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現代ファンタジー的日常生活  作者: パンダらの箱
今日の魔女は掃除機で飛ぶ、編
22/36

第二十二話「弱点。でも光明?」

「何やってんのよ。アンタ」


 私のすぐ鼻先を薄黄色の刃が通り抜けていきました。

 恐らく魔力で作られたであろう三日月状の刃です。正確には、鎖のような物が繋がっていたので「碇」に近い形状となっている刃でした。そして私はこの碇状の刃の正体を知っています。

 今の刃による一閃で、私の目の前に浮かぶ白魔女型幽霊の動きが停止しました。クーちゃんは前進を続けている状態なので、動きが止まった幽霊はその場に置き去りにする形となります。一応、私と細い糸のような物で繋がっている幽霊なので、完全に引き剥がす事は出来ませんでしたけれど。

 最終的に、私から繋がる白魔女型幽霊は凧のように引っ張られる形で、私についてくる事となりました。何だか複雑な心境です。

 ……って今はそんな事などどうでも良いのです。

 今の声、今の攻撃、これらには覚えがあります。少なくとも私の中の該当者は一人しか居ませんでした。私は三日月状の刃が飛んできた方向――――つまり左上の方――――へと視線を向けます。するとそこにはやはり見慣れた姿の少女が飛んでいました。

 黒いリボンで片方だけを縛った短い髪、強気で生意気そうなつり目、上下共に露出の多い服装、紫と黄色に彩られたスティック型掃除機、掃除機のトリガーを引く右手、碇状の魔力刃と繋がっている左手、それらの特徴を兼ね揃えた女の子……ベゼちゃんがそこに居たのです。

 ここで私はようやく状況を把握しました。ベゼちゃんが私と繋がっている白魔女型幽霊を攻撃してバグらせてくれたお陰で、私は身体を支配されずに済んだのです。白魔女は私と繋がっている幽霊を経由しない限りは、私の身体を支配する事は出来ません。つまり私はここで晴れて自由に……なっていませんでした。白魔女の言葉を信じるのならば、このバグは一時的な物だそうですし。

 ですがまあ、一時的とはいえ窮地は脱しました。

 私はベゼちゃんに対して感謝の言葉を述べようとします。まあ、口が上手く回ってくれませんでしたが。


「……あ、えっと、あ、あ……ありが……」

「動揺しすぎ。何があったのよ? 礼とかいいからそれより先に状況を教えなさいよ。あと、さっきから白くて気持ち悪いアレ、何なのか知ってる? アンタの前にも一体いるようだけど……」

「そ、そそれは……」


 私は一生懸命答えようとします。

 が、それを遮るように今度は「前」から声が聞こえてきました。

 急に減速して接近してきた白魔女の声です。


「どうして、ベゼちゃんがここに居るのかな……??? 君は色々と突破した後、先に行ったはずじゃあ無かったのかい??? どうしてスピードを落としてまでここに????」


 白魔女は甘い声を作ろうとして失敗したような声で、ベゼちゃんに問いかけていました。口元は辛うじて笑みとなっていますが目が笑っていません。有り体に言うと超恐い笑顔です。

 それに対してベゼちゃんは揺らぐ事無く、当たり前のように言葉を返しました。


「別に。そこのアプリが気になって戻ってきただけ。あたしをあんな圧倒的に抜かしておきながら、ここでモタモタ走っているのが気になって仕方がなかったし、これでも友達だしね。

 だいたいレースは来年もあるし、このアプリとは今年で最後だし、優先順位ってものがあるわけ。聞きたい話もあるし。本当にそれだけ。

 それよりもアンタ何者よ? 魔女っていうのは何でもアリなの?」


 きっちり相手の質問に答えた上で質問を返しています。一切物怖じしていません。

 それにしてもベゼちゃんは、どうしてここまで私を気にかけるのでしょうか。私とベゼちゃんは言うほど仲が良いわけではありません。それどころか向こうの嫌がらせにこちらが辟易しているぐらいなのです。それなのに友達扱いになっているとはどういう事なのでしょう。悪いとは思いませんが、単純に理解が出来ません。どういう考え方をしたらそうなるのでしょう。

