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才能付与の迷宮~Enchantment Labyrinth~  作者: 折れた筆
学園迷宮編 第一幕
10/106

09 迷宮突入~同じ轍は踏まない~

 ……Now Loading.


 最低限のフォーメーションとして、まず間違いなく狙われるだろう自分を前衛の右端に、女子二人を後衛左側にポジショニングしてもらい迷宮を歩く。

 敵に出会ったら俺をオトリに女子二名が動き回って遊撃しつつ、別口の敵が連鎖しないよう周囲の監視を行う、という感じだ。

 もちろん遊撃役がレヌエット嬢で、回復と気配察知役がリーゼロッテ嬢。これ以上の適材適所もそうはないだろう。


 基本戦術としては、大回廊右端で挑発を行い敵を集め、その分広く取れる中央と左側部分を有効活用して動き回りつつ、チクチクと遠距離からの射撃で敵の数を削っていくという布陣なわけだ。

 穴は挑発が効かなかった場合、女子二人の方へ敵が行ってしまうかもしれないという点だが……まあ、そこは追々詰めていくとしよう。一応自分たちに近づく敵を優先して処理するよう言い含めてあるし。


 それと当然だが、敵の数が多すぎれば真っ先に俺が沈む。無論そうなりそうな場合は潔く撤退を指示、後は三十六計逃げるが勝ちだ。これについても「俺にわかるように頼む」と、割かし気合を入れて言い含めておいた。後ろを向いたらだれも居ないとかシャレにならんからな。

 ああ、そうそう、周囲に他の探索者も居る中で、安易に逃げを打って平気なのかと思うかもしれないが、多少のモンスター誘導(トレイン)行為ならむしろモンスターパニックの方がひどすぎるため、皆それなりに対処は心得ていたりするのだ。なにせ迷宮内で逃げ時を推し量れないような探索者に未来はないのだから。



「じゃ、基本はそんな感じで……、とりあえず今回はてきとうにモンスター倒しながら、宝箱トレジャーボックス見つけて財宝収集に魔力マナを費やそうかと思ってるんだけど……」

「その場合、モンスターパニックの発生が怖いですね」

「もはや名物だからねー」


 正直なところ、学園迷宮第一階層におけるモンスターパニックの発生回数は異常としか言いようがない。いざという時のための練習にはなるとはいえ、それでもやはり学生の死亡率が半端ないのだ。


「ええ。ですが脱出が間に合わないと冗談抜きに死にますし、トレジャー狙いならパニック発生を見越してどこか近場に狙いを定めるべきでしょうね」

「うん、それ採用。――あ。ゼルに宝箱のこと訊いときゃよかったなー」


 ちなみに、今みたいな移動時に関しては、ある程度それぞれの距離は自由。戦闘に入り次第、即座に自分の立ち位置に移動できればそれでかまわないと言っておいた。常に陣形キープして移動するのもムダに疲れるしな。


「……あ、あの。……それだったら、あそこの十字路を、右に行けば……、小部屋が、あるので……」

「あ、そっか……、助かるよ。宝箱もある?」

「は、はい」


 一応レヌエット嬢も内部情報を持っていたことを思い出し、しかし最終的にはロクな経験ではなかっただろうから、と気を遣ってさっさと要点だけを聞き出し、さくっとナビに従い道を曲がる。


(注:本当は左に曲がっても宝箱はありますが、主人公記憶喪失につき覚えておりません)


