第九話「これがトッププレイヤーの実力」
そろそろ私の名前を忘れている方もいらっしゃるかもしれないので、今一度名乗っておきましょう。
わたくし、アプリ・アクセルハートといいます。繰り返します。アプリ・アクセルハートです。
そして私は今、結構とんでもない状況に置かれていました。
なんと最新技術を用いた掃除機レースに参加中、幽霊にほぼ全身を乗っ取られてしまったのです。
その黒猫型だった幽霊……キャットさんに取り憑かれた「私」は、笑顔で掃除機を駆り立てていました。
ちなみに、いくら身体を乗っ取られた所で視界は共通です。なので残念ながら、私に「私」の顔を見て確かめる術はありません。
けれども、顔の筋肉の動きでわかります。これは笑顔です。
乗り移られた「私」……というかキャットさんは、凄く楽しそうでした。
「うん、生身はいいね! なんだかワクワクしてきた!」
……が、がんばってー!
と、私も心の声で応援致します。
一応、このキャットさんは凄い掃除機乗りだったそうで、それが今、生前と変わらぬ機体に乗っているのです。
これならば並の相手には負けないはずです。不思議と、私の心にある期待感も高まっていきます。
そんな私達の乗る機体は、今時ではかなり珍しいキャニスター型掃除機です。
本体とヘッドがホースと伸縮管によって繋がれ、本体の両側には車輪が付けられているという代物です。
名前はクーシェ・ドゥ・ソレイユです。愛称はクーちゃんです。
なんか、あまりにもキャットさんが連呼するものですから、つい正式名称を覚えてしまいましたよ。
そんなクーちゃんは、今では誰も使わないキャニスター型である事から、どうにも「旧型」という印象が拭えない代物となっております。今ではもう、レース用キャニスター型掃除機は、商品展開すらされていないそうですからね。文字通り旧型なのです。
それに対し、私達の前をスイスイ進んでいるロボット型掃除機は、かなり「最新型」の機体です。
ロボット型は、その厚い円盤状のボディに、最新のあらゆる技術を詰め込まれているのです。AIサポートも万全で、全体的な安定感や安全性が並はずれているのです。
そんなロボット型の周囲には、その機体すらも囲むように、透明な球状の膜が張られていました。あれは、乗り手を危険に晒さないための簡易保護障壁です。普通ならば、乗り手の身体を薄く覆うだけのはずの簡易保護障壁ですが、ロボット型の場合、身体を覆うだけの本来の簡易保護障壁に加え、更にその外側を囲むようにしてもう一つ簡易保護障壁が張られているのです。二層式簡易保護障壁。これは、ロボット型が誇る高すぎる技術性を如実に表していました。
また、その分機体性能も良く、移動に全くブレがありません。特に、コーナリングでは殆ど全く減速しない、という離れ業まで容易く披露していました。あり得ません。
そんなロボット型掃除機の上に正座し、へりを両手で掴んでいる女の子がいます。あの子が乗り手です。彼女も曲者で、全方位に対する魔法攻撃という大技を持っています。
トータルで見ても、かなりの強敵と呼ぶ事が出来るでしょう。
なのにキャットさんは、あの最新技術の結晶を追い抜こうと考えているのです。
旧型対最新型の戦い。これは目が離せません。
そして、直接対決中の二人の前には、右斜め下を示す大きな半透明の矢印が浮かんでいました。
あれはこれから先の進路を示すガイドです。
今は空中なので、空に浮かぶ赤色の矢印を頼りに曲がる、という形式になるのです。
ガイドによれば、もうすぐ右斜め下へと下るコーナーが来るようでです。
私が怖気づいて、とても行く事が出来なかった恐ろしいカーブです。
しかしキャットさんは、それすらも楽しそうに見ていました。
「フゥム。これは曲がり甲斐がありそうだね。アプリ、よく見ていてくれ。今回は僕のラインで曲がってみせる。これで、曲がる感覚を確かめてみてくれ」
……う、うん! わかった!