 ちなみに白魔女は質問には答えず、無言で前を向いてしまいました。こっちもこっちで意味がわかりません。

 そんな白魔女の姿を見たベゼちゃんは、私の方を見て首を傾げました。


「で。そろそろあたしに色々と教えてくれない? アンタは少なくともあの白いのについては知ってそうだけど、そのへんどうなの? ねえ」

「えっ!? ええと……」


 急に振られて私も困ってしまいます。

 まあ、ここで言って困ることなど何もありません。もしかしたらベゼちゃんが白魔女を何とかしてくれるかもしれません。私は話す内容をじっくりと考えました。

 そうだ。ここでベゼちゃんに全て吐露してしまえば、なんやかんやで解決するのではないでしょうか。この白魔女の犯した犯罪や悪事を全て公共の場に晒す事が出来るのならば、最終的にムショにぶち込めるのではないのでしょうか。

 ……だとしたら、私の未来に少しだけ光明が射した事になります。

 私はほんの小さな笑みを浮かべて話し始めようとしました。 


「えっと、あのね。この白魔女は幽霊を魔力で操作する事が出来て――――」

「あーあ。本当につまらない」


 私の言葉を遮るように、白魔女が心底呆れたような声でそう言います。それから指をパチンと鳴らすと、私とベゼちゃんの周囲に大量の白魔女型幽霊が展開しました。

 全部を合体させて球体状にしない理由は、きっとベゼちゃんの攻撃を警戒しての事でしょう。ですが分散させられた状態でも十二分に危険な攻撃なのは確かです。白魔女はこれら全てを自在にコントロールできるのですから。

 これは流石のベゼちゃんでも取りこぼしを出してしまうかもしれません。ははは、笑えません。白魔女は一体何が不満なのでしょうか。私にはもう分かりかねます。

 ……何はともあれ、とにかくこうなってしまえば話どころではありません。

 私は可能な限り加護欲を煽れるように目に力を込め、全力でベゼちゃんの方を見ます。同時に助けてオーラも全身から放ちます。年下の子に頼るのは些か抵抗がありましたが、一度やってしまえばもう小慣れたものです。どうせ私の力じゃあどうにも出来ないので、こうやって頼った方が絶対にいいのです。そうです。年下だとか年上だとかは関係ありません。出来る人が出来ない人に手を貸す、これは自然の摂理なのではないでしょうか。弱者は守られてしかるべきなのです。

 そんな私の弱者オーラを受けたベゼちゃんは、もう白魔女の方を見据えていました。流石、切り替えが早くて頼りになります。

 ベゼちゃんはそうして魔力の迸った左手を、自身の掃除機のグリップ付近にある本体へと伸ばしました。そして、ベゼちゃんは本体に一つだけつけられたボタンをカチリと押します。

 次の瞬間、ベゼちゃんの姿が私の視界から消えました。一瞬で、影も残さず、本当に跡形もなく消えてしまったのです。それが超高速の加速だと私が気付いたのは、もうしばらくたってからの出来事でした。ベゼちゃんは幽霊の隙間に狙いをつけ、そこを幽霊が反応出来ない速度で突っ切ったのです。

 もちろん幽霊群を抜けた先には白魔女の姿があります。弾丸のような速度と化したベゼちゃんはそのまま左手の碇状の魔力を構え、前を行く白魔女の背に向けて振り下ろしました。これで一刀両断……というわけにはいかず、白魔女の「急速に向きを変える動き」によって攻撃は避けられてしまいます。しかしながら白魔女の回避には、おじいさんの時以上の必死感が滲みでていました。しかも今の動きはどう見ても二度押しのそれです。あれは回避用の技だったのですね。

 白魔女への攻撃に失敗したベゼちゃんは加速を一気に緩め、白魔女の方へと再度手を向けました。それでも行き過ぎてしまったベゼちゃんは、白魔女から少し離れてしまっていました。これでは攻撃が届きません。

 ここで白魔女は指をパチンと鳴らしました。すると私を取り囲んでいた幽霊の姿が変質し、私を包む白い球体へと変わっていきます。どうやらベゼちゃんが私から離れた今、この幽霊合体変形攻撃を行う事に対する躊躇いが無くなったようでした。最悪です。

 ……いや、これ冗談抜きで最悪です。

 今更ながら、この幽霊攻撃は簡易保護障壁を突破して、中の人に直接ダメージを与えられるのです。つまり私は痛い思いをした上で、一筋の光明すらも潰されてこのレースから脱落させられるのです。それだけは絶対に嫌でした。私はもうどうしていいかわからず、とりあえずグリップを握る手に力を込めます。

