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現代ファンタジー的日常生活  作者: パンダらの箱
今日の魔女は掃除機で飛ぶ、編
24/36

第二十四話「夕焼、満月さえも溶かし沈む」

 わたくし、アプリ・アクセルハートは自暴自棄になりながらも、超高速で市街地を駆けていきました。

 曲がる時は自分の術を使い、何とか速度を保ちながら進んでいます。その間、味わったスリルは星の数よりも多いかもしれません。本当に自棄になるのは楽しいですね。癖になりそうです。

 そんなこんなで私は今、直線を進んでいる所でした。何でもいいですが、このレースはどうにも直線が多いですね。そう考えると、結構初心者にも考慮されているのでしょうか。

 ……いえ、そんなわけありません。だって現に初心者の私を潰そうとする試みがいくつか見られたので、やっぱり単なるスタッフの気まぐれでしょう。

 と、まあ私が思いの外余裕で進んでいる時の事です。

 唐突に、後ろから声が聞こえてきました。


「……なるほど☆ 君はそうやって気持ちを昂らせる事によって、自分の中の恐怖心をかき消したのだね♪

 そしてやけに判断が早いと思ったら、あれか。単に細かい事を何も考えずに、頭にパッと浮かんだ案を実行しているだけなんだね。それも成功するか否かを全く考慮せずに☆ミ

 ようやくわかった◇ 君はたまたま運が良く、上手くいっていたに過ぎないんだ。そろそろ正気に戻りなよ……そんなのただの現実逃避じゃあないか」


 背後から何か不快な音が聞こえてきます。

 どうやら、白魔女が私に追い付いてきたようでした。

 今は地上を進んでいるので、地上走行モードのようです。

 白魔女は立てかけたスティック型掃除機のT字型ヘッドに両足を乗せ、本体の取っ手を片手で掴みながら、もう片方の手で本体のホースから伸びるグリップを握っていました。そのグリップの先には刀型のヘッドが付けられていて、その先端の孔からは金色のエネルギー球が生成されています。そんなスティック型掃除機は、今は地面に隣接しているローラーや車輪が回転して、地上を走行している状況下にありました。それが地上走行モードなのです。

 後ろを見ると、白魔女は私に刀型ヘッドの先端を向けていました。それも真剣な表情です。

 ですが私はそれを無視しました。口もききたくなかったのです。

 しかしながら、その沈黙をどう受け取ったのか、白魔女は急に明るい声で話を続けました。


「ちなみにベゼちゃんは地上で撒いてきたよ☆ 彼女の残存魔力も少ないだろうし、きっともう魔法は使えないだろうね。僕の手によって倒しきれなかったのがちょこっと残念かな♪

 ……まあ、僕の幽霊もバグらせられまくって、少しの間使えなくなっちゃったけどね。まさか一時的とはいえこの僕が根負けするとは。はーっ。

 さて、君は僕を前にしてどれだけハイな状態を保てるか、教えて欲しいかな」


 白魔女は私の少し後ろを走っていました。しかも真後ろという落ちつかない一度利をしています。

 どうやら私のクーちゃんよりも速度は出ないようです。冷静に考えればリューくんは、クーちゃんの限界を超えた速度の「一歩手前を常に出し続ける機体」と白魔女が言っていた気もしますし、最高速度がクーちゃんに劣るのもそれなら納得であると言えました。

 それにしても困りました。なんたって今私は、白魔女に銃口を向けられている状態にあるのです。白魔女の刀型ヘッドから砲撃が放たれれば、私はここで撃墜されてしまう事になるでしょう。

