エピローグ
騒動から数週間後。パソコンに向かった拓哉と杏子は、システムのチェックを行っていた。
「あんこちゃん、こっちは準備おっけーだよ」
拓哉は最終チェックを済ませると、キーを叩いて椅子に身を任せた。
「こっちも大丈夫、それじゃあビデオ通話始めるね」
杏子はズレた眼鏡を指でなおすと、タブレットを掴んで秋人に向けた。
画面には線の長さを調整する五十嵐が映り、その奥では助手らしき男が作業を進めている。
「それにしても、秋人もたまにはいいこと言うわよね」
「たまには余計だろ」
秋人と小夜莉は自ら指に線を繋ぐと、ベッドにもたれ、画面に映る五十嵐を眺めていた。。
「凛ちゃんも一緒にインさせるなんて、すごくいいアイディアだよ」
「うんうん、秋人くんナイス!」
「ったく、お前らまでそんなこと言うのか……俺はただ、完成してなくても凛と一緒に遊べたらいいなって思っただけだよ。病院からログイン出来れば、わざわざここに来なくてもいいしな」
「今は僕らだけでも十分操作出来るしね。おじいさんは凛ちゃんに集中出来るから安心だよ」
「おーいじじい、こっちは準備出来たぞー」
秋人が五十嵐に催促すると、画面からは心配そうな凛の声が聴こえた。
『せんせい、これでいいのかな?』
画面には線を繋いでベッドに座る凛が映り、五十嵐と助手は忙しそうに機器を触っていた。
『うむ、これでこっちも完了じゃ。拓哉、始めてくれ』
「了解しました、それじゃあ秋人、こよちゃん。よろしくね」
「うし! 待ってろよ凛!」
「あんこ、私から送って」
「おい小夜莉ずるいぞ! 凛を迎えるのは俺だからな!」
「うるさいわねー、あんた後から来なさいよ。私が凛ちゃんを案内するんだから!」
同時にベッドに横になった二人は、枕に頭を預けながら、早々に口喧嘩を始めていた。
「はいはい、二人一緒にログインさせますからねー」
杏子は膝の上のミケを撫でながら、片手でキーボードを操作して二人をUFOへと送った。
その瞬間。指に僅かな電気が走ると、リンクした三人は眠るように意識を失った。
凛の目には色鮮やかな光の群れが映し出され、軽くなった体は輝きの中で浮かんでいた。
『わあ!』
初めて感じる自由な感覚、凛は思わず両手を広げ、光の先へ進もうとした。
コネクトの文字が始まりを告げるかのように明滅し、まばゆい光が凛を優しく包み込んだ。
「よし、行くぞ。俺たちの未完成オンラインへ!」
未だ出来上がっていない未完成な世界。
オンラインゲームの作業は果てしなく長く、この先も困難は続くやも知れない。
それでも皆が手を取り合い、目標に向かって走り続ければ。
ゲームが完成する日も、そう遠くないのかもしれない。
完。