 そして――――もう半ばやけになりながらも――――私はグリップを振りまわしながら前進しました。もちろん全力で振りまわします。他の事に意識を回している余裕などありません。幽霊相手には何をやっても無駄だという事は重々承知しています。この掃除機は魔法生成物質を吸うだけのものなので、幽霊を吸う事は出来ないのです。

 ですが、それでも私はこの気休めをしなければならなかったのでした。だって少しでも恐怖を紛らわせる要素が欲しいじゃあないですか。

 そんな事を考えながら――――まるで誰かに話しかけるような口調の思考ですが――――私はグリップを振りまわしていきます。そうして数秒。私はグリップを振るのをやめ、ようやく前方へと意識を向けました。


「……あれ?」


 いつの間にか私はダメージを受ける事無く、幽霊の群れを突破していました。

 あり得ません。ただグリップを振りまわしただけでは、幽霊に何の影響も与えられないはずなのです。だから、私が幽霊の群れを無傷で突破出来るのは変なのです。何が起こったのかわかりません。

 前を行っていた白魔女とベゼちゃんの二人も、やけに緩やかな速度で飛びながら私の方を見てきました。二人とも唖然とした表情です。確かに、どう考えても変ですよね。私が幽霊の群れを突破出来るわけが無いはずなのに、どうして簡単にやってのけたのか不思議で不思議で仕方がない、といった表情をしています。

 ついでに言うと、私も似たような表情を浮かべていました。

 本当に疑問は尽きません。


「な、なんで……?」


 私は言うまでも無い事を口にしてしまいました。

 それに対して、白魔女とベゼちゃんは首を傾げてしまいます。いや、二人にわからないなら迷宮入りじゃないですか。まさかこの掃除機には幽霊を吸う機能が実装されていた……だとかいう雑な推測しか出来ないのです。

 私含め、この場に居る三人が混乱のあまり口を噤みました。

 ですが、数秒の間を置いてから白魔女がようやく話し始めました。


「なるほど……! 普通、幽霊に物理干渉力は無い。だからこそ掃除機に吸われる事なんてありえない、と、僕はずっと思っていた……でもその認識を少し改める必要があるようだね。

 確かに幽霊は掃除機に吸われない。だけど、それを“支配している魔力そのもの”は対象となるわけか。いや、もっと早くに気付くべきだった。まったく最悪だよ……!

 クーシェ・ドゥ・ソレイユ……いや、キャニスター型掃除機自体が……これまでで初めて見る……唯一、僕の幽霊支配を“完全無効化”出来る武器だったのだね……!

 これまでバグで動きを止める事はあっても、完全に無効化出来るのはキャニスター型だけってわけだ。それもこのレースに限って言うのであれば…………クーシェ・ドゥ・ソレイユは僕の天敵だ……!」


 白魔女が相も変わらず本当に長い説明をしてくれます。それによって私も状況を理解しました。

 つまりクーちゃんは幽霊支配を無効化出来るのですね。本当によーっく分かりました。それが分かればやるべき事は一つです。

 私はグリップを強く握り、上体を捻ってグリップを後ろへと向けます。私の背後には凧のように引っ張られている幽霊の姿がありました。元キャットさんです。

 ……ああ、思い返してみれば本当に忌々しい出来事でした。いきなり幽霊に取り憑かれたと思ったらレースに参加させられて、しかも後半の方でいきなり「全部嘘でした」と明かされたりして、本当に本当にこの幽霊には苦労を強いられてきました。考えれば考えるほどむかっ腹が立ってきます。

 だから私は、そんな元キャットさんと私を繋ぐ細い糸を見据え、それに対して全力でグリップを叩きつけました。もちろんグリップは幽霊をすり抜けてしまいますが、これで目当ての物は吸いとれたはずです。この糸は私と繋がる元キャットさんの一部分でもあります。ともなれば、この糸に吸引口を当てれば、この幽霊を操る魔力を吸いきることが出来るのではないかと考えたのです。

 こうして。

 一瞬の間を置いた後、私の身体からスポンと幽霊の糸が抜けていきました。

 ……咄嗟の出来事に、白魔女が「あっ」と言いながら驚愕の表情を浮かべています。ベゼちゃんも同様の表情です。というかベゼちゃんに至っては、たったさっき「白魔女の術は幽霊を操る」という事を知ったのではないでしょうか。だったとしたら今ので相当な情報を得た事になります。混乱するもの無理はないでしょう。