 そんな事、考えるだけで少し“きゅん”となってしまいました。

 けれどもこのまま喰らうのも、何だか少し癪でした。だから私はクーちゃんを“軽く浮かせて”思い切り減速させ――――


「っ!」

「なっ!!!!?」


 ――――白魔女のリューくんに激突させました。激突による衝撃が発生しますが、私はよろけつつも意識を何とか保ちます。

 それから白魔女の刀型ヘッドの先端に、私はクーちゃんの吸引口を全力でぶつけました。これで刀型ヘッドから生成されていた砲撃用エネルギーは全て吸いとれます。

 吸引は一瞬で完了しました。これで砲撃はしばらく使えないはずです。

 白魔女は驚愕の表情を浮かべていました。ついでに私も少し驚いていました。やはり上手くいくとは思っていなかったのです。

 何とも言えない沈黙が二人の間に流れます。なおその間、お互いの機体はガリガリ音を立てて干渉し合っていました。

 私はここでクーちゃんの出力を強にし地に車輪をつけ、再加速を図り掃除機間距離を開かせます。これで干渉音は止み、再び私と白魔女の間に距離が生じました。こうして私は攻撃を防ぐ事に成功したのです。

 今のは、ロボット型少女が使っていた急ブレーキを真似てみた結果でした。もっともクーちゃんにまともなブレーキ機能は実装されていないため、ただの減速となってしまいましたがまあ良い事にしましょう。

 ……ていうか、こんな咄嗟の判断も上手くいくんですね。何だか不思議な気持ちです。

 私はもういっそ悩まない方がいい気がしてきました。さっきの話を聞く限り、白魔女は幽霊支配を一時的に使えなくなったようなので、もう砲撃さえ防げれば恐くないです。

 ――――しかし突然、私のクーちゃんからボン、という小さな爆発音が聞こえてきました。本体の中からです。一体何が起こったのでしょう。私の心は、ここで一瞬素に戻ってしまいます。

 それが命取りでした。

 白魔女は、ここぞとばかりに大声を上げます。


「……そういえば、言って無かったよねぇ☆ 僕のクレール・ドゥ・リューヌの砲撃は、キャニスター型の許容量を超えているのだよ♪

 だからね、平たく言えば……君のクーシェ・ドゥ・ソレイユはもう“吸引機能”を使えない。今ので壊れてしまった。その分、今の攻撃でブーストエネルギーはかなり溜まったけどね☆ミ

 君はこれから攻撃を避ける事しか出来なくなる……そして僕の幽霊支配が復活した時、それで終わりだ」

「えっ……!?」


 ここで私の心を支えていた要素の一つが消えました。

 その上、本当に文字通り失敗してしまった、という事実が想像以上に私の心を苛みます。

 言ってしまえば、ここで私の心は少し冷えてしまったのです。

 これまでは興奮状態で誤魔化していた分の反動が、ここでじわりじわりと溢れ出てきたのです。

 私は不安になりながらも、何とかそれを堪えようとして……失敗しました。

 充足感の象徴でもあった汗は、この数秒で全て冷や汗に変わりました。視界が曇っていきます。震えも戻ってきてしまいました。ここで素に戻る、というのは想像以上に辛いものでした。もう吐きそうです。鼻血も乾いてしまいました。

 何だかもう嫌になってきました。地上を進む速度も速過ぎて、何だかついていけなくなってしまいました。つい出力調整ボタンを押してしまい、少し減速してしまいます。

 そのせいで白魔女に呆気なく抜かれてしまい、しかも眼前に迫るのは右コーナーでした。白魔女は曲がりが得意だったはずなので、これでまた差をつけられてしまうのでしょう。あとは白魔女が適度に減速しつつ私に纏わりついてきて、最終的に幽霊攻撃をされて私はお終いなのです。再び幽霊を植えつけられてゲームオーバーでしょう。

 ああ、もう本当に駄目かもしれません。

 私は静かに観念しかけ……


 ……あれ? 待って……


 ……私の思考に何かが引っかかりました。

 それは本当に今更なのですが、私の背後から追ってきていたロボット型に乗る少女についての疑問です。

 私を背後から追っていた彼女は、白魔女と入れ替わるようにしてその姿を消していました。あの時は白魔女がそこにいるという恐怖からまともに考える事が出来ませんでしたが、しかしよくよく考えると白魔女に撃墜されたと考えるのが自然でしょう。

 白魔女は寸前まで射出用のエネルギーを溜めていた事から、恐らくはそのエネルギーが放出されたのを直に喰らってロボット型が撃墜されたのだと考えられます。もし本当にそうだとしたら、あの子はどれほど悔しい思いをしたのでしょうか。

