01 発端悪魔~むかしむかし~
むかしむかしあるところに、「智欲の大罪」という名前の罪を背負った、緑の髪に漆黒の瞳を持つ悪魔の少女が産み落とされました。
その悪魔の少女は、この宇宙の始まりから過去・現在・未来の世界、そのすべての知識を記録し使役するという、紡ぎ挑む者にどのような制限を巻いたとしても「神」の領域を要求してしまうという、恐るべき異常性からありとあらゆる紡ぎ手たちに忌み嫌われ、その存在すらも無かった事とされて歴史の闇に封印され、永い時をかけて見ない振りをされ続けていたそうです。
いわゆる完全無視。その可能性はすべての紡ぎ手たちが薄々と知っていたはずなのに、己の無力を直視したくないが故に歴史をまたいで完全忘却。
言うなれば世界と歴史をまたにかけた壮絶なるイジメ。
しかし、そんな宿業を宿した悪魔を封印したからといって、その罪や存在が完全に消え去るわけでもなく、やがてニンゲンという生き物が最初に犯したという罪、知恵の木の実を食してしまったという理由から、罪の名は「智欲」……同じくしてその罪を背負った、名も無きその封印された悪魔の少女は「智欲の大罪」という名前をつけられたそうです。
とても扱いきれぬ神の領域を望まぬはニンゲン。
とはいえ、産み落とされゆく記録の海は、やがて宇宙の真理へと辿り着く。
――それを使いこなす存在が居ると。
結果、かの存在は生まれてすぐに神様の手によって直々に封印を施され、運よく自分の無力を開き直った紡ぎ手の一人によって目覚めることがあろうとも、すぐに「傲慢の大罪ルシファー」という厄介極まりない悪魔に目をつけられたそうです。
いわゆる不運の申し子。
その出自ゆえにつらく苦しい戦いの定めを課せられ、険しい戦いの中で己の力を目覚めさせていく悪魔の少女、智欲の大罪。
そして、彼女が望む、望まざるに関わらず、次々と姿を現す強敵たち。
ふと気付いて振り返れば、彼女の歩いた道には張り叩かれて倒れ付した幾人もの愚者たちのシカバネと、問答無用で襲い掛かったがために灰燼に帰した、千柱にも及ぶ天使たちの墓標が彼女の斃れる時を今か今かと心待ちにしていたそうです。
いわゆる情け無用。
やがて奮戦むなしくも斃れ伏し、再びの眠りに着く智欲の大罪。
彼女の戦いはそこで一時の終わりを迎えたのですが、彼女に与した「傲慢の大罪」の戦いは、そこでは終わることはなかったそうです。
この一件、後に一連の騒動を称して『智欲の大罪騒動』と呼ばれるそれにおいて、完全に漁夫の利を得る形になった傲慢の大罪。
彼女の軍勢は、智欲の大罪に関わり、千にも及ぶ主力を無為に失った天界の勢力へと宣戦布告を行い、侵攻を開始。
戦いの最前線に立つ傲慢の大罪は、「教徒たちに敗北を示唆することまかりならず」という理由から大罪指定を外されて封印された、正義も悪徳をも問わない純粋にして不純なる勝利欲を司る、黄金の魔剣型大罪悪魔、勝利を奪うモノ「覇奪の大罪」を手に神へと至り、互いの魂を削らんばかりの壮絶な殴り合いの果てに、とうとう神の座を奪い取ることに成功してのけたそうです。
そして物語は……終わらない。
生き残った神の軍勢は地下へと潜り、再起の時を虎視眈々と狙いながら、この原因を生み出した傲慢の大罪と……智欲の大罪を恨みに恨んだそうです。
完全に八つ当たりの逆恨みですね。
その後、この急激な歴史の変動と、それに伴う莫大な情報エネルギーの流入を受け、想定よりもはるかに早い復活を果たすこととなる智欲の大罪。
しかしその世界は早すぎた復活と相まって、彼女にとっても大変肩身の狭い生きづらいものとなり、再び繰り返される戦いの連鎖に嫌気の差した彼女は、望まずとも得ることとなった己が眷属たちを引き連れて、傲慢の大罪のドタマに強化狙撃銃で一撃のヘッドショットをお見舞いした後、一路新天地へと向けて飛び立つことと相成ったそうな。
これが、かつてあった物語のあらすじと、その後日談。
むかしむかしあるところに、
智欲の大罪という名の不遇の悪魔がおったそうな。
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→・才能皆無系非平凡学生―リヒト(学園迷宮編)
・死人生産系暴力医師―ティルトリーテ(unknown)
・理不尽最強系幼女師匠―もぐら(unknown)
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……そして時は流れ、世界は新天地。
歳若い学生たちの目線から、迷宮探索時代の物語は幕を開ける。