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才能付与の迷宮~Enchantment Labyrinth~  作者: 折れた筆
学園迷宮編 第一幕
18/106

17 再度一階~地道な作業だな~

 ……Now Loading.


 さて、熊系獣人種のパルテ・S・フォレストと、同じく狐系獣人種のフェルシャ・ヘッケルトという新しい顔ぶれが参入し、意気揚々と侵攻可能となったばかりの第二階層へ潜るのかと思いきや、実際のところはそうでもなかったりする。


 場所は再び、第一階層入り口の大回廊である。

 この第一階層には、まだやり残したことがひとつだけ残っているのだ。


「これ、想像していたのよりもめんどくさそうですね……」

「――チッ、やりづれェな……」

「……あ。大回廊、幅、三倍だった……」

「あーん、また線がずれちゃったよー」

「……パル。ここ、距離も微妙にずれてる。後で響いてくるから注意して。」


 そう……。マッピング作業だ。


 世の中、自分が歩いた場所を自動で書き記してくれる便利な機能もどっかにあるらしいが、少なくともこの学園ではそうはいかない。

「いざという時、自力で脱出できる程度のマップ作成能力を身につける」という理由から、第二学年の生徒が第三学年に昇級するための試験の一環として、迷宮の九割以上のマップ作成を義務付けられているのだ。

 ……ちなみに、プロフィールカードから投影される電子すくりーんとやらに自力で書いていく仕組みのため、不正的な速さでマップを作成していくと、すぐに学園の電子管理者である雷精霊にバレてしまうらしい。

 この雷精霊、学園で管理されているコンピュータサーバー……だったか? を、彼らの住処として提供することで、家賃代わりに学園に籍を置く教師・生徒・その他業者の情報管理を肩代わりしてくれているのだ。いわゆる持ちつ持たれつ。

 ……まあ、不正したからどうこうということも実はなかったりはするのだ。この場合、基本的に死ぬのは自分だけのスキルだしな。

 もひとつちなみに、「そんなお助かりな仕組みで動いているのなら、歩いた場所を自動で書き記してもらえるように頼んでおけばいいんじゃないか?」と、先日ティル姉ぇにお伺いしてみましたところ、


「バカだなー、リぃちゃんはー。仲間とはぐれる時ってのは大抵荷物なくなってるもんだよー。カードだって再発行なんだよー? 手続きめんどくさいんだよー?

 迷宮は子供の遊び場じゃないんだからねー。いざって時に地図やオートマッピングに頼りきってるとそのうち死んじゃうんだからねー?

 実際このティル姉ぇさんも、そーゆー手合いには何度か迷宮の奥で会ったことがあるしねー。……ま、カラッカラの白骨さんだったけどー?」


 ……と、洒落にならないシャレコウベなお話を頂戴いたしました。……無論、毎度のごとく即死級鉄拳のおまけ付きで。

 とはいえ、荷物なくなってるのなら知識があっても書けないんじゃないのかと、殴られた頬を押さえて崩れ落ちつつ再度お伺いいたしましたところ、


「バカだなー、リぃちゃんはー。書くもんなくなったら血で書きゃいーんだよー。紙がなくてもいざとなったらお腹にでも書いときゃなんとかなるもんさー」


 ……と、大変サバイバルなお言葉を頂戴いたしました。今度はサマーソルトで。



 …………と、まあ、そんなわけで。

「通路の幅の分だけ移動したらその分だけ書く」という方眼形式のセオリーにのっとって、第一階層のマップを作成すること早十分。

 初っ端から「大回廊の道幅が通常の通路の三倍」だという基本中の基本から躓いて、改めて幅三倍の通路に書き直しての探索行が始まるわけだ。


「……通路左から気配。数、二。おそらくホーン・フェレット。」

「会敵までおよそ十秒です」

「こっちはいつでもいいぜ?」


 その途中、近寄ってくる敵を早々に発見してマッピング作業を中断、流れるように武器を取り出し、戦闘体制に移行する三名。

 なにげにこのパーティ、ゼルにロッテちゃんにフェルシャさんと、地味に索敵系の能力持ちが三人も居るんだよな。

 一応俺も危険感知が尖ってるけど、あれ、格下相手になるとまったく反応できなくなるしなー。


「フェルシャさんは周辺のチェックを。問題なければそのまま援護頼みます。

 正面は俺とパルさんの二人で受け持つ。挑発で引っぱるから、ゼル・ロッテちゃん・レニさんの遊撃組三名は横から支援を! ロッテちゃん、リッパー回したら指揮よろしく!」


 各員から了解の声を受け、俺自身もリッパーを構えて敵正面に陣取る。

 すぐ横には鎖鎌の分銅をぐるぐるぶん回した姿でパルさんが並び、いつでも攻撃を仕掛けられる状態で待機していた。


「フェルシャさん、敵の増援は?」

「……通路右からフェレット。数、三。こっちは三十秒後に接敵予定。」

「サイドアタックだな。下がるか?」


 前後から挟み込まれた状況を見て、ゼルが戦闘の位置取りを変えて正面に敵五を迎え、対してこちらも正面に味方六の状況に切り替えての戦闘に移行するかどうか訊いてくる……が、