こんな状況下で愚痴を言うわけにもいかず、私はやけに素直な返事をします。心の声で。
それに対し、キャットさんは笑みで頷くと、表情を一気に引き締めました。
「じゃあ、行くよ」
……えっ? もうなの……?
あまりにも唐突な発言の後、キャットさんはいきなり機体の向きを変えました。
ハンドルを下に押し込むようにし、身を軽く沈めたのです。これだけで、機体は下の方を向いていきます。それから体重を右側にかけ、ハンドルを押す力の向きも右に傾けていきます。
これで機体は矢印の示す方向へと、その向きを変えてしまいました。
ちなみにこうして表現した限りでは、かなりゆっくりと機体を動かしている印象を受けますが、実際は結構手早い動きでしたよ。ぐっ、ぐっ、くいって感じのテンポです。やばいです。
しかも私と違って、出力調節による減速をしていません。そのため余計に速く見えてしまいます。
その上、ロボット型の飛ぶラインを真似ていた私とは異なり、キャットさんは自分から先に曲がりました。
……いきなりすぎて、ちょっと驚いてしまいましたよ。
右斜め下を示す矢印の先にあったのは、真っ直ぐ前方を示した矢印でした。どうやらまた直線に戻るようでした。右斜め下に一度曲がった後、今度は直線に戻るために再度曲がる必要があるみたいです。
前進しつつも二度曲がって進むという意味では、ここは緩やかなS字に近いコーナーとも言えます。キャットさんは早めに機体を傾けたため、かなりインコース気味に最初の曲がりへと突入しました。これならば直線へと戻る時にも、立て直すスペースを確保する事さえも出来るでしょう。
機体からは何の抵抗感も伝わってきません。どうやら相当良いラインを選択したようです。
それからキャットさんにつられるように、ロボット型もカクン、と進む向きを変更させました。インともアウトともいえない、絶妙な中間点での曲がりです。S字においてはそれが有利なのでしょうか。
こうして二体の掃除機は、お互い別々のラインで曲がり始めました。
キャットさんは、とても安定した挙動で機体の角度を調節していきます。縦の動きが主なので、若干の浮遊感が私の臓物を襲ってきました。
何せ、機体は右に傾き、更に斜め下に向かっているのです。不安定にも程があります。それも結構速いのです。笑えませんよ全く。
もしも、私が操作していたら泣いていたかもしれません。
ですが、キャットさんの表情には一点の陰りもありませんでした。
「この場所においては、きっとこのラインが一番風に乗れるはずだ。大丈夫。距離はほとんど離されないっ!」
私達の前を行くロボット型との距離は、曲がっている最中にも関わらず、ほとんど変化しませんでした。
通るラインは違いますが、これは素人目にもわかるレベルの距離感です。
それから直線へと戻る二つ目の曲がりに突入するのは、キャットさんの方が先でした。
ロボット型の方は、未だ右斜め下に落下するような向きのままです。まあ、あれに関してはカクンと曲がれるので、もっと落ちてから立て直しても大丈夫なのでしょう。
それに対しキャットさんは、早めに曲がりへと突入し、徐々に体勢を立て直そうとしていました。機体性能差もあるせいか、双方全然違う動きとなっています。
クーちゃんの向きが、どんどん安定していきます。
右側に偏った傾きや、下を向いていた方向が、どんどん元通りの角度へと戻っていきます。
そのように微動しつつも、機体はぐんぐん先へと進んでいきます。始動の早さとは反対に、角度調節自体は非常に緩やかな物でした。
そうして機体が水平に戻り、真っ直ぐ前を向いた頃には、もう変形S字コーナーは抜けていました。
コースは再び直線へと戻ります。
前を見ると、先ほどまでとあまり変わらない距離に、あのロボット型の姿がありました。ロボット型は、斜め下に落下するような動きでそのまま直線コースに戻ると、またしてもカクンと動きを変え、完全に機体を水平に戻しました。やはりコーナリング性能は向こうの方が上のようです。
ですが、コーナーであまり差が開きませんでした。
こうなれば、後は直線で距離を詰めるだけです。流石キャットさんです。
……これなら、いけるかも!