 まあ、何にせよ。

 これで私を縛っていた物は無くなりました。自由です。白魔女が言う「一生可愛がる」というのもこれで出来なくなるはずです。なんたって、今ので白魔女の支配は私に及ばなくなったのですから。ざまぁです。こうなってしまえば向こうから一方的に出された条件など、容易く反故する事が出来ます。だいたいその提案をされた時、私はしっかりと「嫌だ」と言ったはずです。何もかも、非は向こうにしかありません。

 私は無性に嬉しくなって、つい叫びたい衝動に駆られてしまいます。けれどもまだ我慢です。いくら私がベゼちゃんに守ってもらえるとはいえ、白魔女がこれから何を仕掛けてくるのかわからないからです。

 実際、白魔女は動揺した表情を見せてからは、すぐに顔を伏せてまたしても前しか向かなくなってしまいました。その胸中にどんな感情があるのか不明です。

 ……そのせいで、私の心にも鬱々とした感情がまた芽生えてきました。これで何度目でしょう。

 と、そんな時、誰かが私の背中を叩きました。正確には簡易保護障壁を叩き、振動させているだけですけれど。

 私が横を見ると、そこにはいつの間にか減速して私の隣に来ていたベゼちゃんの姿がありました。ベゼちゃんはどういうわけか少し嬉しそうな笑みを浮かべています。つい先ほどまで、白魔女と一緒に驚いていたというのに意味がわかりません。

 ですが、ベゼちゃんはそんな私の疑問などお構いなしに、急に大きな声を出しました。


「やるじゃないアンタ! 正直、初めて見た時は何でキャニスター型? って思ったけど、そういう魔力無効化も視野に入れてたってわけね。ちょっと見直したわ!」


 声が大きいです。五月蠅いです。別にそういう意図があってキャニスター型を選択したわけではないので、こういった褒められ方をしても何も嬉しくありません。

 しかしながら、私が露骨に顔をしかめているのに気付いていないベゼちゃんは、どんどん話を進めていきます。勝手に。


「さてと、何があったのかそろそろ教えてくれない?」

「え、ええと……」


 私は前を行く白魔女を警戒しつつも、なんとか口を開きました。白魔女は今のところ不気味な沈黙を保っているだけです。話すのにはうってつけの状況でした。

 私達の進路上に大きな虹がかかっているのが見えます。あれは先ほど白魔女が通っていた、空中を進むコースを示した目印のような物です。先行している白魔女は、その虹をなぞるようにして飛行していきました。

 私とベゼちゃんも機体を上に向けつつ、ゆっくりと虹の上進んでいきました。何だかんだ減速してまで私に付き合ってくれるあたり、ひょっとしたらベゼちゃんはいい子なのかもしれません。

 これなら私の話を聞いても、きちんと真摯に向き合ってくれそうです。

 ――――しかしながら、やはりそう上手くはいかないのが現実という物でした。

 先を行っていた白魔女はいきなり振り返ったかと思うと、人差し指をベゼちゃんの方に向けてきたのです。それから感情により黒く濁った眼でこちらを見据え、小さく「DA」と口にしました。

 すると白魔女の指先から、白い大きな球体状の“何か”が射出されました。文字通り弾丸のような速度です。それは瞬く間にベゼちゃんへと到達し、ベゼちゃんの全身に迸る稲妻状の魔力に弾かれていました。今のは恐らく幽霊の形状変化でしょう。幽霊を大きな球体の形にして、ベゼちゃんに向けて射出したのだと考えられます。

 けれども、そんな攻撃を受けて尚、ベゼちゃんは余裕の表情を浮かべていました。


「悪いけど、その幽霊攻撃とかいうのはあたしに効かない。あたしのゴーレムモードは全身防御も併せもってんの。だいたいあたしの術の真似すんな。ムカつく。そういうの、やめとけば?」