 あの子は何度私に抜かされようが諦める事はありませんでした。本当にしぶといぐらいに私を襲って来たのです。どうやっても私をきちんと倒したかったのだろう、という想いが痛いほど伝わってくるぐらいの気迫でした。それなのに私を目の前にして撃墜されてしまったのです。その未練は、いくらこれがただのレースであるとはいえ相当大きなものだったのではないでしょうか。

 因縁的に私が倒すべきだったのに、白魔女はそれを呆気なく沈めてしまったのです。もちろんルール的にも倫理的にも何も問題はありません。これは乱闘的な勝負の場でもあるから仕方の無い事なのです。

 ですが、こう何と言うか……


 …………普通に、ムカついてしまいました。


 理不尽な怒りというのは承知の上です。

 ですが、私はこの感情を抑えきれなくなり……その怒りで恐怖を上書きしました。

 こんな相手に負けてなどいられないと、咄嗟に思ってしまったのです。敵討ち、というわけでもありませんが、このまま白魔女にやられっ放しでいるのは嫌になったのです。

 ……つまり私の思考にあった引っかかりというのは、とどのつまり「ここで負けていいのか」という自分への疑問だったのです。そうですね。ここで負けたら、あのロボット型の女の子も嫌な気分のままだと思います。

 だからこそ私はここで再度気持ちを燃焼させ、乾いた鼻血を袖で拭い、制御部位を操作し出力を「強」へと変更しました。その瞬間、クーちゃんはあり得ない速度の前進を再開させます。景色が後方に流れ、目の前の右コーナーが近くへと迫ってくるのを感じました。

 見ると、白魔女は私より一足先にコーナーに突入しているようでした。曲がりやすいのか、リューくんは飛行形態に移行しています。白魔女は箒に跨るようにして、スティック型掃除機を操縦していました。

 とはいえリューくんの余剰エネルギーは既に吸いとっているため、白魔女はただ普通にラインをなぞる事しか出来ないはずです。あの加速しつつの曲がりはもう封じました。ここでロボット型少女の使っていた、急ブレーキを真似た行動が功を為していました。あれは失敗などでは無かったのです。

 私は、パスワード発声と共に、クーちゃんの小型車輪の前にパネルを生成しました。これでクーちゃんは前へと飛ぶように加速し、一気に白魔女との距離を詰めていきます。しかしながらこれでは足りません。

 もっと鋭い加速が必要だと判断した私は――――怒りによって雑念を消しながら――――大きな声で叫びました。


「念動操作っ!」


 私の全身から橙色の魔力が放たれ、クーちゃんの挙動を少しだけ操作する念動魔法が発動します。これでクーちゃんは少しずつ右に向きを変えていきました。しかしながらこの程度の傾斜では曲がりきれません。曲がるにしても念動魔法の精度が低すぎて、曲がりきれるだけの角度が確保出来ないのです。

 ……ですが問題はありません。

 私は、すぐにブーストボタンを二度押しました。

 これにより、クーちゃんはこれまで以上に鋭い動きで進行方向を変えます。私の視界が超高速でぐおん、と半回転しました。今までよりも倍以上速い方向転換です。これで私は素早く直角で曲がる事に成功しました。

 これは念動魔法同士の相乗効果です。つまり、私の念動魔法とクーちゃんに使われている念動魔法を共鳴させ、ブースト性能の底上げを行ったのです。そうすれば“二度押し”の効果も倍増され、私はラインを無視しながらも今まで以上の速度で曲がる事が出来たというわけなのです。

 ……まあ、ラインを掴めないなら別の方法で加速するまで、というわけですよ。

 何はともあれ、これで白魔女との距離はそこまで離されずに済みました。私はここで再度叫びます。


「パネル生成っ!」


 私の身体から橙色の魔力が迸り、クーちゃんのすぐ下に小さなパネルが生成されます。

 そして、それにクーちゃんの小さな車輪が触れた瞬間、クーちゃんは一時的に凄まじい加速を始めました。あらゆる体感や景色を置き去りにして抜き去り、前へ前へと恐ろしく速い跳躍で進んで行きます。