私は心の中でガッツポーズをとります。
しかしながら、キャットさんは苦々しい表情をしていました。
「いや、勝負はこれからだよ。次の回転で恐らくは追い付けるだろうが……その後が恐いね」
……回転? 何、それ……?
キャットさんが、また何か変な事を言い始めました。
私が考えていると、キャットさんはフッと笑い、前の方へと視線を向けてくれました。
ロボット型に集中していた視界が移動し、私の両目は、その先にある景色を映し出します。
そこには、相も変わらず赤い矢印がありました。
ですが、方向がおかしい事になっていました。
……えっ、上……!?
「その通り! あの矢印は上を向いている。そして今度は上を見ると……」
どんどん上方へ、視界が移動していきます。
すると、そこには信じられない物が映っていました。
まず、上を向いた矢印の先には、複数の矢印がありました。
そして、それらが描き出す形は、なんとあり得ない事に縦回転だったのです。
ジェットコースターによくある軌跡ですね。
真っ直ぐ行って、緩やかに上へと登っていって、空中で一回転し、また元の直線へと戻る軌跡です。
縦回転の出口を見てみると、そこには複数の参加者達の影が見えました。真っ直ぐ進んでいます。やはり、回った後は直線のようです。よくもまあ、あんなコースを軽々と突破できると感心致しますね。
ふざけろ、ですよ。
何でしょうかこの嫌がらせ。いい加減にしていただきたいものです。
これがキャットさんだったから良かったものの、私が操作していたらとっくに吐いていましたよ。
……うわぁ、本当に縦回転だよ……もおやだこのレース。
「ウゥム、これは面白い仕掛けだよね。とにかく、僕はここであの子に追い付くつもりだ。でも、呆気なくいくとは思えないかな……!」
キャットさんの声が若干強張ります。もっとも表情は好戦的に歪んでいる、ようでしたが。
私は、これから迫る趣味の悪い縦回転に備え、心の準備だけはしておきます。
どれだけ有効なのかはわかりませんが、とにかく気張っておくに越した事はありません。
相変わらず、ロボット型の挙動は安定しています。ブレ一つありません。
あの縦回転に対して、恐怖心は無いのでしょうか。
乗っているのは私と同じぐらいの女の子のはずなのに、いくらなんでも冷静すぎではないでしょうか。
なんだかこうして見ると、本当に機械のようで些か不気味です。
キャットさんの言葉もあり、私は必要以上に怯えていました。
何はともあれ、こうして機体同士の距離は縮まっていきます。
縦回転への突入も近付いていきます。
もう秒読みを待つ程、接近しております。
……うう。さっきよりも恐い……!
私は心で呟きました。
そして、それと同時に状況は動き出します。
「よし、じゃあ曲がるからね!」
……えっ!? もう!?
って、このやり取りも二度目です。
まだ赤い矢印までは結構距離があるというのに、キャットさんはもう縦回転の準備をしていました。
前のロボット型はまだ真っ直ぐに走っている、というのにも関わらずです。
……もうこうなれば、覚悟を決めるしかないみたいだね……!