 その言葉は白魔女に届いたようで、白魔女はここでわかりやすいリアクションを見せてくれました。

 若干遠目からでもわかるように口を歪め、口の両端が裂けるような凄惨な笑みを浮かべたのです。

 それから、やけにはっきりと通る声で静かにこう告げました。


「へえ……☆」


 白魔女の声に甘さが戻りました。これは嫌な予感がします。

 私の鼓動も荒れていきます。ベゼちゃんの側からも息を呑むような気配を感じました。

 これは何かよからぬ事が起こりそうです。

 ここでベゼちゃんは、すぐに眉の形を怒りの形に変え、不満げに唇を尖らせました。その声は心無しか少し震えているようです。


「何よ?」

「本当に、効果が無いのかな??? 本当の本当の本当にぃぃ~~~????」


 白魔女の口調は、芝居がかったものに戻っていました。そのわざとらしい笑顔も完全に元通りです。

 ちなみに私は機体操作に必死です。虹という目安があるからまだ操作しやすいのですが、それでも初心者にこれは厳しすぎます。

 一方、余裕を取り戻していく白魔女に対し、ベゼちゃんの表情は徐々に強張っていきました。


「どういう、意味?」

「だってだってだって~~~◇ その術、見るからに解除不可型でしょ???? 解除してないのがいい証拠っ♪ もしくは解除と再発動に莫大な魔力を消費するから、常時発動していた方が楽ってわけだ☆ミ 違う?」

「何の根拠が――――」

「あっ、ちょっとムッとなった♪ これは当たりみたいだね(嗤) だとしたらさぁ……」


 白魔女は「はてなはてなはてな」や「かっこわらい」などといった記号を口で言うようになってきました。

 完全に元通りのテンションです。それだけに不安です。さっきまでの短い沈黙期間は何だったのでしょうか。

 白魔女は、笑みのまま続けました。


「……それ、維持に魔力割いてるでしょ???? それも相当☆ だったらそれを乱す攻撃が、本当に無意味になるのかなぁ~~~~????」

「う、うっさい!」

「他の術を使わないあたり、その術に使う集中力がとんでもないっていう可能性も否めないよね☆ それこそ他の術なんて併用出来ないぐらいの集中がさ♪ あっ、でもアプリちゃんと平然と話してたあたり、意外と大丈夫なのかな~~~~???

 兎にも角にも、強力な反面、その代償は大きいタイプの術って事には変わりないでしょ??? 集中云々を抜きにしても維持のための魔力消費が激しいんだよね☆ そうでしょ? ね^^」


 白魔女の煽るような言葉に、ベゼちゃんは何も返しませんでした。

 その反応を見た白魔女は、満足そうに三本指を立て、またしてもベゼちゃんの方へ向けました。

 その両目は感情によって黒く滾っています。

 白魔女は口紅で彩られた唇を妖艶に動かし、よく通る声でそのパスワードを口にしました。


「DADADA、DADADADADADADADADADADADADAぁ~~~~~っ☆」


 白魔女の指先から何発もの白い砲弾が放たれます。幽霊操作にパスワードはいらないはずです。あったとしたらもうとっくに口にしているはずなのですから。

 ともなればこの発声は完全に悪ふざけでしかありません。ベゼちゃんの術を真似した行為なのでしょう。

 もちろん白い弾丸はベゼちゃんには通用しませんが、ベゼちゃんの表情が曇っていきます。弾はベゼちゃんが避けようとしても追尾してくるので、ベゼちゃんはその攻撃をほぼ全弾受ける結果となりました。

 稲妻によって守られているベゼちゃんですが、この状況はどうにも芳しくないです。

 ここで白魔女が楽しそうに嗤い声を上げました。


「さあて、あと何発もつかなぁ??? ささ、乱れた術を調整していきなよ☆ そのたび、君の魔力はどんどん消費されていくけどね☆ミ それ、調整用の魔力消費がおっきいはずだよね♪」

「チィ……!」


 ベゼちゃんが悔しげな声を出します。実際、なかなか悔しい事でしょう。いいようにやられているのですから。

 ですが、私はここで三つの疑問を抱かざるを得ませんでした。この流れは少し不自然だと思ったのです。

 まず第一に、白魔女のとった戦略が少し回りくどいような気がするのは何故か、という疑問です。いえ、決して悪い攻め方ではないと思うのですが、どうにも白魔女の力だったら他に方法があるのではと思えて仕方が無いのです。それが一つ目の疑問です。

