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おばちゃまの勝手に相談室。 〜奥様の事情〜

作者: 七草せり

今日はちょっと違う、おばちゃまの勝手に相談室……。



おばちゃまカウンセラーのマンションの

一室。

いつもの相談室。



しかし、いつもとは違う空気が部屋に漂っている様な……。




「……で? 貴女のご主人が浮気してると?

確証はあるのかしら?」



今日の相談者さん。


少しお若い奥様である。



先生はソファに座り、私が出したいつもの

紅茶を飲み、そう尋ねる。



「はい。 証拠があります」



私が出したお茶に手も触れず、膝の上に乗せたハンカチをぎゅっと掴み、そう言った。



重い空気。


先生も真面目な顔つき……。



「証拠ねぇ。 どんな証拠、かしら?」



テーブルにティーカップを置き、タバコを

口に加えた。


いちいち高そうなライターで火をつける。



「証拠と言っても様々よ? 下らない証拠は

証拠にならないの。 分かっているかしら?」



ふーっと煙を吐き、そう言った。



若い奥様、ぐっと唇をかむ。



「それ相応の、証拠……。 お持ちになってらっしゃるの?」



たたみかける言い方。




「あります。 確定証拠……」



かくていしょうこ?



誰かの名前みたいな言葉を口にした。



「これです。 主人のケータイのメール。

私にリメールしました」



バックから携帯電話を取り出した。


今時の携帯電話。


奥さんはメールの欄を開き、テーブルの上に

置いた。



「見ても宜しくて?」



先生がタバコを消し、携帯電話を手に取った。



しばしの沈黙……。



リアルな浮気証拠があるのか。


申し訳ないけれど、興味がある。




「ふーん……。 貴女のご主人、メール消してなかったのかしら? 」


携帯電話をテーブルに戻しながら尋ねた。




「いえ……。 あの。 メールの予測変換機能を使いまして……。それで」



真っ直ぐに先生の顔を見た。



再びタバコを口にした先生が、思わずむせて

しまった。



「予測変換機能……? メールの? それで

そんな文章になるの……?」



少し驚いた様子の先生。



ドアの近くの椅子に座っていた私。

ちょっと驚いてしまった。



メールの予測変換機能。勿論知っている。


先生はあまり知らない様子だが……。



メールの文章は、キーワードを入力すれば、

予め打ったものは復元できる。




「で、 貴女はこの文章を?」

「はい。 大体ですが、 文章復元しました」



さらりと一言。



「貴女のご主人、 おバカさんなのかしら?

それとも、 貴女の執念?」




気を取り直し、タバコを吸いながら奥さんに

尋ねた。



「……どなたもご存知だと。 メールの文章

復元なんて、 割と簡単にできます。

複数の人とメールをやり取りしていれば、

少し難しいですが」



この奥さん、何か凄い?


先生に向かってここまで言えるなんて。


内容も気になるが、この人にも興味を

覚えた。




「なずなさん、 貴女もこういうのご存知なのかしら?」



先生が私を見た。



「あ……。 えーと。 予測変換機能は知って

ます。 便利なので。 ですが、メールの復元

までは……」



うつむいてしまう。



何と無く、この場にいたくない……。




「そう……。 ありがと。 ……で、 メールを

復元して、 どう思ったのかしら? ショック

受けるわよね?」



奥さんに向き直し、タバコを消した。



「ショックでした。 勿論。 ですが、証拠

になるので、 今後役に立つかと……」



強さが滲み出ている。


女の人の……。




「まあ、 証拠にはなるわね。 こーんな文章なんだもの。 まあ、恥も知らないと言うか。

若い男性が」



やはり気になる。



「私もはっきり言って、バカバカしくもなりました……。 若い女性ならともかく、私よりも、主人よりも年上の人にこんな文章」

「魅力、 なんじゃないかしら? 年齢なんて

恋愛において関係なくてよ? いかにその方に

魅力を感じたか。 そうじゃなくて?」



ティーカップの紅茶を飲み干し、諭す様に

話した。



「魅力……ですか? 相手に魅力があったと

言う事ですか? 」

「貴女には貴女の魅力、勿論あるわよ?

でもご主人は、 違う魅力を感じた……」



ゆっくり優しい口調。



「だから、 こんなメールを……」



手に持っていたハンカチを、より一層強く

握る。




「所詮は男と女。 惹かれ合うのは自然な

事。 浮気は当然良くないけれど、惹かれ合う

物はどうにもならない……」



「私は。 私はどうしたら……」



頬を涙がつたう。


苦しい想いを抱えている……。



「……どうしたいかは、 自分で分かっているはずじゃなくて? 答えが出てるから、

ここに来た……。 違うかしら?」

「答え……ですか? 」



少しの戸惑いの後、何かを覚悟したかの

様な顔になった。



「ふふふ。 女は強いのよ? まだまだ若いんだから。 貴女自身、生かすも殺すも自分で

決めなきゃ。 ね?」




結局……。解決したのか?




「私、 主人に話します。 自分の気持ちとか、これからの事とか」



すくっと立ち上がった。


女の人は強い……。





相談者さんが帰った後、後片付けをしていた私は、気になっていた事を先生に尋ねた。




「あの、先生……。 メールの内容……。 何だったのでしょうか……」

「知りたいかしら? 個人情報。 あま、貴女は助手だし、 教えてあげる」



にこりと微笑んだ。



私はごくり、息をのむ。



他人様のプライバシー。簡単に尋ねるもの

ではない……。



しかし、先生は少しだけ曖昧に教えてくれた。



「男と女。 惹かれ合う二人。 愛の言葉。

そんなとこかしら? まあ、あの若い奥さんには、許せない内容……。 でも、 それが現実なのよ。

周りが騒いだ所で、どうにもならない。

分かり切ってる事。

ただ……。 納得したかった。 誰かに言う事で、 割り切りたかった。 だからここに彼女は来た」



割り切る事。納得する事……。


誰かに言って、自分の気持ちに踏ん切りを

つけたかった?




「人はね。 時に自己認識をしたいのよ」



ふふふ。そう言って、先生は書斎へ向かった。



私には分からな事情。


人生は本当に色々ある。




私はキッチンでティーカップを洗いながら

そう思った。

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