 敵に出会わぬままに少し歩けば、レヌエット嬢の記憶通りに小部屋へと侵入し、その奥にお目当ての宝箱を発見することが出来た。

 周囲に敵もいなければ同じ目的で宝箱を使ってる人もいない。割とラッキーな感じだ。


「じゃ、一人につきとりあえず五つ取っておく感じでいいかな?」


 実際、一人ずつマナを全消費するようなやり方ではムダなだけだ。

 いざ敵が襲い掛かって来た時に、主力一人がマナ切れで戦闘不能なんてバカバカしすぎて話にならない。ましてや回復役のマナを切らせて天国逝きなんて論外も論外だ。


「……あ……そこの穴、敵、出てくるから……気をつけて……」


 すでにトレジャーボックスの使い方を知っているのだろうレヌエット嬢が、箱のふたについた宝石に手を伸ばしつつ注意事項を告げてくれる。

 示された方向をよく見てみれば、部屋の隅にネコぐらいは通れそうな直径十センチぐらいの黒い穴が開いていた。おそらくこれが……、


「……モンスターの巣穴ってわけか……ん?」


 しげしげと穴の奥を覗きこんでみた俺の仮面の額に、コツリと固いなにかかぶつかってきた。同時に「キュキュイ」という鳴き声。


「――ホーン・フェレット!?」


 ほとんど反射的に左手でフェレットの角を引っつかみ、右手のブレードを回転させてその胴体めがけて叩き落す。

 同時に気付いた女子二人も戦闘態勢に入るが、その必要もなくホーン・フェレットの体はデュアルリッパーの一撃で真っ二つに引き裂かれ、切断面から血と臓物を垂れ流しつつ絶命していた。

 てか、いっぺん額割られてんのに懲りねぇな、俺っ!


「……一撃、ですか……、しかしひどいですね」


 うっかり角をつかんだまま立ち上がったもんだから、フェレットの上半身までつり上がってボタボタボタと……、趣味が悪いからすぐに降ろしたけどね。


「……剥ぎ取り、します、か?」


 とりあえずの財宝回収を終えたレヌエット嬢が、自分のリュックからナイフを取り出してどうするか訊いてくる。


「角だっけ?」

「……毛皮も、です」

「毛皮かー」


 とりあえずフェレットの角をリッパーを動かして切断し、さくっと回収を完了させる。毛皮の方はちょっと気がとがめるところなのだが……、イヤだイヤだじゃ探索者はやってられないしなぁ。


「……練習しとこうか……」


 と、いうわけでレヌエット嬢からナイフを受け取り、毛皮回収に初挑戦。


 ホーン・フェレットの上半身を剥ぎ取り中……。(ドスッ、ぐりぐり、ず、ズズ……)

 『ボロボロの毛皮』を手に入れました。


「いやいや、無理だわ、コレ。素人にできるようなこっちゃないって」

「……そうですか?」


 大敗を喫して素材を無駄にした俺の所業に、「なんで出来ないんだろう?」とでも言わんばかり首をかしげたロッテちゃんが、穴にはまったままのホーン・フェレットの下半身を引きずり出し……ポーチから「手術用のメス」を取り出して、手早く剥ぎ取りを開始した。


 ホーン・フェレットの下半身を剥ぎ取り中……。(トスッ、シュッ、シュシュ……スパッ)

 『フェレットの毛皮(最高品質)』を手に入れました。


「取れました、よ?」

「…………」「…………」


 唖然とする俺とレヌエット嬢。

 は、早い。早業すぎるよ、ロッテちゃん。ティル姉ぇは君に一体なにを教えているんだ、ほんと。おまけになんだこの職人芸は? 最初に切断された胴体部分を除いて、血がまったく滲んでないじゃないか。

 基本的には毛皮や皮下の肉に切り込みをいれて、ある程度は力技で剥ぎ取るはずなのに、そんな形跡がまったくと言っていいほどに見当たらない。なんだこの丁寧な仕事は!? 見事なまでにベロンとした一枚皮じゃないか!


「まあ、縫わなくていいのならこのぐらいは、ですね」


 剥ぎ取った毛皮を俺に押し付け、メスを拭ってポーチにしまい直し、宝箱へと興味を移すロッテちゃん。


 ……この娘が修道女の格好をしていて本当にいいんだろうか? もうイメージ的に白衣でも着ておけよと思うのは俺だけなんだろうか?


 そんなこんなで大変首を捻る案件発生中なのだが、そうそう時間もくってはいられない。

 全員が五つずつアイテムを回収したところで部屋を立ち退き、警戒しながら移動しつつ、リュックの中を見せてもらって財宝を確認。……どうにもうまいやり方考える必要がありそうだ。あの部屋もフェレットが出てくるんじゃ安全地帯とは言えないし。

 ……とりあえず収入はこの通りだった。


 +(Item Get!)+

・一角イタチの角 ・ボロボロの毛皮

・フェレットの毛皮(最高品質)

・下級ポーション×3 (レ×3)

・放出解毒薬×2 (リ・レ)

・銅貨2枚(200G)(リ)