「いや、ここで試す! 全員、連戦の覚悟と離脱の準備を! スキルの使用を許可、数の少ない方から速攻で切り崩す。パルさんは二十秒でフェルシャさんの隣へ――戦闘開始!」


 リッパーの甲を左右打ち鳴らして高く金属音を響かせつつ、ブレードの回転機構を始動させ「ギュイィィィィン!」とおっそろしい騒音効果を発動、前方二匹のフェレットに対して挑発を仕掛ける。

 威嚇を受けたフェレット二匹がこちらへと敵意を向けて駆けてくる、が、


「――いっけぇぇぇぇ!!」


 左手で鎖を大回転させていたパルさんが、先端の鎖分銅を力任せの剛速球で投擲する。

 しかし投擲に慣れていないパルさんの技量では小動物系のフェレット相手には分が悪く、おそらくアレは当たらない。――だが、


「シュート!」「はい!」


 ここでロッテちゃんとレニさんのコンビネーション・スナイプが外れ行く鎖分銅に炸裂!

 分銅の飛翔角度をくの字に折り曲げて調整し、先行するフェレットの角をへし折った。……てかなんつう技量だあの二人。指揮タイムラグまるで無視かよ?

 ――とはいえチャンスだ。


「――ゼル!」「応よ!」


 リッパーを回した俺が態勢を崩したフェレットを。

 同じくして飛び出したゼルが鉄の大剣を背に担ぎながら疾走る。


「喰らえ!」「悪ィな、死ねや!」


 俺は対象のフェレットを、最下段から左拳でアッパーを放つように掬い上げるフックで壁面へと押し込んでひき潰し、ゼルはゼルでオオカミが獲物に食らい付くように相手との距離を急速に詰め、持ち前の俊足と重量武器の戦技、衝撃インパクトの併せ技、複合スキル『重剣速撃アクセル・ブラッシュ』を駆使して一撃の下にフェレットを屠り、そのまま技の衝撃波も置き去りにして次の行動に移る。


「――次っ!」


 フェレットの返り血をモロに浴びた俺が第一戦の終了を告げる。

 鎖分銅を回収したパルさんは急いでフェルシャさんの下へと走り、大剣を担ぎ直したゼルは遊撃隊に合流する。

 俺自身もリッパーの刃を地面に押し付けて火花を散らしながら走り、バックアタック状態のフォーメーションを反転させるために大回廊を横切って駆ける。

 ……そんな矢先、


「――超・くまぱーんちっ!!」


 と、なんとも気の緩む掛け声とともに、パルさんが自分の左腕へと鎖分銅を振り回して巻き付け、最後先端の分銅をバシリと掴んで、その小振りな拳を体当たりの勢いに任せて前へと突き出す。

 大振り極まりないその攻撃は対するフェレット三匹に悠々と避けられるが、パルさんはそのままフェレットたちの背後へと抜けていく。……後に続いたフェルシャさんとともに。

 そこに俺がフロントへと返り咲き、遊撃隊が横から狙いをつける。……つまりサイドアタックを通り越してのトライアングルアタックだ。


 こうなったらもうフルボッコ。


 狙われるのは、単独行動かつ挑発持ちの俺になるのはごく当然な展開なわけだから、俺はリッパー回しつつティル姉ぇ仕込みの生存本能を全開にして耐えていればそれだけでいい。

 後は横から斬りつけるゼルを壁に使った、ロッテちゃん&レニさんの銃撃に任せておけば問題はない。

 新しい武器に不慣れなクマさん&キツネさんにとっては、もはや絶好の経験値扱いだ。


 時折一撃ノックアウトな鎖分銅や鎌が飛んできたり、投擲も可能なように柄の部分を改造された一尺五寸(30+15センチ)らしい白木拵しらきこしらえの脇差が――俺に向かって――投げられて肝を冷やしたりもしたが、なんとか俺以外犠牲者なしで戦闘を終えることができた。

 ……つーかひでぇよみんな。

 最後の方、遊撃隊の三人は巻き添えを恐れて安全距離の向こう側に退避しちゃったし。俺は死んでもかまわんと?