 私の前方には、地上を高速で進む白い影が見えました。地上走行体勢となった白魔女です。それもどんどん距離が縮まっていきます。どうやらもうすぐ追い付けるようでした。

 だから私はまたしても全力で叫びます。


「念動操作っ!」


 私から発生した橙色の光は、クーちゃんの全体を淡く包みこんでその進行方向を変えていきます。

 狙う先は白魔女です。このまま体当たりをかまして、この鬱憤を晴らしてやるしかありません。私は弾け飛ぶ脳内物質の意志に従い、死ぬ気で白魔女に対して特攻を仕掛けました。

 振り向いた白魔女は私を見て動揺し、刀型ヘッドをこちらに向けていますがもう遅いです。月のような球体はまだ完成されていないのです。これならば私が体当たりをかますまでの間に発射される事は無いでしょう。

 白魔女はまだ動揺しているようでしたので、私はここで苛立ちと共に宣言しました。


「死ねっ!!!」


 私は加速しつつ、自分ごと白魔女に体当たりをかまそうとします。

 しかし、そう簡単に上手くはいってくれませんでした。

 白魔女が小声で何かを呟くと、彼女の背後に白い魔法陣が出現したのです。先ほど見た瞬間移動の術を使うつもりなのでしょう。けれども、これも発動までの間に時間がかかる類の術だったはずです。ならば、やはり私の体当たりを瞬間移動で避ける事も実質不可能であるはずでしょう。瞬間移動が発動する前に、私の体当たりが届くはずです。

 だから私はそのまま白魔女に接近します。

 ――――しかし白魔女は薄く微笑んだかと思うと、手元の制御部位を操作して一気に減速し始めます。

 これによって私の体当たりは空を切らされてしまいました。その上、減速によって多少後退されてしまったため、私は背後を取られてしまいます。これで何とか抜き返す事は出来ましたが、今度は白魔女がこちらに刀型ヘッドの先端を向けてきました。その先端の球体は大きく膨れ上がり、今にも発射されそうな状態となっています。

 しかし減速して避ける白魔女の表情は真剣そのものだったあたり、私の攻撃も白魔女を恐れされる事が出来るのだという事が証明されました。

 ですが、渾身の攻撃を避けられてしまったのは痛い事実です。私はその事実に小さく舌打ちすると、こちらもブーストボタンと出力ボタンを押して一気に減速しました。

 こうして、クーちゃんがまだ飛行状態だった事もあり、地上を走る白魔女は私を一瞬で追い抜かしていきます。白魔女は私の方へとヘッドを向け続けてきましたが、私の背後にいられないだけだいぶ気持ちがマシになりました。ここで私は再加速をし直します。

 ……砲撃の瞬間、二度押しで避けてやる。私はそう考えます。

 けれども白魔女は、またしても私の思考を上回ってきました。白魔女の背後の魔法陣が急に強い光を放ち始めたのです。間違いなく瞬間移動が始まる相図でした。これはいけません。これは危険です。

 私はその事実に怯みつつも、体重を斜め下に寄せ、再度手元のブーストボタンを二度押ししました。地上に向かうための方向転換です。

 瞬間、クーちゃんは急速な勢いで着地し、凄まじい速度で地上を進み始めました。私はもう景色を気にする余裕すらありません。そしてその直後、まるで後光のように私の背後から強烈な金色の光が迸りました。恐らく私のすぐ背後に転移してきた白魔女が、これまで私が飛んでいた位置に砲撃を放ったのでしょう。私は咄嗟に地面を利用して加速したお陰で助かったのです。

 私が背後をちらりと見ると、飛行状態の白魔女がちょうど機体の穴に刀型ヘッドを差し込むところでした。

 ……これはチャンスです。

 私は念動操作をパスワード発声と共に発動し、白魔女の正面を確保しました。それからクーちゃんのハンドルを強く握り、一気に上へと持ちあげます。これによりクーちゃんは軽く地面から浮き、一気に減速しました。

 白魔女は私に接近してきていて、私はこれで一気に減速したのです。こうなれば双方の機体の激突は不可避です。これは防げるはずも無いでしょう。これが私の最後の体当たりです。