私も気持ちを結び直します。
キャットさんはハンドルを持ち上げ、機体を上へと傾けていきます。それにつれてクーちゃんは、前に進みながらもどんどん上に仰け反っていきました。なお、私の身体も落ちそうになっていきます。
一応、補助ユニットによる重力制御のお陰で、私達の身体は逆さになったぐらいでは落ちません。けれども、雲が後方に流れるレベルの速度なのに、こんな風に傾かれたら恐いじゃないですか。私は恐くて恐くて仕方がありません。だって、ジェットコースターと違って、背もたれも無いのですよ。いくら安全性が保障されているとはいえ、これはいくらなんでもあんまりです。
私達は、あっという間に縦へと傾き、ついに垂直な状態となりました。
それなりの速度が出ているとはいえ、それでもジェットコースターなどと比べたらかなり遅いというのが、逆に恐ろしいです。
ですが、これだけ先に動けば、確実にロボット型よりもインコースであるという事になります。
これならば、もしかしたら抜き去る事さえも出来てしまいそうです。
しかし、私がそんな幻想に溺れている時、またしても状況が変化しました。
キャットさんが急に楽しそうな声を上げます。
「おっ、やっぱり来たね……そう簡単に抜かせてはくれないか……!」
私達の視界は、今、上を向いています。
そしてそこに突然、上を目指すロボット型の姿が映りこみました。
ロボット型は、私達よりもアウトコースを通りながらも私達より速く、縦回転の頂点へたどり着かんとしていました。相も変わらず、その速度には目を見張るものがあります。
ロボット型に座る女の子は、どんどん逆さになっていきながらも、至極冷静にカクンッカクンッといった連続カーブを繰り返していました。すごい集中力ですが、どうやら緩やかには曲がれないようです。
それにしても速いです。やはり曲がりに関しては、ロボット型の右に出る者はないのでしょう。国産最高峰の技術機は伊達じゃあなかったようです。流石は “プラ何とか”ですね。
ですが今回に関しては、私達の方が露骨にインを取っています。
これによって得られるアドバンテージは、先ほどのS字の時よりも大きいはずです。
現に、上を目指す私達の速度は、ロボット型よりもほんの少し速いように感じられました。クーちゃんは、どんどんロボット型との距離を縮めて行こうとしています。
この分だと、確かにキャットさんの言う通り、ここで追い付く事が出来そうです。
……いける!
私は、密かに勝利を確信しました。
こうして私達は、お互い違う軌跡で一回転し、直線へと戻ろうとする緩やかな曲がりに到達しました。
もう、私達の距離は寸分の差もありませんでした。
このまま接近すれば、あとは馬力差で抜き去る事が可能でしょう。
そんな時です。
ロボット型の子の身体が、薄く水色に輝きました。これは、どう見ても魔法発動の兆候です。
キャットさんは、それに対して悔しそうな笑みを浮かべました。
「っ! そうきたか……!」
直後。
またしてもロボット型の周辺に、大量の紫色の棘が生成されてしまいました。
私は咄嗟に怯えてしまいます。
今までのパターンならば、この後、全ての針は発射されてしまうのです。
……ど、どうしよう……!
私の焦りは膨らんでいきます。が、すぐに萎みました。
よくよく考えれば、キャットさんの実力ならばあの程度の攻撃など、私以上に簡単に防いでしまえるはずです。私で防げたのですから、キャットさんに防げない理由も無いでしょう。
そもそも接近すれば簡単に防げると、私に教えてくれたのはキャットさんだったのです。
これは不可能なわけがありません。つまり、あの程度の攻撃はもう驚異ではないのです。
ですが何故でしょうか。
キャットさんの笑みは、どこか苦々しい物となっていました。
「アプリ、これは苦しいかもしれない。あの少女、想像以上に強敵だよ」
……えっ!? どうして? だってあの攻撃はもう……
「ああ、僕には通用しない……はずだった。だけど、あれは危険だよ。だって、あの少女は……あの棘をもう飛ばしてくる気は無さそうだからね。広範囲攻撃よりも、よっぽどタチが悪いよ」
……それって、どういう……?
「ウゥム、ちょっと待っててくれ」
キャットさんは真剣な表情となり、私が何かを問う前に動き出しました。
そんなキャットさんの行動は、私を驚かせるような物でした。
なんとブーストボタンを何度も押し、速度を調節して、ロボット型との距離を一定に保ったのです。
このまま加速していれば抜かせるというのに、あえて距離を調節したのです。
……ど、どうしてこんな事を……?
そんな私の疑問に、キャットさんはすぐに応えてくれました。
「解せないって感じだね、アプリ。よし、わかった。なら今から見せるから、よぉく見ててね」
……見てるって、何を?
