18 第二階層~これ陰謀だろ?~
……Now Loading.
明けて翌日。
改めて第二階層の探索を開始する。
本日のパーティメンバーは俺、ゼル、ロッテちゃん、レニさんの四人。
パルテとフェルシャのコグマとキツネコンビは今日はお休み。訓練場にこもって自分の武器をモノにするために汗水垂らしてがんばっている。……はずだ。たぶん。きっと。
無論、拒否する理由はない。確実に強くなって帰ってくるからな。
これは武器だけではなく、魔法や戦技にも言えることだが、効率のいい能力の上昇は、まず第一に最低限の知識を得、次いで訓練。
不足分の知識がないか再確認して、また訓練。
後は実際に戦ってみて感覚を磨き、締めにまた訓練に没頭して、自分流のスタイルを確立するわけだ。
そして当然ながら上級者に位置する者はここで止まらず、魔法剣とかコンビネーションとかいろいろやっていくわけなのだが…、まあ、それはまた追々でいいだろう。今考えてもむなしいだけだからな! 材料不足で答えが出ない時は考えないに限る!
「そういやゼル、レベル上がった?」
「ん? あァ。今レベル8だな。つい昨日大剣技がBランクに上がったぜ? つーか、オメェはどうよ?」
「俺? レベルの上昇はないかな。いまだに11で止まってる。ま、こっちも格闘系が上がってるんだけどね。あともう少し上がればAランクってとこ」
ダテに通算三百回以上死に掛けてはいないさ。たとえ凡人だろうと日常的に死の気配に怯えさせられればそのぐらいには成れる。とはいえ、まったく嬉しくはないけどな!
あの人外、魔法を構築できるような余裕を与えてくれるほど甘くはないからな。付け焼刃の魔法なんざ習得しようモンなら、その発動までに容赦も慈悲もなく、サディステッィクかつ若干ホラーテイストな狂笑とともに潰されて、デススコアがムダに増えるだけだ。
…結果的に基礎体術上げる以外に生存確率上げる方法がねぇんだよ。スピード特化の肉体言語形ヒーラーなんてマジ最悪だよな! ――姉弟子が例外すぎて泣けるっ!
「ロッテちゃ――」
「護身術が上がりましたね」
目を背けられて冷たく会話終了。……そっか。君もボコられたんだね、ロッテちゃん。
「レニさん……は、これ以上射撃術上がってたらむしろヘコムから訊かないでおくかね」
「……あの、ごめん、なさい」
謝ってくるレニさんに軽く手を振って「どうってことない」と返す。
あえてEランクの方には口に出して触れないようにしてみたのだが、しかし一瞬の間が開いたせいでなにを考えたのかはモロバレだったようだ。
……さて、軽い雑談とともに仲間のコンディションを確認したところで迷宮探索に戻るとしようか。
「とりあえず第二階層の探索を開始するわけだけど、個人的に今日の目的は大きく分けてふたつ。
ひとつはトレジャーボックスの発見。脱出前のトレジャー回収は基本中の基本だからね。
もうひとつは敵モンスターの戦闘能力を試す。たぶん毛玉っぽいまんじゅうみたいなヤツだったと思うんだけど……」
「『ラピッド・ラビット』ですね。早いだけでこれと言った能力のないモンスターだそうです。……まあ、その早さこそがとんでもない凶器だということは、もはやわたしとリヒトさんには言うまでもないことではありますが……」
……うん、そうだね。
「……あ、あの。お二人の目が、うつろ、なんですけど……」
「血は繋がってなくても兄妹やってんなァ、コイツラ」
まったくもって好きでやってんじゃありませんがね。
ちなみに俺とロッテちゃんは兄妹弟子の間柄じゃなく、言うなれば叔父と姪弟子の関係なんだぞ?