 当たる寸前、白魔女が引き攣った表情をしているのが確認出来ました。小声で何かを呟いているようでしたがもう遅いです。あの魔法陣を使用した瞬間移動は使えないはずです。

 ……とはいえ、何か不気味な気配を感じたのもまた事実でした。

 だから私は不安を払拭するように叫びます。


「当たってっ!」


 ――――そして、私は白魔女に対して“クーちゃんの車輪”をぶつけました。

 白魔女の簡易保護障壁に車輪を当てたクーちゃんは、車輪が回転するエネルギーによって一気に前方へと跳躍します。その際、硝子が割れるようなパリンという音が背後で響きました。

 ようはブレーキングのように速度を落とし、相手の簡易保護障壁と機体に車輪を当て、ダメージを与えつつ加速したのです。しかも今の音ですと、恐らくは今ので白魔女の簡易保護障壁を砕いたはずです。

 まだハイになっている時に考え付いた技が、こういった場で役立つだなんて想定もしていませんでした。私グッジョブです。これをやるのには相当な技術が必要なようにも見えますが、やってみれば意外と難しくもありませんでした。

 まあ、我武者羅になってそれっぽい操作したら、なんか、出来ただけですしね。半ば失敗覚悟でした。

 …………つまり成功したのは、運、という事になりますね。ラッキーです。最高です。

 私は、後ろを向いて白魔女の安否を確認します。が、そこに白魔女の姿はありませんでした。

 ここで私は嫌な予感に全身を叩かれ、急いで前を向き直します。

 ――――すると、私の前方には掃除機も何も無い、ただの白魔女が地面に仁王立ちしていました。

 白魔女は、ここで高らかに宣言します。


「僕が何故白魔女って自称しているか知っているかい!? 一度も捕まった事がないからさぁ!! シロなんだよ僕はぁっ!!!

 僕は何しようが捕まらないっ!!!! この大会のカメラも既に弄ってあるっ!!!! 証拠は残さないさ!

 現に君は今、僕の本名さえも知らない状態にあるっ!!! つまりぃぃぃいぃぃ!!!!!

 簡易保護障壁を失った今、こうやって魔法を用いた直接攻撃という“反則行為”も辞さないってわけさ!!!! さあ、終わりだっ!!!!」


 ……何でしょうかこの展開。もう滅茶苦茶です。

 ていうか何なのでしょうかこの魔女。往生際が悪すぎやしませんでしょうか。

 テンションもちょっと変ですし、もう何だか呆れかえってしまうばかりです。

 ……だいたいレース中なのに生身で前に出るのは危険ですよ。

 だから私はグリップを全力で振り上げ、地面にきちんとクーちゃんの両輪をつけ、持てる力の全てを用いて白魔女を殴る準備を整えました。

 これで私は地面を高速移動しながら、白魔女へと接近していく形となります。

 それに対して白魔女は、指をパチンパチン鳴らして大量の幽霊を生み出し、私の方へ向けて特攻させてきました。私のクーちゃんはもう吸引を使えません。これはもう、やられる前にやるしかありません。

 と、そう思った時です。

 私の背後から、まるで雷のような閃光が白魔女の方へと向かって行きました。その光は白魔女の付近の地面に当たるなり弾け飛び、大半の幽霊に直撃します。そのよくわからない現象に、白魔女は一瞬「ぎょっ」としていました。まさかこの攻撃は……私は何か思案を巡らせようとして……


「今のがあたしの最後の魔力ッ! よくわかんないけど反則行為で攻撃してんじゃないわよッ!」


 ……背後からの声で全てを納得しました。

 もう振り返るまでもありません。よくぞやってくれました、といった感じです。

 私は大きく「ありがとう!」と口にして、念動で進路を調整しつつも進んで行きました。

 私はそのまま加速づいて、驚いた表情を浮かべたままの完全に生身の白魔女へと接近します。

 そこに至るまでの障害など無いも同然です。肝心の白魔女本体が混乱しているため、残り数体による幽霊攻撃もありませんでした。だから私は即座に白魔女に接近する事が出来たのです。

