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才能付与の迷宮~Enchantment Labyrinth~  作者: 折れた筆
学園迷宮編 第一幕
16/106

15 全軍突撃~いざ第二階層へ~

 ……Now Loading.


 ぞろぞろと七、八十人からの軍隊が迷宮の大回廊を埋め尽くして歩く。

 剣に槍、斧・杖・弓にと様々な武器を装備した彼らの狙いはただ一点。魔物の溜まり場を数の力で蹂躙し、次のステージへと道を切り開く。

 無論、それ以外のすべては完全に無視。余計な助平心はモンスターパニックの呼び水になりかねない以上、その辺りの意識は迷宮に入る前の全体ミーティングで統一されている。


 見る限り、大回廊左右の通路はすでに氷の壁で封鎖を完了。同じく大回廊内を回遊していたフェレットたちも先行組みによって処理された後のようで、屍骸が通路の隅に退けられていた。

 さすがにこの士気の高さからすれば迷宮内に漏れ出す魔力マナの充溢も著しいせいか、アレはしばらく消滅しなさそうな雰囲気だ。どんな理由であれ、マナの完全欠落さえ起こさなければそのまま留まってしまうのだから。


 そして迷宮突入から早十分。


 ホールの奥にたむろするホーン・フェレットの群れを眼下に望みながら、入り口付近のフェレットたち相手に戦闘を継続させつつ、学生たちによる包囲網が着々と……、そしてついに完成した。

 ちなみに俺たち四人は服装も含めて奇抜さに群を抜いているせいか、文字通りに最右翼。

 どこのどなたの思惑か、ほとんど隔離されたようなもんで、モンスターパニックが起きたら生き残れる確率が極めて低そうな立ち位置だ。

 もしもの時は……、一か八かで突撃すっか。


 そうこうしている内に全体の射撃体勢が整ったらしく、この一軍の指揮を受け持ったチームから一人が前に出て剣を頭上へと掲げる。


「……皆、準備はいいなっ!? 後方支援組、射撃五秒前っ! ……三、二、一、撃てぇぇぇぇぇぇっ!!」


 掲げた剣をフェレットの群れへと向けて振り下ろすと同時に大号令。

 いわゆる若干の勇者願望がありそうなどこかのリーダー様による指揮を受け、矢と銃弾と魔法による一斉掃射が乱れ飛ぶ。……まるで自分が大魔法撃ったみたいに気分がよさそーだよな、アレ。

 炎弾に雷撃、氷の矢に鉛弾、風が斬撃を飛ばして土塊つちくれが空を舞う。

 弓の弦が木製の矢を飛ばし、同じく木属性の魔法が飛ばされた木の矢に干渉したのか、次々と破裂して散弾化しまくる。実にエゲツない光景だ。

 もちろんうちのパーティのレニさんからも、ロッテちゃんとのコンビネーション・スナイプによるフルオート射撃が放射され、装填弾数の二十発、ほとんどすべての弾丸が命中したらしい手ごたえを感じたそうだ。……さすがロッテ嬢。パねぇっす。


「――全軍、突撃ぃぃぃぃっっ!!!」


 皮のフル装備に身を包み、片手剣と盾を装備した勇者くん(仮)が、氷や岩塊、風に雷、矢に銃弾と荒れに荒れまくった大ホール目掛けての突撃を叫ぶ。



「「「「「「オォォォォォォォォォッッッ!!!!」」」」」」



 ここで頭ひとつ抜け出て先行したのは脚力自慢の獣人種たち。かく言ううちのゼルもその一人。

 俺たち四人はこの集団戦において、下手にバラけたりしないようにあらかじめ密集陣形を取るよう前もって決めていた。それでもはぐれたら臨機応変に動いて各自生き残れるよう最善を尽くす。それが此度の基本方針。

 ゼルはその陣形から一人抜け出て一気に駆け出し、鉄の大剣(アイアン・エッジ)を背に担ぎながら、点在するブロックの上を飛び石代わりに襲い来るフェレットたちのど真ん中へと飛び込む。


