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現代ファンタジー的日常生活  作者: パンダらの箱
今日の魔女は掃除機で飛ぶ、編
1/36

第一話「平和な世界の灰色な日常」

まずは少女主人公による一人称の魔女編です。

ファンタジー世界でよくある“箒”がどう進化したか、という点に主軸を置いて進めていこうかと思います。

 剣と魔法の世界。

 私達の住む世界は、かつてそう呼ばれていました。

 「剣」のような戦闘用武器を持って闘う者が英雄視され、「魔法」という特殊技能を持った者達が歴史を彩る世界。それが数百年前の世界の在り方だったと、私は聞いております。

 昔は、世界中で戦争が絶えなかったそうです。何でも事の発端は“魔族”という名の種族が何らかの目的で一致団結し、人間側に対して戦争行為を仕掛けてしまった事だそうです。

 魔族は、ある日突然この世界に出現したといわれる、とても謎多き種族でした。魔族の姿に統一性は無く、大きなトカゲ型だったり、大きな頭の狼型だったり、紫色の肌をした人型だったり、とにかくたくさんの種類が存在していたそうです。それも皆、それなりの自我を持っており、きちんと自らの種族の中で“社会”を築いていたそうです。歴史の教科書によれば、魔族は人間以外で唯一社会を形成した生き物、なのだそうです。

 兎にも角にも、ある日の宣戦布告によって魔族と人間は全面戦争へと突入してしまったのでした。なんとも野蛮な話ですよね。

 その戦争は、何回も何回も代替わりしても続けられ、多くの犠牲を出し続けてきたそうです。

 けれども、それから数百年も経過した現代。

 世界は、実に平和になりました。

 私達人間と、魔族という不思議な種族は、互いに手を取り共存し合う事を決めたのです。だから、今ではもう「人」という呼称は、人間と魔族の両方を総括した呼び名となっております。

 大きな戦争はとっくの昔に終わったのです。だから、少なくとも私達の世代は、実際に戦争を体感した事がありません。私達の世代にとって、終戦は生まれる前の出来事なのです。

 かつて「剣と魔法の世界」と呼ばれたこの世界ですが、今ではもう、剣術などといった武術は軒並み廃れてしまいました。争いごとが無くなったので、単純にもう需要が無くなってしまったのです。

 なので、今の世界に関しては「科学と魔法の世界」というのが、適切な表現になるでしょう。

 魔族は“魔法”という特殊な技能を持ち合わせていました。ですが、それに対して人間側は“科学”という独自の技術を発展させる事により、魔族に対抗しようとしたそうです。

 その二つの技術は互いに対立しつつも高めあい、相当なインフレーションを引き起こしました。

 そして終戦から少しした後、誰かが魔法と科学を組み合わせようと考えたそうです。詳細は割愛しますが、その目論見は見事成功したそうで、二つの技術はついに一つとなったそうです。それを機に、この世のあらゆる魔法と科学はどんどん混ざり合っていきました。そうすると今度は、爆発的な技術革新が起こったそうです。

 その結果が、今の世界です。高すぎる技術力に支えられた平和な世界。それが私達の世代が知る「世界」の形なのです。

 そんな、平和で素敵な世界の真っただ中。

 わたくし、アプリ・アクセルハートの日常は灰色そのものでした。


「ああ……もう学校行きたくないなぁ……」


 かつて魔法という名の技術は、魔族側だけが保有しているものでした。

 魔力、という特殊なエネルギーを体外に放出し、あらゆる物体を生成したり、操作したり、消したりする特殊な技術。それが魔法という物でした。

 まあ平たく言えば、なんか不思議な凄い力、という解釈で概ね間違っていません。

 しかし、魔法を行使するには“魔力”が必要不可欠です。この特殊エネルギーを体内で生成出来なければ、魔法を使う事は不可能なのです。

 その“魔力”を保有していたのは、昔は魔族だけでした。故に魔法は、人間には絶対に使えない技術だったのです。

 しかし時代を重ねていくにつれ、いつしか人間側にも、魔法を扱える者が何人も何人も現れていったそうです。詳細は知りませんが、いつの間にか人間にも魔力が宿るようになっていたのです。

 そして、今現在。

 魔族側が、より簡単に魔法を行うための技術提供まで行ってしまったため、今や世界に住むほとんどの住人が魔法を使えるようになってしまいました。

 今や魔法は必須技能です。魔法は、学校のカリキュラムにも含まれるようになり、進学や就職の際にも重視される要素となったのです。

 とはいえ私達も日常的に魔法を使って生活しているわけではありません。一般人の魔法は、普段の日常生活においては全封印されているのです。

 魔法が必要な際だけ、携帯端末型の「携帯許可証」を用い、その封印を解除する事が出来るのです。

 電話やメール、あるいは専用アプリケーションを使う事によって、地域ごとに設置されている魔法管理会社に許可を頂き、そうやって初めて、人は魔法を自由に使えるようになるのです。

