表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ALICE  作者: 勘兵衛
1/2

第一話

当作品には、作品上での暴力的表現が見られますので閲覧には注意してください。

 目障りだった。

 硝煙の匂いと、撃ったときの圧迫感だけがあればいいと思っていたから。





「おじちゃん……あたしのこと、買って?」





 目障りだった。

 そういう声も、実は震えている手も、どう見ても年端の行かぬ外見も。

 胸糞悪い。どうして俺の元に来た。





「お金、欲しいの」





 涙を溜められても俺にはどうすることもできない。

 当然金を出す気はなかった。ならばどうするか。





「ねぇ。お願い」





 縋るような目。見覚えがあるような気がして、頭痛がした。

 俺は懐の銃に手を当てて眉根を寄せる。少女のやっている商売は、この街ではごく一般的だ。

 無法地帯となっているわけではないが警察も官僚も、花街へと足を運んでいるため、何も変わらない。


「寝てる間にお金なんか取らないから」

「馬鹿が……」


 小さく罵ったのは、少女に対してか、自分に対してか、はたまた誰かに対してか。

 当然親という存在などないであろう少女は澄んだ蒼い目で俺を見上げてくる。

 その先の行為の意味を分かっているのか。


「下世話な質問だが」


 俺はできるだけ声のトーンを上げてみた。

 子ども相手は慣れていない。尤も、この少女を子どもと形容していいものか。


「今までに客を呼んだことは?」

「……おじちゃんが初めて」


 ひそめた眉根を揉みしだいて、髪をかき上げる。

 この感覚には覚えがある。慨視感に囚われたように記憶を辿る俺がいた。

 そう、この少女は確かに。


「どうしたの?」

「いや……」


 確かに、似ていた。

 だが所詮それはその慨視感でしかなく、動揺と苛つきが同時に襲ってくる。

 裏道に入っているとはいえ、道路の中央でこのような会話を見られたりすれば、それこそ命に関わる。

 この仕事はそういうものだ。

 ふと見ると、少女の手は依然震えている。そうだ。震えている方が、正しい。

 俺の銃は、正しい答えなんざ教えてはくれないが。


「お前の雇い主は?」


 そこまで問答して、俺の口は勝手に動いていた。

 雇い主と会ってどうするつもりだと自問してみたが、銃と同じで俺の頭は答えなど導かない。


「カツラギの……」

「ああ、花街外れか」


 花街の遊郭通りにも、外れというのは存在する。まさにこの曇り空と同じ空気の郭。

 はぐれ者共が集う場所だ。実際、足を運んだことはないが髪も伸ばし放題の俺はそこのはぐれ者共と同じ人間に見えたんだろう。

 この、少女になら特に。


「連れて行け」


 少女は、首をかしげた。黒い髪が同時に揺れて、その途端に雨が降る。

 ああ。

 胸糞悪い。




何を想い、どこへ向かい、どんな結末に達するのか。

それは彼らだけが知っているのでしょう。

読んでくださってありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