俺とティル姉ぇがもぐらを親とする姉弟弟子の間柄で、ロッテちゃんはティル姉ぇの直弟子なんだからな。
「……ま、まあ、そんな感じで付近の探索から始めていこうかと思ってるんだけど、なにか別に意見があったら聞くよ?」
と、促してみるが、みなさん特に異論はないご様子。
というわけで行動を開始。
非常口の結界柱に各自のプロフカードを押し当てて通過し、第二階層の大回廊を往く。
さあ、マッピング開始だ。
結界柱の改札? にあたるヤツを抜けて歩く大回廊の先、正面には、ここへと降りて来た第一階層行きの大階段。
その階段の左右に、階段の裏側へと進むように直角に曲がって奥へと続いていく通常の幅の道がある。まずはここからだ。
「とりあえず、右行ってみようか?」
どっち選んでもかまわないなら、とりあえず右が俺のスタンス。
そして、少し行ってすぐに十字路に行き当たった。位置的に階段のすぐ裏側。左を見ると、同じような十字路が見受けられる。
「つまり、どっちへ曲がっても大差なかったんですね」
自身も書き書きと指を動かしながらロッテちゃんがつぶやく。
……だが、どうやらこの階層は、その「大差のなさ」こそが一番厄介な敵となるらしい。
「……これ……もしかして……」
「デザインしたヤツァ性格悪ィな、オイ」
左に十字路……右に十字路、正面にも十字路。
おそらく少し進めば「後ろにも十字路」と十字路包囲網が完成するのだろう。
左右は対象、見える限り道幅や距離感はすべて一定。実にイヤらしい。
「おや? あれは……?」
全員がその光景に唖然とする中、ロッテちゃんが目ざとく階段裏に嵌め込まれた掲示板を見つけた。
『迷宮デザインは初級者用に調整済みです♪
正解は三十九分の一となっていますので探索がんばってください。
一歩ずつ確実に進むことの大切さを学んでくだされば幸いです。
by 迷宮管理人もぐら』
も、もぐら……ここで出てくるか。
「……もぐらって言やァ、アレか? オメェがそいつを譲ってもらったっつゥ……」
ゼルが俺のデュアルリッパーを指しながらのたまう。さすがにちょっとした関係を説明したことぐらいはあった。
ティル姉ぇとの関係はもぐらなしには語れるようなモンじゃない。いわゆるところのハードフル・ラフストーリー。……厳しすぎる荒っぽい物語だ。濁点の位置がひとつ移り変わるだけで、こんなにも無情と切なさを感じる言葉も他にはない。
「ああ、うん。探索者ランキングで不動のナンバーワン。人類貢献度において他に類を見ないほどの最高ランクの存在。他のだれにもできない迷宮の管理を行えるただ一人のハーフエルフと言われている女の子。
ちなみに俺も含めてティル姉ぇと学園長のお師匠さま。聞いた話じゃ戦闘能力でも普通に伝説級の腕前で、『単独での数の暴力において最強』っていう、言葉的に矛盾した殲滅力を持ってるって話だよ。
国ひとつをたった一人で焼き滅ぼしたとか、千の軍勢を一瞬で薙ぎ払ったとか、拳の一振りで世界を割るとか……」
「んだよそれ。うさんくせェな……」
いや、ぶっちゃけ俺のそう思うんだけどね。
「ゼルキュールさん、もぐらさまをバカにするとお師匠さまに殺されちゃいますよ? ほんと冗談抜きで」
「――う」
さすがにティル姉ぇのオシオキはイヤだったのか、声を詰まらせるゼル。
まあ、そうイヤがらずにこっちへおいでって……。慣れれば三途リバーでの遊泳も楽しいもんさ。麻薬的なお花畑の散策も意外とオツなもんだよ? 別に怖がる必要なんてないさ。だから、さあ、おいで……。おいで親友、おいで……、コッチヘオイデ……。クククククク。
「……はあ、またですか……」
ふと、なぜかとなりで呆れ果てたような声を上げたロッテちゃんが、これまたなぜか俺の手を引き足を払い、後頭部を押さえて顔面――もといのっぺら仮面から掲示板へと叩き付ける。
――ボカァァァン!!
……そしたらなぜか爆発して、のっぺら仮面がこんがりと黒コゲました。
「……ケホ」
「……やはり爆発系の術式が仕込まれていましたか。迷宮内にこんなものが置いてあれば、探索に苛立っただれかが殴りかかってもおかしくはないですしね」
「だからってテメェの兄貴分で試すなよ……」
ゼルのツッコミにレニさんがこくこくと頷いているが、肝心のロッテ嬢はどこ吹く風。そのままスタスタと先に進み、最初に選ばなかった左の道が、その先の十字路にきちんと繋がっていることを確認してマップに書き記した。
「ここからまた右側へ戻るのもムダですね。先に左側を探索するとしましょうか」
……あ、あのー、ロッテさん? 俺、まだピヨリ中で動くに動けないんですけど……?
しかし肝心のロッテさまは壁を背にヘタリ込んだ俺をさらりと無視し、そのままさっさと十字路の方まで足を運んで行ってしまいましたとさ。めでたしめでた――いや、めでたくねぇよ?