 白魔女はもう目の前です。

 そうして、ぶん殴ろうとグリップを振り上げた瞬間……

 やけに穏やかな声が、耳元に聞こえてきました。それは早口なのに、かなり聞き取りやすい言葉です。

 その声は、一瞬の間に私に届けられました。


「――――よく、頑張ったね」


 白魔女は落ち着いた声で、私にそう告げました。

 その言葉の意味は、正直あまりよくわかりません。ていうか混乱してたのではなかったのですか、白魔女は。

 それにしても、これまで白魔女が私を頑張らせようとしていた事を考えるに、これで私が頑張ったから素直に評価してくれているのでしょうか。

 ……これはあくまで急に浮かんだ推測ですが、もしかして白魔女はわざわざ悪役ぶって私を追い詰めてまで、この私を頑張らせようとしていたのでしょうか。そういえば、これまで白魔女は様々な無茶ぶりをしてきましたが、だからといって本当に無茶な事を私にやらせて楽しんでいる風には見えませんでした。むしろ私のやる気を出させるためにか、結構手加減もしていたように思えてきます。

 あ、でも私の事を一回本気で墜とそうとしてきた時がありましたね。あれは愛想を尽かした、という解釈でいいのでしょうか。まあその辺りはあまり考えていても仕方がありません。

 兎にも角にもそれまでの白魔女は、私を追い込む事によって、私を頑張らせようとした節があります。

 だとしたら、相当かなり超絶ムカつきますし一生涯許しませんが……いや、考え過ぎですね。

 今の言葉にどういう意味があるのかは、やはりわかりません。

 けれども一つだけ確かな事があります。

 それは――――


「いやどうしてこのタイミングで言うのっ!?」


 ――――加速づいた掃除機は急には止まれない、という事です。

 私はグリップを振り下ろす動きを止められず、結局白魔女を全力でブン殴ってしまいました。彼女の顔面からぐしゃり、とかなり嫌な感触が伝わってきます。うわぁ、これ絶対骨とか逝っちゃってそうなパターンですよ。

 まあ、本人曰く隠蔽はばっちりなようなので、これでもし殺してしまっても罪に問われる心配は無いでしょう。……流石に死んではいないと信じたいですが。

 それにしても、私を認めたような発言をしてくれるのは蚊ほどに嬉しいのですが、如何せんタイミングが最悪すぎました。もっと他に無かったのでしょうか。真意を問う暇さえもありませんでしたよ。

 さて、何はともあれ、これで邪悪は倒しました。後はレース終了まで気絶してくれる事を祈るのみです。

 それにしても私に取り憑いている幽霊を吸引してしまったので、私は警察に何て言えば良いのでしょうか。これでは証拠不十分で、白魔女を刑務所にぶち込む事が出来ません。なんかそんな事すらまともに考えていませんでした。なかなか大きな問題です。

 ……多分、幽霊痴漢被害とかでいいのかなぁ。いや、でも証拠が……

 と、私がぼんやりと考えている時でした。


「う、うぅぅん……あれ、ここは何処かな? あれ、アプリちゃん!?」


 私の右肩から、非常に聞き覚えのある声が聞こえてきました。

 そのせいで、私は妙な焦燥感に駆られてしまいます。これは最悪の予感です。

 私は油の切れたブリキ人形のような動きで、ゆっくりと肩の方へと視線を移動させました。これがもし予想通りの事になっているのなら最悪です。私はそうはならないのを祈りつつも視線を動かしました。

 すると、居ました。

 居たのです。何がって決まっているでしょう。

 私の肩を指定席にしていた半透明の黒猫が、そこに座っていたのです。


「きゃ、キャットさ……白魔女!? 気持ち悪っ、なんで居るの!?」

「えっ、あれ……!?」


 そうです。

 元々、私にキャットさんと呼ばれていた黒猫型幽霊が、そこには居たのです。何故か。本当に何故か。

 その本体は白魔女だったはずなのに、何故かここに居るのでした。わけがわかりません。想像もしていなかった展開で、私もつい必要以上に驚いてしまいます。

 私の混乱はピークを迎えそうです。

 そんな私達の目の前には大きな虹がありました。

 ……こうして、わけもわからぬままレースは最終盤へと移行していくのでありました。

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