・干し肉×2 (レ・ロ)

・飲料水×4 (リ×2・ロ×2)

・粉石鹸 (ロ)

・封印紙片×2 (リ・ロ)


「……お。俺とロッテちゃんレアアイテムだ」

「ほんとですか?」

「……ちょっと、残念です。……でも、おめでとうございます」


 この「封印紙片」というヤツがレアなのだが、実際のところ、中身はかなりランダムという噂だ。

 基本的に備え付けのトレジャーボックスは小さいので、剣やら槍やらはサイズ的に入らないと見ていい。

 なので、これらの物品は格闘技や大剣技などの才能向上系のスキルと同様、紙片状態に封印された形でボックス内に現れる。

 ついでに言うと、封印紙片が現れたからといって、必ずしも武器が出てくるわけでもなかったりする。防具が出てくることもあるし、各種属性魔法や今言ったばかりの特殊技能が習得できる紙片の場合もあり、風変わりなところで召還獣やパソコン、とどめに呪いのグッズや「馬車の車体」なんてものが飛び出してくることもある、なんともカオスかつデンジャラスな代物なのだ。


「……中身は…………」


 と、いうわけで、さっそくロッテちゃんの分の紙片に目を落とすと……。





「…………」「…………」「…………」


 うん、沈黙がとても重い。やだこの子。一体どういう星の元に生まれてきたんだろうね?


異次元の鳥籠ディメンジョン・ケージ

 己の使役下にある使い魔、もしくは契約に成功した召還獣の住処を異次元に作成することができる空間魔法の一種。

 魔獣使い(サモナー)の必須スキルであり、条件を満たすことによってケージは拡張、収納できる魔獣の数も増加させることが可能となる。


 ……ないわー。

 よりにもよって第一階層のお宝目玉商品を引き当てやがったよ。

 この娘、将来は絶対『英雄』、もしくはその仲間だわ。


「…………」「…………」


 ぴらりと紙片を返して女子二人にも読めるように提示すると、案の定引き続き言葉を失うお二人さん。確率どんだけなんだろうね?

 ため息混じりに紙片を持ち主へと返還し、改めて自分の紙片へと目を落としてみると、


魔法の背嚢(マジック・ザック)

 持ち運べるアイテムを大幅に増やすことができる空間魔法がかけられたリュックサック。冒険者の必需品として有名。


 ……うん。これもそれなりにレアだけど、さっきの見ちゃった後じゃなー。

 実際、ダブっただれかが店売りしてるのか、売店で銀貨一枚(一万G)ってところだしな。宝物庫入った探索者なら買えない額じゃないんだそうだ。

 異次元の鳥籠の価格? 知らねぇよ、んなこと。どうせ店売りのザックだって、鳥籠目当てで財宝ループした探索者による副産物なんだろうからな。

 ……それに……俺の得物、騒音特性のリッパーには、この指揮する必要がある鳥籠って声が届かなくて相性が最悪なんだよ! ちくしょ~~~~~!!



 閑話休題そんなこんなで



 収支確認も無事に終え、大回廊へと戻ってきた俺たち。

 マナの残量にも十分な余裕があるとの全員の申告により、そのまま十字路を右――つまり大回廊の奥へと進んでいく。

 そして、第一階層最大のフロアは、そこにあった。


「……こりゃまた、すごいな……」


 大回廊を抜けた先にあったのは、闘技場――いや、戦技場と呼べそうな縦長の大ホール。

 今居るこの入り口を筆頭に、見渡す限りすべての扉から中央に向かうにつれての傾斜が設けらており、ホールのあちこちに身を隠せそうな傷だらけのブロックが点在している。

 そこでは魔法や銃弾が当然のように飛び交い、剣を振る風切り音や槍の突き刺さる音が激しく反響し、第一階層のモンスターであるホーン・フェレットの群れと、おそらくは第二階層から昇ってきたのだろう、まんじゅう型のウサギを相手に学生たちが絶え間なく戦い続けている。