「……さて、なにか言いたいことはあるかな?」


 飛んでくる鎖分銅が腹に直撃したり(げふ!)、

  受けたら死にかねない脇差を手甲で防いだり(うヒィー!)、

   頭上からものすごい勢いで降ってくる鎌に眼前を通り過ぎられて硬直したりしながら(――ッ! ――ッ!?)、それでもフェレットたち相手にがんばった俺はすでに精神的ボロボロ。


「いい勉強になりましたっ!」「……ごちそうさま。」


 ……当然、そんなことをのたまうクマさんとキツネさんを二匹そろって捕まえて、二人の頭を重ねてこめかみグリグリ食らわせたのは言うまでもない。



 さて、そんなこんなで改めて書いてみると、入り口から大ホールまで、直線で二十メートルぐらいなのな。んで、途中の十二メートルぐらいのところで左右に通常の道幅の十字路があって、それぞれ真っ直ぐ行った道の先に宝箱と魔物の巣穴付きの部屋がひとつ。

 大ホールはざっと見て横二十の縦五十メートルといったところか。

 楕円状に縦長な部屋なんだが、それぞれ左右に四つずつ連続したサポート部屋が用意されてて、奥には階段を封鎖するように仕組まれた横に広い巣穴が左右にひとつずつ。先は大回廊と同じだけの道幅を持った通路。それらの魔物の群れを越えた先が階段となっているわけだ。


 この大ホールは魔物の湧きが多いということもあって、慣れさえすれば経験値稼ぎにもってこいな場所だったりするのだが、まあ、それはそれぞれ身軽に動ける時にでも狩りにくればいいだろう。

 実際、今も二、三人ぐらいの人数で狩りに来ているパーティが何組か居るしな。

 さすがにモンスターパニック時に六人での撤退はキツイものがある。

 後で確認したら一人居なかったとか、洒落にならないしな。


 そんなわけで、後はそれぞれトレジャー回収のお時間です。

 単独で動ける俺とゼルが奥の方のサポート部屋へとそれぞれ赴き、手前の二部屋にロッテちゃん&レニさん、パル&フェル(もはや呼び捨てだ、アイツラ)の組み分けで分かれる。

 俺は今回、マッピング作業で思い出したこともあって、今までまっったく意識していなかった、リュックサックの看板を嵌め込まれた部屋へと入ってみることにした。

 フラスコ型は大体わかりそうなもんだしな。……毒薬とか出んじゃね?


 そして部屋へと入り、がさごそと漁って宝箱を光らせること早二十回。

 手に入ったものは……、


 +(Item Get!)+

・投擲用フック×2 ・ロープ×2 ・ワイヤー×3

・針金×3 ・煙玉×2 ・着火用ライター

・金タライ(小)・洗濯板 ・魔法の万能キー

・銅貨7枚(計5060G)・封印紙片×2


 と、まあ、こんな感じだ。

 基本は探索用の物品に生活用品、煙玉は逃走用だろうな。

 封印紙片は寝袋と、武器の手入れ用品一式だった。

 普通に便利っぽい。――が、しかしこの手入れ用品、俺のデュアルリッパーには対応しておりませんときたもんだ。無意味!

 多分魔法の万能キーとやらがレアモノなんだろう。消耗品っぽいにおいがそこはかとなく感じられるチャチさで、少々困ったものなんだがな。


 ……さて、これで後は散らばった面々と合流して、撤退を残すのみ。

 とりあえず、それで本日の探索は終了だな。



 ☆〈Level Up〉☆~♪

 Name リヒト ・初級格闘術/C→B 

 Name ゼルキュール ・初級大剣術/C→B

 Name リーゼロッテ ・護身術/C→B 


『最終的に面白いモノを読めるのなら手段は選ばない』

 ――というわけで自己流の執筆スキルを公開。


我流『執筆用スキル・地図作成マッピング

 習得すれば迷宮モノの物語に深みを与えられる(と思われる)執筆スキル。

 オートマッピングが当然の現代ではあまり出回ってはいないらしい。

 誰にも教わらなかったので我流になるが、オートマッピングが無効になるフィールドを持つゲームなどを、ノート片手に自力でマッピングすることで習得が可能。

 十マップも苦労すればこのぐらいにはなるという一例。

 試しに紙とペンを片手に自宅のマップを描いてみるのも一興かもしれない。認識を広げればだれでも習得可能のはず。

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