を言うなんてやっぱりお人好しだな。
今俺の顔は酷いことになっている。返り血で顔がまだら色だし、爪にはべったりと肉片もこびりついている。それに俺は人間の体ではない。山羊とのハーフみたいなものだ。顔だけは人間だけど。
まぁ地獄に仏っていうこともある。俺の契約者がたまたま善人でよかった。魂の契約は無垢で若いほどより可能性を取り込める。まっさらな奴のほうが色々できるってことだな。
ん?
ちょっと契約者の顔色が悪い。月明かりの感じもあるが、青ざめている。
「大丈夫か?」
俺が聞くと奴は苦笑する。
「ごめん。ちょっと大丈夫じゃないかもしれない。毒が・・・」
と言いつつドサリと倒れ込む。
やばい。契約そうそう死なれては俺が困る。
俺は彼を担いでこの村で一番大きな家、というか宿に駆け込んだ。