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才能付与の迷宮~Enchantment Labyrinth~  作者: 折れた筆
学園迷宮編 第一幕
7/106

06 武器回収~小遣い足りるかな~



 バタリと音を立てて閉じる学長室への扉を背に、軽いため息をつく。

 先ほど再試験の辞退を表明した女子生徒についてはとりあえず保留。学長からは、「探索試験三日目の終了までに決めればいい」とのお言葉をいただいて、くだんの女子生徒は部屋を退出した。


 とはいえ、あの学長、うっかりお人よしに見えて意外と容赦もなかったりする。

 続いて退出しようとした俺に対しては、一言「君はまちたまえ、リヒト君」と引き止められ、その後、掃除用具を押し付けられて俺がこぼしたお茶の始末をさせられることとなった。

 まあ、当然と言えば当然なんだろうけど……、なぜなのかな? 『アイロンがけ』に続いて『染み抜き』といういらない家事スキルをムダに習熟してしまった気がするんだが。

 ……ティル姉ぇといい、もぐら派の人間は人に余計なスキルを覚えさせるのが基本事項なんだろうか? 俺もロッテちゃんのこと言えたもんじゃないな。

 方や投擲や気配察知を得意とする暗殺ヒーラーに、こっちはこっちでただいま家事スキル絶賛習得中のスプラッタ・ホラー的格闘家。

 あの子もあの子でたいがいだが、俺も俺で一体どこへと向かってるんだろう?



 そんなこんなでとりあえず、掃除のご褒美なのかどうかは知らないが、退出の前に学長が持っていた俺のカードをいただいて、



 +(Item Get!)+

・重要アイテム『プロフィールカード』



 部屋を出た今、自分の現ステータスを確認でもしてみようかと――、


「あ、あの……」


 思ったところで先に退出したはずの女子生徒に声をかけられ、カードを胸ポケットに落とし込んだ。


「レヌエットさん、だっけ? もしかして待っててくれたの?」

「いえ、あの……その……少し、気になって」

「そっか。ありがとう」


 ……そりゃ、まあ、いや。おもわず泣いちゃったからね。正直恥ずいし、さくっとスルーしとこう。


「でも気にするほどのことじゃなかったよ? ただ単に掃除させられただけだしね」


 そういやこの娘もなんだかんだでいっぱいいっぱいだろうに。

 いやむしろ、そう悪い子じゃないから友軍誤射フレンドリーファイアの件を引きずって再試験辞退したのか。


「いえ、あの……武器……あなたの……」

「武器? 俺の? リッパーのこと?」


 こくこくと無言で頷いて肯定を示す彼女。はて? なんで俺のリッパーのことなんか気にしてるんだろう、この娘? まあ、すぐにでも回収に行くつもりだったけど。


「うん、まあ、アレも一応レアモノだし、これから取りに行くつもり――「私もついて行ってかまいませんか!?」


 こちらの言葉尻を飲み込み、勢い込んでかぶせてきた彼女に気圧されて思わず仰け反る。なんだ? なんなんだ一体??


「そ、そりゃ別にかまわないけど……」


 若干怯み気味に許可を出すと、彼女も彼女で自分の勢いに気付いたのか、小さく声を漏らしてササッと距離を置いてから廊下の端に寄り、そのまま先に行くようこちらの行動を促してくる。


「え、えーと……?」


 困惑気味に「それでいいの?」と問いかけてみるも「どうぞお気になさらず」とまったくの無意味。

 もはや仕方なしにプチストーカーと化した同学年の女子生徒を引き連れて、自分の武器を回収してくれたらしい友人の姿を求め、構内を練り歩くことと相成った。






 ……Now Loading.


「やあゼル。学長からキミが俺のデュアルリッパーを回収してくれたって聞いたんだけど、今あるかな?」


 昼時ということもあってたぶんあそこかと思ったところ、ズバリ的中して食堂の一角にて厚手の焼肉を食いちぎっていた「ゼル」ことゼルキュール・アーネス(16)。

 職業は大剣使い(ブレイド)。主に両手剣の扱いを得意とし、種族特性の機敏さと186cmの長身を生かし、敵陣中央に飛び込んで暴れまわる戦法を好んで使う赤毛のオオカミくんこと、遺伝指数七割以上の狼人種。ちなみにロッテちゃんは遺伝指数が二割程度の羊人種。


 毛皮の上から茶革のジャケット一枚を羽織り、下は動きやすいようにスリットを入れたダメージジーンズから動物的な逆間接を覗かせ、ベルトからは鎖をジャラジャラ。

 好物は当然のように肉。ちょくちょく口のに骨をくわえてピコピコ振り回している姿を見せることも多く、たまにポテチ代わりにドッグフードをつまんでいたりもする。

 また、毛皮は赤く、針のようにあちこち尖っている上、牙も鋭利。口の端にくわえた骨はたまに「ゴキリ」と人目も気にせず唐突に噛み砕いたりするので見た目はやたらと凶悪なオオカミさんをしているのだが、その割りに実は気のイイヤツだったりする。


「あん? ああ、アレな。今寮に置いてあっから後で取りにこいよ。てかオメェ、ちったァ感謝しとけよな? あのしちめんどくせェ状況で忘れずに回収してやったんだからよォ」

