08 試験再開~戦う前からもう瀕死~
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はい、みなさんどうもこんにちは。もうすぐ迷宮探索のお時間です。
今回は実技試験の追試ということになり、その達成目的は……、記憶が飛んでいるので「たぶん」としか言いようがありませんが、以前と同様に「迷宮内で探索行為を行い、かつ生還する」こととなっております。ほんとこの学園、サバイバルですね。
そしてご紹介いたしましょう。すでに合格して権利のないゼルに代わってパーティに入っていただいた方たちは、こちら。
「……はぁ。なんでわたし、こんなところに居るんでしょうね……」
まず一人。ティル姉ぇ直属の右腕。暗殺ヒーラーこと桜色の修道女、羊人族のリーゼロッテ嬢でございます。本日はティル姉ぇの勅令を受けてパーティに参加していただくことと相なりました。
ちなみに本来彼女が組むはずだった方たちからは、治療術士を横取りされた恨みがなぜか俺の方へとビシビシ飛んで来ております、はい。靴に画鋲とか、頭上に黒板消しとか。
ええ、相手女子だったもんで現在大変肩身が狭いです。でも俺とティル姉ぇだったら確実に俺を選びますよね。わかっていますとも。代わりに俺がしっかり恨んでおきますから。……まあ、ふつーに返り討ちに遭いますけどね。
……そしてもう一人。
「……あ、あの……私、やっぱり……」
激しい追いかけっこの末にどうにか捕獲した、小動物系銃使いのレヌエットさんです。
後始末を忘れてうっかり試験直後にティル姉ぇにシメられたりもしましたが、どうにかこうにかパーティに入ることを了承していただけました。今現在は、ちょっと目を離したスキに脱走したりしないかと戦々恐々の心持ちでいたりします。
以上二名。俺を含めて三名での迷宮探索です。
内訳は、留年間近の格闘家に、やる気ゼロのヒーラー、友軍誤射の実績を持つ小動物系銃使いと……。
これが死亡フラグ以外のなにに見えると言うのかッ!!?
……失礼、取り乱しました。
たぶん今日も死ぬんだろうなー、などと考えてしまう今日この頃です。まあ、仮死どころか本気で死ぬのはさすがにお断りですので、ちょっと今回は気合を入れて行ってみようかと思っています。
「……オメェも楽に生きられねェタイプだよなァ」
「…………まぁね」
一応わざわざ見送りに出てきてくれたゼルが、現在の我がパーティの現状――いやむしろ惨状と言ってもいい状況を目にして呆れた風に感想を漏らしてくれる。
俺も俺で、いつまでも辛気臭くはやってられないところなので、前髪を後ろに撫で付けて取り寄せたばかりの「のっぺらぼう」の仮面を顔に押し付け、バンドを後ろに回して固定する。
黒のロングコートをバサリと翻して身に纏い、耐熱性のある軍手で拳を引き締め、コートに付属のフードを目深に被ったら、さあ完成。
どこからどう見てもホラー風味な不審者です。うっかり通報されてもとても文句は言えません。……その代わり泣きますけどね。もぐらのバカヤロー。
「とりあえずロッテちゃん、レヌエットさん。今日は手を貸してくれてどうもありがとう」
「いえ、普通に怖いですので頭を上げてください。むしろ近寄らないでくださると大変嬉しいです」
真摯に感謝の意を伝えただけのはずなのに、ロッテちゃんにはどキッパリと言い切られ、レヌエットさんにはジリジリと距離を置かれて実はちょっぴり傷ついたのは内緒だ。ティル姉ぇのアホンダラー。
「えー、なんと言ったらって感じだけど、見ての通り、即席のパーティなんだよね。……ロッテちゃん、リーダー役――」
「リヒトさんにお任せいたします」
みなまで言わせず投げ返してくるロッテ嬢。
ですよね。ええ、わかってましたとも。一応聞いてみただけです。
「……レヌエットさんは……」
「……む、無理、です……」
……でしょうね。こっちもわかっちゃいましたけどねー。
「俺、デュアルリッパーに騒音効果あるんだよなー。どーしたもんか」
「…………はぁ。仕方ありませんね。戦闘中だけという条件でわたしが受け持ちましょう」
どうせなら常時リーダーやっていただきたいところだが、まあ、文句を言えた義理なんてまったくない。ありがたく申し出を受けることにして、基本、探索時は俺、戦闘時はロッテちゃんが指揮を取るという妙なパーティ方針が固まりました。
「……じゃあ、とりあえず改めての戦力確認をかねて自己紹介からでも。
俺はAクラスのリヒト。前衛を受け持つことになる格闘系例外です。もう二人とも知ってるかとは思うけど、使用する武器は『双拳回転刃』。破壊力だけならピカイチだけど、その引き換えに騒音効果があって指揮をまともに受けられないし、挑発効果まであるせいで盾のひとつも装備できないのに無条件で壁役――」
「最悪ですね」
最後まで言わせずに端的に俺のリッパーを評価してくれたロッテ嬢でございました。……これでもオトリ役ぐらいにはなれるんですよ?
「同じく1st Aクラスのリーゼロッテ・アウルです。この度は我が師、ティルトリーテ・リゼッタ教諭の勅命を受け、及ばずながら末席に参加させていただくことと相成りました。
探索時には周辺警戒、戦闘時においては治癒、解毒、肉体強化の生命魔術による後方支援を担当させていただきます。いまだ修行中の身の上。至らぬところは多々あるかと思いますが、どうぞよしなにお願い申し上げます」
「いやいや硬いって、ロッテちゃん。一応同級生なんだから」
……少なくとも、「まだ」な。もっとも、落第する気はさらさらないが。
「……あ、あの……1st Cクラスの、レヌエット・フルーテ、です。銃使いで……、後方支援します。
使用する武器は試作銃器『フルメタルバレットMP05』。三点バースト機能もあって、全弾発射での射撃もできます」
…………ん?
「装弾数はカートリッジ一本で計二十発。これがフルオート時の最大弾数になります。予備カートリッジは四本まで携帯しています。それと左手には『リローダー』のスキルを入れていますので弾薬補給を使えば最大射撃は二百発まで可能です」
――ちょ、なんだこのムダな饒舌さは!? 今までの小動物な彼女のイメージが言葉の濁流に呑み込まれて……。
「また、フルメタルバレットMP05は魔法銃となっていますので魔力を込めることで大地属性の魔力弾を撃つことが可能となっています。ただしマナを属性弾に割り振るとバレット・リローディングに割ける分が減ってしまいますので要注意願います。それと…………」
………………。
以降ミスリル合金製のなにやらがどうとか、魔法水晶がどうたらこうたらとか、素人にはさっぱりよくわからない説明を延々と続けてくださったので、仕方なしにさっくりと切り捨てる俺とロッテちゃん……と、ついでにゼル。
どうにも彼女、銃が絡むと饒舌になるクチっぽいね、こりゃ。明らかに酒が入るとマズイタイプだ。絡み酒間違いなし。
しかし普段の彼女の姿を思い浮かべれば、逃げに走るのを承知の上で一言「黙れ」と切り捨てるわけにもいかず、結局俺たち三人(途中からゼル離脱)はその後も楽しそうに銃の話題で語り続けるレヌエットさんを、死んだ魚の目で見守り続けることとなった。
……うむ。ぶっちゃけ戦う前からもう瀕死さ。主に精神的に。