「――オオオオオッッ!!」


 重量系武器の戦闘スキル『衝撃インパクト


 何匹かのフェレットを叩き斬りながら発生したショックウェーブが周囲敵味方無関係のスタンフィールドを生み出すが、あらかじめ吼えたゼルから意図を読み取って距離を置いたのか、それに巻き込まれる先行組の姿はない。

 フェレット一匹のノルマを達成し、かつスタン状態に陥らせた上で後続の味方へとパスを出し、その場を跳び退いてブロックの上に狛犬のように着地するゼル。


「ゼル!」

 「応よ!」


 早々にノルマを達成したうちのパーティは、戦わないならむしろ邪魔。

 フェレットの相手は後続の集団に任せると判断を下し、ブロックの上のゼルに声をかけ、右側の外周を沿っての一点突破を計る。


 再び密集陣形を構築し、向かってくるフェレットたちを中央へと蹴り飛ばしながら、階段を目指して全員でひた走る。

 そして、この第一層最大の難関だった通路脇の魔物の巣穴も、迫り来る後続組に蹴り渡し(パス)をする形で難なく突破。

 余裕ができてホールを振り返ると…、あまり見たいもんじゃないな。

 眼下には大小様々な武器によって致命傷を負わされたフェレットたちの屍骸の山と、その山から湧き出した血の海。


「行こう。このまま第二階層へ離脱する」


 実際こんな場所で立ち止まっていても邪魔なだけだ。多少言い訳じみているのも今は置いておく。

 

 全員が頷いたのを確認し、俺たちは第二階層へと続く階段に足をかけた。




 #《Information》♪ 

 第二階層への到達を確認しました。

 階段前方の「非常口」に自分のプロフィールカードを登録してください。

 以降、非常口から第二階層への侵入が可能になります。



 第二階層へと辿り着いた俺たちを待っていたのは、大回廊ほどの幅がある通路の先に横一線に二列ほど配置された白銀のクリスタル柱と、インフォメーションとして脳内に鳴り響いた、あらかじめプロフィールカードに登録されたオートのテレパスメッセージだった。

 周囲を見渡せば、階段横には左右共に階段の後ろへと周って続いていく通常の幅の通路。……たぶんこっちが第二階層探索の正規ルートだと思われる。

 正面はやはりメッセージ通りに非常口なのだろう。

 人一人分の感覚で空けられたクリスタル柱の列が横一線に二列。一度に通過できる人数は一メートルに一人で計六人ほどか。

 近くに寄ってみると腰の高さぐらいの位置が台のように磨かれており、赤い染料で中央にカードの形が描かれている。……なにかツッコミどころがあるような気がそこはかとなくするが、、よくわからんので気にはするまい。


「……どうする? まだマナは十分残ってるけど……?」


 見事突破を成した後続たちが続々と降りてくる中、以後の行動指針を求めてメンバー三人に意見を求めてみる。……が、


「リヒトさんはどう考えているんですか?」


 逆に問い返された。


「俺? 俺はとりあえず脱出に一票かな。こういう展開って大体調子に乗った連中が揉め事起こすからねー。正直なところ、血に飢えた連中には関わらないに越したことはないよ。時間も体力ももったいないし、それ以上に巻き込まれてもバカバカしいしね」


 この意見に女子二名は気疲れなどの理由を追加して賛同、ゼルは続行派だったようだが、「死なない程度なら探索行って来ていいよ」と親指突き出すと、頭をボリボリと掻いて脱出することに決めたようだ。