閑話休題。
地図の上では現在地は非常口から大階段の左横を周って十字路をさらに左に向かった、その先の十字路。
右を見れば当然のごとくさらなる十字路が目に見えているが、正面はどうやら行き止まりの袋小路。
左側には、こうなるともう視覚的にありがたいことに、これまた左側の壁に扉が見えていた。
全員で扉を開けて中に入れば、そこは宝箱を設置された小部屋。これで目的のひとつは達成だな。
マップ的には、奥の壁を「破れれば」大階段横の通路に直結する構図のため、トレジャー回収的な意味でも大変ありがたい感じだ。
この場でトレジャー回収に勤しむべきかどうか、少々悩むところではあったが、結局は当初の目的の第二項、敵戦力の分析が完了していない状況のため、話し合った末、回収は後回しにすることになった。……非常口近いしね。
そして先ほどの十字路(二つ目)へと戻り、左に袋小路を確認した後、その先の十字路へと歩を進める。
今度も左側は袋小路。正面および右側は十字路の構成だ。
「……ある程度は見えてきた、かな?」
この階層は、おそらく十字路と正方形の空間のみで、きっちりと隙間なく構成されているっぽい雰囲気だ。
「ですね。一応、右に一列分様子を見てみましょう。下手に奥に進むと離脱が困難になりそうですし……」
当然、ロッテちゃんからのこの意見に異は出ない。ご意見通りに現十字路を右へと進み、先ふたつの十字路を真っ直ぐに進んで横一列分のマップを埋める。
やはり予想通りに正面には袋小路が現れたが……、そこで違和感を覚えた。
「……扉が、無い……?」
それに最初に気付いたのはレニさんだった。
彼女は通過してきた十字路のひとつ目で違和感を感じたのか、ふたつ目の通過時で声を漏らし、最後――今のこの場だ。ここ三つ目の十字路で皆にも確信させるに至った。
「……ひょっとして……?」
ふと思いついて袋小路を奥に進み、特に気にせず右の壁を手甲でノックする。
……あ。なんか、やっぱり音が空洞っぽいんですけど。
「あー、隠し部屋だァな、コリャ」
現在、マップの上で書き上がった――いや、書き上がってしまった正方形は全部で六つ。
内ひとつは宝箱の設置部屋で扉もあったが、他の五つは完全に出入り口が見つからずに、図面が正方形と化している。
この、今俺がノックした空間――まだ最後の一辺が確認されていない未完成な状態だが……、これもおそらくは出入り口なしの正方形で地図上には表示されることになると思われる。
「……どう思う?」
「どうもなにも、隠し扉の類でしょうね」
「だァな」
「……私も、そう、思います……」
満場一致か。……と、思ったら、ロッテさまからさらに嫌気が差しそうな情報が降っていらっしゃいました。
「『正解は三十九分の一』……。ということはつまり、このマップ構成から考えて、このフロアは『五×八の方眼状』? 『一歩ずつ』と表現されるのなら、一気にマップを埋めるのは……。
……もしかして、ほとんどすべてが隠し扉……?」
「うへぇ」
ロッテちゃんの辿り着いたそのイヤぁな結論に、その場に居た全員が苦虫を噛み潰したような表情をする。
これ、どう考えても最悪の陰謀だろ? 第一階層も第一階層でモンスターパニック誘発型とやたらと陰険な構造になっていやがったけど、この第二階層も陰険さでは負けてないな。なにせマッピングをおろそかにするヤツは確実に迷うだろうことが目に見えている。
方向感覚が狂わされて、すでに調べたはずの部屋をもう一度調べ直す羽目に陥ったり、そもそも出口に向かっているつもりで奥へと進んでたりしたら最悪も最悪だ。
詰まるところ、このフロアはマップを自分で作らないヤツほど死にやすくなるように構築されているわけだ。
「……と、なれば……『ある』な。迂闊に奥に進めば死にかねないようなナニカが、ゼッタイに……」
「……察するに正解の部屋は奥の五つ――いえ、十個の部屋の内のどれか、でしょうね」
あー、イヤだイヤだ。想像するだに気が滅入るな。
「せめてもの救いは、隠し扉があることだけは確定してるってことだけか」
「……なにも知らずに、奥へ、進めば……」
「まあ、死ぬわなァ」
「陰険極まりないですね……」
だれだよ、この迷宮作ったヤツぁ? ……あ。もぐらだ。
「……はぁ。……ロッテちゃん、君の意見は?」
陰険は陰険。……だが、突破口がまったくないわけではないはずだ。
「わたしですか? ……そうですね。最後の一文『一歩ずつ確実に進むことの大切さを学んでくだされば幸いです』というところが気になりますね」
「あん? そりゃそーだろよ。片っ端から部屋開けて行きゃいつかは正解に辿り着かァな」
「いえ、そうではなく」
そこでロッテちゃんの意図を読み取れた俺。思わず指をパチンと鳴らして聞いてみる。
「――隠し扉のデータを片っ端からかき集めていけば、正解の扉にどんな仕組みが成されているのかわかるってわけか!」
我が意を得たりと微笑むロッテちゃんおよび、「おおー」と声を出して喜ぶゼルにレニさん。
そこまでこのフロアの裏を読み、意気揚々と隠し扉の発見に取り掛かる俺たちだった……のだが、
――ハッ、んなもん素人にわかるモンかよ、バッカ野郎ッ!
+(Item Get!)+
・下級ポーション×3(累計24)・投擲用フック×4(累計6)
・ロープ×3(累計5)・煙玉×5(累計7)
・魔法の万能キー×2(累計3)・銅貨10枚(計6060G)