 昔は、災害時などのやむを得ない状況でしか許可が下りなかったそうですが、今ではもうスポーツですら許可が下りるようになってしまいました。場合によっては、特定施設内に設置されたゲートをくぐるだけで、全封印が解除される事だってあるぐらいです。

 今やもうあらゆる場所で魔法を使う事が出来ます。魔法が、一部の人間しか使えない特殊技能だった時代は終わったのです。

 魔法万歳。今はそんな社会です。

 けれども、やはりいつの時代も、爪弾き者は存在するものなのです。

 私は、現代において、魔法が上手く使えないという少数派でした。加え、それを補うだけの要素も、私にはありませんでした。勉強も駄目で、運動も駄目。私は、本当に取り柄の無い駄目人間なのです。クズです。

 そのせいで、昔から皆に馬鹿にされ続け、今だってその件で虐められ続けています。

 本当にもう勘弁してもらいたいものです。

 今日も私は、いつも通っている中学校からたった一人で帰宅します。一人ぼっちの帰路は寂しい物です。

 ですが友達など、内気な私に出来るはずもないのです。

 もう中学三年生だというのに、一向に友達が出来なかった私にはわかります。

 もう無理なものは無理なのです。

 私は、ちょうど耳が隠れる程度のショートヘアを風に揺らし、片手で持った通学用鞄をぶらぶらと揺らしながら、今日も曖昧にぼやけた思考のまま、家までの長い道程を歩き続けます。

 舗装されたアスファルトの道は無機質で、周囲にある住宅群も、どこか冷たい空気を醸し出していました。特に背の高いマンションなどは、より一層無機物的な冷たさを放っているかのようです。高くそびえたコンクリートの塊は、私に人の温かみを与えてはくれません。

 私はそんな世界に対して、どこか寂しいな、という感想を抱いてしまいました。


「どうして、私には何の取り柄も無いんだろ……」


 つい、そんな事を口走ってしまいました。が、聞いている人など誰もいません。

 一人も友達が居ないというのは、こういう時、非常に便利なものです。

 こんな何の取り柄もない私に残された、唯一の利便性と言ってもいいでしょう。

 一応、死んだ方々の思念を感じ取る、という特技はあるのですが、これはどちらかと言えば欠点の方に部類されます。

 何故かって?

 それは簡単な事です。

 ちょうど今、私の眼の前に大きな交差点があります。

 もちろん傍らには歩行者用の信号機もあり、私は、対面の信号が青に変わるのをじっと待つ事にしました。

 私の前には横断歩道があり、その向こうには、私と同じく信号待ちの人が立っています。

 そう。金髪で、同じく金色の派手な衣装を身に纏った、半透明の人が立っているのです。

 経験上わかります。あれは、幽霊です。それも悪霊と呼ばれる類のものです。最悪です。

 現代において、幽霊は既に存在を立証されたものとなっております。だから、未知の恐怖はありません。

 しかし、問題が一つだけ存在しました。


「あっ……どうしよ……」


 私のような普通の女子中学生には、悪霊に対する対抗手段が何も無いのです。

 そして今の世間では、悪霊は半ば災害のような扱いを受けています。確かに、遭遇確率がかなり低いかわりにいざ遭遇してしまえばどうする事も出来ない、という点では災害にそっくりであるとも言えるでしょう。

 悪霊は年々増え続けており、そろそろ専門家でも対処しきれなくなっています。だから、仮に一般人が遭遇してしまった場合、気の毒だが諦めてくれと言われているのです。

 私は、苦笑いしました。それしかする事が無かったのです。

 いくら幽霊が見えようとも、対抗出来るだけの技術をセットで持ち合わせていなければ、完全に無意味なのです。その上、見えた時点でもう遅いのです。

 こんなものが特技だなんて、笑い話もいいところですよ。

 だから、私の霊的なものを見る眼は、どちらかと言えば欠点なのです。

 ……しかも、さして珍しい特技でもないので、希少性すらもありません。


「うわ、最悪だよ……」


 何はともあれ。

 半透明の金髪幽霊は瞬く間に私へと接近し、気付けば私の身体の中にすっぽりと入ってしまいました。幽霊に体内に入られる、というのは致命的な事です。世間ではこれを“取り憑かれる”と言いますね。理由は後で説明しますが、一度こうなってしまえば中々どうする事も出来ません。最悪です。

 兎にも角にも。この日、私はとある幽霊に取り憑かれる事となったのです。

おまけ



世界大戦

・人間と魔族によって繰り広げられた戦争の事。過去に十二回行われている。

・最初は“魔法”という特殊技能を有した魔族の方が有利であったが、人間側が技術力を高めていくにつれて戦況は覆っていった。

・十二回目の戦争の折、双方で終戦を望む声があった事も関係して意外とあっさり停戦協定が結ばれた。だが急に決められた事なので、実は過去の遺恨は完全に消えたというわけではない。

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