 そんなわけでクリスタルに自分のカードを登録し、モンスターが外界に出ないためだという「結界」を抜けて非常階段へと立ち入る。

 ……大体この手の結界って破られるのがお約束だよなー。

 地上に向けてレッツモンスターパニック。暗躍する秘密の組織。学園崩壊の危機。さあ、立ち上がれ生徒諸君。……そんな感じで。


「……リヒトさん、なにかものすごくしょうもない事を考えていませんか?」

「いやいや、そんな滅相もない。気のせいだよ気のせい。それよりどー見ても下に続いてるよね、これ?」


 立ち入った非常階段は上だけではなく、さらに下への階段も見受けられた。せっかくなので話の方向を変えるためにひとつ役立っていただこう。


「たぶん今降りて行ってもまるで意味はないでしょうけど……」


 まあ、仮に降りて行っても精々地下何階層あるのかがわかる程度だろう。むしろ知らない方がよさそうだ。


 大人しく階段昇って第一階層、さらに地上へと二階分を往く。


「……へェ。ここに出んだなァ。なァるほどねェ」

「確か第二学年だけ昇降口の位置を変えて、迷宮の非常口を利用しやすくしているという話でしたね。第一学年と第三学年は訓練場を優先、迷宮探索が主になる第二学年は非常口が優先、だそうで……まあ、お師匠さまに聞いた話ですが」


 えーと迷宮の形を「Φ」で示すと校舎の形が「り」みたいなもんだから、各種訓練場を込みで、学園の地形は大体「Φりθ」と――わかるかっ!


「じゃあ、まあ、ゼル、ロッテちゃん、それにレニさん。みんなどうもありがとう。おかげで次回から第二階層です。ソロでの探索にツベコベ言う気はありませんが、頼りにしてますんで死なない程度によろしくお願いします」

「あいあいよー」

「……その、こちらこそ、よろしく……、お願いします……」

「まあ、いまさらな感はありますよね……」


 その後、歩きながら明日からの探索に向けてフォーメーションを決め直し、新たに勧誘できそうなメンバーが居たら俺かロッテちゃんに相談してほしいと話し合って解散となった。





 ……で、解散した後、俺がなにをしていたかというと……。


「……うーん。やっぱ優先すべきは材質だよなぁ……」


 売店の片隅に丸イスを借りて、仮面取り寄せのカタログを見てた。


「……アタシもこの学園、長いんだけどねぇ。さすがにそんなモンわざわざ取り寄せんの、アンタぐらいだよ……」

「いつもすいませんね。んー、硬質プラスチックか……いやいや、やっぱり鉄も捨てがたいし」


 今俺は学園の購買に足を運んで新しい仮面をどうしようかと頭を悩ませているのだが、このお店、右に雑貨屋左にギルド然としていて、それぞれの店にひとつずつ、中央にもうひとつ接客カウンターとなかなかのカオス。

 一応店の中央には左右を分ける仕切りがあり、雑貨屋側には普通に物質化状態で固定された武器の類が飾られており、逆のギルド側には各種依頼の記入台となっている。

 外縁には、雑貨屋側は現在在庫のある商品の一覧。それが壁に沿って種別ごとに張り出され、同じく入荷した目玉商品の名前と残数を記したボードがカウンター付近にぶら下がっている。

 一方ギルド側はどうなのかというと、そっちは依頼の種別ごとに区分けされた掲示板だ。左から「護衛系」「探し物系」「その他」となっている。

 ちなみにこのギルド、わけあって第三学年は基本的に使用しないため、現在は一年の始まりということもあって依頼もすっからかんだったりする。まあ、たぶん今だけだろうが。


 そして、そんなめんどくさそうなお店を何年も前から切り盛りしているのが、今は雑貨屋のカウンターの奥でタバコを咥えている、赤毛のおば――失礼、おねーさん。

 お名前はメルグリッタさん。御歳29才。独身。ティル姉ぇあたりは愛称で「メルギー」と呼んでいるようだ。


「……ん? メルグリッタさーん。この『邪神の仮面』ってなんです?」


 なにか特殊な効果でもあるのかもしれないが、カタログ上で見る限り、ただの銀髪少女の貌を模したお面にしか見えなかった。


「ああ、それかい? そいつは大昔にどっか遠くで暴れまわったっていう、ニャル――」



   「すいませーん。依頼お願いしまーす」



「ああ、はいよー! 悪いね、客だわ」


 俺は客じゃないのかとツッコミたいところだが、まあ、いいか。

 後学のためにちょっと聞き耳立てておこう。


「はいはい、お待たせ。依頼だね? 護衛、探し物、その他とあるけど、どんなお望みだい?」


 ふむふむ。


「えっと、探し物でーす。鎖鎌くさりがまがなかなか手に入らなくってー」


 ……ん? 鎖鎌?


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