 それから第二に、白魔女はどうして私を攻撃しないのか、という疑問です。白魔女が攻撃を始めたという事は、私達をここで撃墜させるつもりだと考えるのが妥当です。しかしながら攻撃するのは防御力の高いベゼちゃんだけで、私には一切干渉してこないというのは少し変でした。いくら吸いこみがあるとはいえ、白魔女の攻撃方法ならば私などすぐに墜とせるような気がしてなりません。それが二つ目の疑問です。

 そして第三に、白魔女が急に笑顔になりだした理由はなんなのか、という疑問です。今まで私とベゼちゃんが合流するのを良しとせず、最終的に機嫌を悪くした白魔女が笑顔になった理由、それがわからないのです。そもそも私達を無視して先に進む事すらしていないあたり、まだこちらに何か執着がある気もします。それが三つ目の疑問です。

 この三つの疑問は、相当な違和感を放ちながら場を乱していました。こんなに大きな違和感ならば、流石に駄目で鈍い私でも気になってしまいます。それらが一体何を意味するのか、私にはとても理解出来ませんでした。ここで全てを解明出来るほど、私は優秀な人間では無いのです。

 ……と、ここで虹の麓が見えてきました。虹は緩やかな曲線を描き、斜め下への緩やかな進路を示しています。出ました。私が嫌だった「下」への道です。心臓がバクバク五月蠅くなってきました。そういえば状況のせいで忘れていました。こういうのが、私は何よりも苦手だったのです。

 けれども、これまでの直線加速の体験やキャットさんの機体操作の体験によって、私の心臓は少しだけ鍛えられていたようでした。これまでよりも震えなくなっています。むしろ、これから迫る地面に対して胸の奥が“きゅん”となってしまうぐらいです。って、だからこの感覚は何なのですか。やっぱり破滅願望なのでしょうか。

 ……今の私には、これぐらい余計な事を考える余裕が出来ていました。

 だからこそ、これから起こる出来事には対応しきれなかったのです。

 まず、私のすぐ傍を飛んでいたベゼちゃんが、憎々しげな声を張り上げたのが始まりでした。


「……ったく……じれったいッ!」


 ベゼちゃんは本体についたボタンを押し、再び白魔女の方へと超高速で接近していきました。

 碇状の魔力をブンブンと振りまわしながら、全速力での突進です。いくらなんでもこれを簡単に回避する事は不可能でしょう。

 現に、白魔女は両目を見開いて急速な方向転換を行い、辛うじてベゼちゃんの攻撃を避けていました。やはり余裕の無い避け方です。それでも、攻撃はかすりすらもせず避けられてしまいましたけれど。

 と、その瞬間。

 私の周囲に半透明の白い“何か”が浮かびあがってきました。私を取り囲む大量の白い球体です。それも全てトゲトゲの生えた大きなサイズの球体でした。

 一瞬浮かんだ「それ」はすぐにその姿を消してしまい、私は少々混乱してしまいます。あれはきっと白魔女の操っている幽霊です。それはきっと間違いないはずです。しかしどうして一瞬ホワっと見えたと思ったら、また消えてしまったのでしょうか。私の中の疑問は膨らみます。

 ――――まさか今のは、私のような霊視能力者でも見えない「幽霊」だったのでしょうか。

 そういえば白魔女が一度、おじいさん相手に「ステルス」という単語を使っていました。そして私の肩に乗っている時、黒猫しろまじょは人に見られてはいないようでした。本人も後に、その時にステルスを使ったと明言しています。おじいさんとの闘いの際に。

 となればステルスというのは「特定の人物以外に幽霊を見えなくする技術」だと考えられます。そうして透明になった幽霊は、白魔女の集中が乱れた事によって一瞬だけその姿を見せた……と考えるのが自然です。

 ……これ、非常に危険です。

 白魔女は既に手を打っていたのです。きっとベゼちゃんに幽霊弾を撃つついでに、見えない幽霊も同時に射出していたのでしょう。それから私の付近に見えない幽霊を展開させ、ゆっくりと私の周囲を取り囲んでいったのだと推測出来ます。更に一度で吸いきられる心配を考慮して、そもそも幽霊を合体させない、という徹底した攻略法です。ああ、もう撃墜される未来しか見えません。それも凄く痛い目に合わされそうです。

 私は必死になってグリップを振りまわしますが、効果があるのかどうかがまるでわかりません。いえ、多分意味がないでしょう。白魔女はグリップを避けて私を狙う事だって出来るはずなのですから。