「……第一階層本来の目的、探索者同士が即席で連携を取るための実践訓練ホールですね……わたしもこうして見るのは初めてです……」


 正面には第二階層のへの階段があるのだろう通路。だがそこに侵入するには、その左右に見えるアレが厄介だな。


「……あの穴、明らかに魔物の巣ですね」


 ここからでもそれぞれ高さ十センチ、横幅五十センチぐらいに見える黒い穴。さっき似たような穴に奇襲を食らいかけたが、横幅がざっと五倍だな。

 わらわらと出てくるフェレットらを蹴散らして、一気に突破できるだけの力を身につけなきゃ、先には進めないって話か。んで、出来なきゃその内モンスターパニックが起こって、強制退去で貴重な緊急離脱の経験が増える、と。

 ……よくできてんな。マジ命懸けなのが困りモンだけど。


「……よっし。いっちょやってみますか!」


 っと、危な! うっかりリッパー回して挑発食らわせるところだった。

 ――って、ちょっと待て! この状況、挑発かましたら即袋叩きじゃねぇの!? やば、リッパー回せねぇ!


「……あの……その前に、あそこ……行きます、か?」


 どうしたもんかと思い悩む俺を横目に、レヌエット嬢が楕円状に形作られたホールの右側を指し示す。

 その方向には扉が連続して円周にぐるりと四つほど見受けられ、さらによく見ると、その内中央二つの扉の横には剣を交差したバッテンマークの看板と、同じく盾を書き出した看板がはまっていた。


「……まさか武器屋? 迷宮内に? んなバカな」

「……実際は、宝箱から武器だけ、防具だけが出て、きます……」

「なら、あっちはお薬と迷宮用品でしょうか?」


 今度はロッテちゃんが逆サイドを指す。

 そっち側にも同様に四つの扉……合計にして楕円形のホールに八の扉となるのだが、その左側に見えている二つの扉には、フラスコとリュックサックの形を描いた看板がそれぞれはまっている。

 ……まあ、察するに無駄死にさせないための配慮なんだろうね。


「レヌエットさんは魔法銃だったよね? じゃあ、とりあえずはロッテちゃんの武器が先かな?」

「いえ、お気遣いなく。わたしにはコレがありますので」


 メス! ……失礼いたしました。


「じゃ、じゃあ、防具の方漁ってみようか、うん、そうしよう」


 と、いうわけで防具専門のトレジャーボックスにマナを込めること、それぞれまた五回ずつ。

 収入はこんな感じ。


 +(Item Get!)+

・チェインメイル (ロ)

・レザーブーツ×5 (リ×3・レ・ロ)

・レザーシールド×2 (リ×2)

・レザーグローブ×2 (レ×2)

・皮の帽子×2 (レ×2)

・皮の胸当て×3 (ロ×3)


「……あのさ、俺、靴ばっかり出たんだけど……」

「……防具は、ある程度分けたほうが、いいと、思います」

「……ですね。このチェインメイル、せっかくの鉄製品ですけど、わたしよりリヒトさんの方がよさそうです」


 この場合、武器も防具も紙片の状態でボックスに用意されているため、魔力を込めた人間の特徴に合わせて装備品も形作られる仕組みとなっているので他人が出した装備であっても問題はない。

 そんなわけで、それぞれがほしいと思う物を分け合って、残ったものを再分配という形にする。数が足りない場合は有効と思える使い方ができる人材が優先だ。…とはいえ、今回は問題なさそう。

 皮の胸当てとレザーブーツは全員に行きわたり、帽子・シールド・グローブはセットで女子二人に分配。レヌエット嬢は射撃の邪魔にならないようにシールドをグローブに固定してもらっていた。縫うのが苦手っぽいことを言っていた割りに仕事が早い。さすがロッテちゃん。

 残ったチェインメイルと余った靴二つ、装備分合わせて靴三つが俺のところ。

 チェインメイルの上から皮の胸当てを合わせて締め、レザーブーツを元々履いていたシューズと履き替えて新規装備。のっぺら仮面と耐熱軍手はそのままだ。

 ちなみに、


「……ところでリヒトさん?

 ……覗いたら……わかってますね??」


 と、いうわけで、俺だけ一人、キラキラのまぶしい笑顔で部屋の外へと見送られて寂しく装備。

 出てきた女子二人は皮の胸当てをそろって服の内側に装備したらしく、不自然に制服と修道服の一部分が盛り上がっているようだが……まあ、ツッコムまい。


 さて、それじゃそろそろ行くとしようか!


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