「ああ、うん。そりゃもちろん」


 実際にはまったくこれっぽっちも覚えていないのだけど、それとこれとは別問題。「記憶がない」が、イコールで「感謝しない」とはなり得ないものだよね。うん。

 ちなみに遺伝指数が高い者ほど声帯などの人間的な器官が動物に近くなる者が多く、ゼルの場合はオオカミとも会話が出来るぷちバイリンガル。……まあ、多少語尾にオオカミ的な唸り声が混じったりもしていたりするんだが、そこも愛嬌という感じでどうかひとつ。


「正直『少しは』程度の感謝な気分じゃなかったからねー。すぐには無理だと思うけどお返し『くじら』でどうかな? 今度見かけたら買っとくつもり」

「乗った」


 交渉成立。実は人一人分ならそれほど高いシロモノというわけでもなかったりするのだが、そこはさすがの「くじら」、あの巨体。

 祭りの出物としてくじらの解体ショーが行われたりすることも多々あり、「きょう」の一品としては名が通った肉だったりするのだ。

 まあ、それはそれとして、これで暴力保険医の出番は当分ない!


「んだが、まァ、オメェアレでよく生きてたもんだよなァ。ふつー死んだろ、ありゃァ」

「あ。予想はしてたけど、やっぱそんなヤバかったの? 実は記憶飛んじゃってて、試験の記憶まったくなくってさぁ」


 脳天にぷっすり角が突き刺さってりゃ、そりゃだれだって死んだと思うよ、うん。むしろ生きてる方が人外だって。ねぇ?


「はー、記憶がねーェ。ま、しゃーねーんじゃねーの? つーか脳天にソ――ッ!?」


 ふと会話の途中でなにか――それこそ幽霊かなにかの存在にでも気付いたかのように硬直する彼。……「そ」?


「……ゼル?」

「………………いや、なんでもねェ。気にスンナ。つーかオメェ、結局試験どーなったんだよ?」




「………………落ちた」


 顔を背けてぽつりと漏らす俺。

 ひとつため息をこぼして気分を入れ替える。


「でもまあ、運よく追試を受けられることになってね。ゼルの方はどうだったのかな? まさか巻き添え食って一緒に落ちてたり……」

「いやァ、ェ。ェッて。さすがにオレまであんな面白おかしいくたばり方はしちャいねェッて」


 お、面白おかしいって……。そりゃ手助けに入ろうとしてプスリとやられたのかと思えば我ながら情けなくも思うけどさ……。それでももーちょっと言い方ってもんが――あ。


「俺の仮面!」

「割れたぜ。まっぷたつ」

「――ぐはっ!?」


 基本的に仮面系の防具ってなかなか売ってないんだよ。

 そりゃぁ趣味が悪いとかさんざん言われたりもしたけど、あのスマイルフェイスの仮面だってわざわざ購買のおば――失礼、おねーさん(29歳独身)に取り寄せてもらった思い入れの品で……って、言ってる場合じゃないか。


「やば。さっさと購買行って注文しとかないと、最終日までに間に合わないかも」

「……おいおィ、あんなもん用意すんのに二日もかかんのかよ……?」


 あんなもんとは失礼な。


「仕方ないじゃないか。仮面系の防具、売ってないんだから」

「おー、やだやだ。イレギュラーなヤツァ大変だねェ。……つーかオメェ、オレ以外に当てァあんのかよ?」

「……は?」


 当て? ゼル以外の当てって一体なんの話だ?


「は? じゃねェよ。メンツだよメンツ。パーティ組めねェと門前払いだぜェ、オイ」

「――!!?」


 今明かされる驚愕の事実。

 たしか日程では初日はAクラスが優先的に処理され、クラスでまだ残っているのはおそらく二割か三割。おまけに言われてすぐに思い当たる当てなんて――ハッ!


「――!!!?」


 脳裏に閃いた天啓の命じるがままにゆっくりと振り返ると……いた。


 (にたぁ)/――ビクゥッ!?


「……いや、怖ェよその笑い方」


 観葉植物の影に隠れていた女子生徒をターゲットとして補足し、同時、脱兎の如く逃げだした少女を追うべく、間にあって障害物となっていたイス、テーブルの順に駆けて、お食事中のみなみなさまに大迷惑をかけながらも宙に舞う。


「留年がかかってるんで失礼! ゼル! リッパー、後で取りに行くから!!」


 そしてプチストーカーと化していた少女は、逆転してストーカー返しを受ける羽目となり、リヒト候補生は留年を賭けての本気も本気で女性の尻を追いかけることとなった。




 +(Item Get!)+

・重要アイテム『双拳回転刃デュアルリッパー



 #《Information》♪ 

 『刃回転ブレード・ロール』(回転刃系武器専用・特殊戦闘スキル)

 主にチェーンソー系統の武器にのみ存在する特殊能力に当たり、発動時に攻撃を命中させることによって、使用者本来の攻撃力に刃の回転速度に比例した追加ダメージを加算することができるアクティブスキル。

 ただし強大な破壊力のデメリットとして、警戒される武器の常かスキル発動時には命中率が大幅にダウンし、かつ最重要警戒対象として認識され、スキル『挑発』と同様の効果を発揮。結果、おもいっきりボコられる上にスキル『騒音』効果も付属でついてくるため味方との連携が相当に困難。

 蛇足情報として、攻撃速度が段違いの使い手(例ティルトリーテ保険医)へと成長することで、対象の警戒の上から攻撃を叩き込むことが可能となる。

 無論、攻撃対象に回避する意思がない、もしくは回避そのものが不可能の場合も同様に命中率ダウンの対象外となる。

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