 その上、今は私の苦手な“下りの道”です。もう精神的に厳しくなってきました。吐けるものならとっくに吐いています。それだけ私は限界だったのです。


「……なに、これ……」


 私の精神は相当ダメージを受けていました。もう何度も限界を迎え過ぎたせいで、私の心は摩耗しきる寸前まで追い込まれています。

 そんな私の前では、白魔女とベゼちゃんが激しい空中戦を繰り広げていました。

 ベゼちゃんが白魔女の方へと加速と減速を駆使して接近し、碇状の魔力を叩きつけようとして避けられています。一方の白魔女は避けるだけでなく、指先から大きな白い球体を「DADADADADADADA」と言いながら連続で放ち、どんどんベゼちゃんに当てていっていました。当たれば当たる分だけベゼちゃんの魔力消費が多大な物になっていきます。これはどう見てもベゼちゃんの不利でした。

 それにしても凄まじい戦闘です。

 また、白魔女が避けるたびに、私の周囲の幽霊が姿を現していました。どうやら白魔女の集中が少しでも乱れると、このステルスは一時的に解除されるようです。幽霊は、姿を現すたびに徐々に私へと近づいてきているのが分かりました。

 どうも幽霊操作をあえてゆっくりにする事によって、集中が乱されても操作だけは続行させているようです。一応、私の進路上に幽霊を壁状に展開された時のために、私は眼前に吸引口を構えてはいるですが何か心もとないです。

 このままでは緩やかながらも完全に取り囲まれて、私はそのまま苦痛を与えられて撃墜されてしまうのでしょう。それだけは嫌です。最悪です。もしくはベゼちゃんの術が白魔女の手によって限界を迎えさせられた時、私達の命運はそこで尽きてしまうのです。

 万事休すと言った所です。もう本当に手だてがありません。

 ゆっくりと追い詰められたせいで、全身を深い絶望感が支配していきます。ああ、もうそろそろ心が限界です。

 今までは無理な状況が“急速に”迫ってきてくれたお陰で、絶望よりも諦めや驚愕が勝ってくれました。ですが今のような緩やかな絶望は、私の心をじわじわと弱らせてしまうのです。私の心を覆う防護用の膜が、じっくりじっくりと時間をかけて破られていくような感覚です。この恐怖を抑えつける理性が決壊した時、私はもう正気ではいられなくなっている事でしょう。それだけの恐怖感なのです。

 ……やだ。

 私の心に一つの変化が訪れました。

 何かを否定する心、それがより一際存在感を増したのです。この身に迫る困難を否定する心、白魔女と出会った運命を否定する心、そんな状況まで追い込まれてしまった無能な自分自身を否定する心、それらが急激に大きくなっていったのです。

 ……やだ、やだ、やだ。

 私の心の奥にある「限界」という概念に、ヒビが入ったような錯覚さえもがありました。

 そんな時、胸の奥がまたしても“きゅん”となりました。その感覚はこれまでとは若干異なり、継続して“きゅんきゅん”と鳴り続けています。だからこの感覚は何なのでしょうか。ああ、もう本当にわけがわかりません。あたかも警戒音のようなリズムでその感覚は膨れ上がっていき、やがて暴走しました。具体的に言うと、止まらなくなってしまったのです。“きゅんきゅん”という感覚が、ずっと継続して続いてしまうのです。

 こうして私の胸の中は全て“きゅんきゅん”という感覚に取りこまれてしまいました。

 まるで初恋のように甘く、焼き焦げるかのような強い衝動が湧きあがってきます。そういえばこの感覚には覚えがあります。それは遠い記憶だったような……

おまけ



白魔女の術

・幽霊操作と瞬間移動の二つ。

・幽霊操作は一度発動すれば長時間維持する事が可能であり、今回はレース開始前からずっと発動していた。

・幽霊は自在に操作する事が可能であり、消したり出したりも自由。しかし幽霊を別の座標に移動させる場合、そこに何か障害物があっては移動は不可能となる。

・瞬間移動は普通の人は絶対に使えないレベルの大魔法。白魔女は魔女故の膨大な魔法知識と才能で、なんとかそれを会得するに至っている。三十分以内に訪れた位置ならば、障害物さえなければ自由に移動可能。しかし発動には膨大な魔力が消費され、更に溜め時間も存在するので簡単には使えない。

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