「今、僕がいかに無茶な状況にいるのか、っていうのをさ」
言うなり、キャットさんは身体を右に傾け、機体を軽く右側に向けました。
徐々に方向転換していくキャットさんですが、ここでロボット型の方にも変化がありました。
カクン、と右側に方向を変え、キャットさんの進む進路の前に移動してしまったのです。
……聞いた事があります。これは、ブロッキング、と呼ばれる技術です。それはレースの際、相手が自分を追い越さぬよう、その進路を塞ぐように進むという技術です。
しかも、今のロボット型はハリネズミ状態です。
その上、向こうは簡易保護障壁も二重に纏っているため、激突すれば、確実にやられるのはこっちなのです。
私は、事の重大さを少しは理解しました。
ですが、まだ解せない事があります。なので、私はいくつかの質問を頭に浮かべます。
が、それらを口にする前に、キャットさんの素早い解説が入りました。
「相手は、僕の進路を塞いでいる。ここまでなら問題は無いんだ。でも、相手はロボット型であり、乗っているのは全体攻撃の少女だ。これがヤバい。
まず、僕が普通に抜こうと進路を変えても、すぐに移動されて進路を塞がれてしまう。曲がる速度は向こうの方が上だからね。イン、アウトの概念の無い直線で抜かすのは難しい、っていうか無理だ。
こっちが動く兆候を見せた瞬間、向こうはカクン、で対応出来るんだ。言ってしまえば、向こうだけ後だしジャンケン状態なんだ。いくら加速力で勝っても、これでは抜かしようがない。
それからもっとヤバいのが、あの全体を覆う棘だ。あの子は、魔力消費も厭わずにあの棘を「維持」しているんだよ。そのせいで、僕がいくら接近しようと、あの棘を吸収する事は出来ないんだ。その上……」
……まだあるの!?
「ああ……棘のせいでブロッキング範囲が大きくなっているんだ。これじゃあ多少隙をついても、すぐに当てられてしまう。コーナリング性能の差もあって、今回は、あらゆる意味で向こうにアドバンテージが多すぎる。直線ではもう無理だ。
いざとなれば、横からぶつけられてもアウトだからね。こっちの切り札は、完全に抜かしきらないと使えないし……だからといって、コーナーで仕掛けるのも難しい。
向こうが初めっから当てる気でくれば、僕にそれを防ぐのは難しいからね。こっちのラインを潰されたらもうお終いだ。だとすれば狙うのはプレイングミスだけど、それも何だか上手く行く気がしない。このままだったらね。八方ふさがりさ。
そして何よりさ―――」
……な、何? まだ何かあるの?
「―――向こうは、僕達を完全に敵と認識している。これが一番やりにくいね。
向こうの魔力だって無限じゃあないはずだ。あの年代の平均魔力値は六十くらいかな? 魔力はたった一回復させるだけでも最低五分待たなきゃいけないから、それなりのリスクを負っているんだ。あの規模の術なら、一度発動するだけで十は消費しているに違いない。でかいね、それはかなり。
加え、僕達の進路を塞ぐなんて、普通に考えれば無駄な行為だ。僕達を止めた所で、あの子の順位は一しか増えないわけだからね。
となってくると、やはり敵対視されていると言わざるを得ないね。そうでないと説明がつけられない。まあ、これまでに結構、僕達も突っかかっていっちゃったからね。向こうのライバル心に火が付いても不思議ではないだろう?
しかも向こうは君の魔法を知らない、それなのにも関わらず“ブロッキング”というリスキーな手段を取った理由も僕にはわかる。あれは揺さぶりの意味も兼ねた行動なんだ。こっちが魔法攻撃をせざるを得ない状況に追い込む事によって、こっちを見極めようとしている。本当にやりづらいよ。こっちに武器となる魔法なんて無いのにさ。
まあ、ようするにだ……」
……う、うん。
「僕じゃ無理だ。変わろう」
……えっ?
やけに諦めの早い言葉と共に、私の意識は途端にクリアになりました。
おまけ
キャットさんの生前データ
・長いレースの歴史の中でも“狂人”に部類されている実力者。
・そう言われる所以は愛機の特性にあり、彼の時代でもあまり使われていなかったキャニスター型を更に改造しているあたりも評価に拍車をかけている。
・それ故、彼の愛機にはある“秘密”が隠されていたりする。
・メディアに露出する事がほとんど無かったため、人格に関するデータは少ない。