第7話 乙女と爆笑
誤字脱字・文章が下手・稚拙等至らない点ばかりだとは思いますが…、どうぞ宜しく御願いします。
「…水撒き露出狂って、凄い覚えられ方だな…。まるで俺が変質者みたい。でもあの時は仕方がなかったんだ。その、凄く急いでいて。いつも人間の棲みかに行く時は、伸縮自在で丈夫な紐で服を背中に括りつけてから、変身するんだけど。その余裕も無くて…」
私の目の前に座っている、黒髪の露出狂…ではなく獣帝は爆笑しながら、苦しそうにひいひい喘ぎつつ、人差し指で目尻に溜まった涙を拭った。
「申し訳御座いません。ついつい口が滑ってしまい…。どうかお許し下さい」
何がそんなに面白いんだ?と怪訝に思ったが、それを表に出さないよう、気を付けながらしょんぼりと肩を落とし、私反省しているんです、的な感じで謝罪すると、獣帝は困ったような笑みを浮かべ右手を左右に振った。
「いやいや。そんな。謝らなくてもいいよ。それよりも、裸エプロンの事は皆に言っちゃ駄目だよ。俺達だけの秘密ね。…あぁ、面白かった。それより馬車の中に無理矢理抱え入れちゃって、ごめんね。でも君が突然あんな事言うから吃驚して、ついつい乱暴な事しちゃった。大丈夫?怪我とかしていない?」
「いえ、大丈夫です」
そう言いつつ、心配そうな顔で何度も私の全身に目を走らせる獣帝を安心させようと、微笑を向けると、獣帝も弱々しい笑みを返してきた。
暫く二人、顔を見合わせ微笑み合う。
そうなのだ、私が黒髪の露出狂と口にした瞬間、目にも留まらぬ速さで馬車から半身を出した獣帝に、物凄い勢いで馬車の中に抱き入れられた。
そしてあれよあれよという間に、馬車の扉が閉められ、馬車出発。
「そう言えば、今日の君、凄く素敵だね。その水色のドレス。君の綺麗な、晴れ渡った空みたいな、薄青色の瞳と合わせてあるの?うん。とてもよく似合っている。この前の鼠色のドレスよりもそちらの方がより君の可愛らしさが引き立っていて、断然良いよ!それにその細かな細工がしてある銀の髪飾りも、君の肥沃な大地思わせる鳶色の髪に、凄くよく合ってる」
突然優しそうな微笑を浮かべていた獣帝がすっと真顔になったかと思ったら、爽やかな口調でサラリと賞賛され、じわじわと頬が熱くなった。
なっ…くっ口説かれた…それもさらっと。何だ、この人。プロか。
耳慣れない言葉の数々に…あぁっ。体中がもぞもぞぞわぞわする。ふんぬぅ…とっ、鳥肌が…。冷や汗が。
あぁでも、一つ訂正させてくれ。この前着ていたドレス、本当は淡いクリームだったんだ。でも、長年愛用しているうちに…こう、ね。
「お褒めのお言葉、ありがとう御座います。私の侍女達も、とても喜ぶかと」
そっと獣帝から目を逸らしてはにかみむと、声が裏返らないように気を付けながら頭を下げる。そしてそのまま目を閉じて、小さな吐息を吐いた。
ふぬぅ。やるな獣帝。
顔の造作も完璧で…。目尻に笑い皺が刻まれたやや吊り目がちな基本大らかで陽気な、でもどこか影を感じさせる金緑の目に、すっと鼻筋が通った形の良い鼻。笑みが良く似合う大きめの口が、綺麗な形のだが、少し角張った顔に品良く収まっている。それをちんと整えられた肩まである艶やかな漆黒の髪が覆っている。
背が高く手足も羨ましい程長くて、全体的に無駄なく鍛えられていて、引き締っている。
性格も優しく気さくで気配りが出来て…何だ、この完璧紳士。
こんなのと…馬車の中、二人っきり。
ふんぬぅぅぅ。何かこう…。居た堪れない。
心の中で唸っていると、くすっと小さな笑い声が聞こえてきて、さっと顔を上げ背筋を伸ばした。
と、穏やかな笑みを浮かべて私を見つめる獣帝と目と目が合い、また身体がもぞもぞぞわぞわしてきて、不自然にならないように気を付けながら視線を窓に移す。
「さっきから思ってたんだけど、そんなに畏まらなくて良いよ」
「いいえ、そういう訳には参りません。陛下に…」
「あぁーそう言えば俺、自己紹介してなかったな。淑女を前に、何たる失態…。どうかお許し下さい、姫君。さて、気を取り直して、俺は獣帝の近時を務めておりますディーゼ・ヴェンッです。どうぞお見知り置きを」
ディーゼは席から立ち上がると、滑らかに私の前に方膝立てをし、流れるようにそっと私の手を取り、手の甲に静かな口付けを落とした。
その一瞬、貼り付けていたきらきらうふふお淑やか姫君な私の仮面がべろりんと剥がれ、素が覗く。
私は慌ててそれを付け直すと、瞬きを繰り返しながら小首をかしげさせ、ごめんなさい淑女の私にはそんな事無理です、的な困惑混じりの笑みを浮かべ、丁寧に断りを入れようと、口を開く。
「………え、違うの…でありますか。しかしそうは申されましても、貴方様は獣帝陛下の近時でいらっしゃるのでありますので…。私めにとってはほぼ雲の上のお方である訳で…。無理なのでありますよ」
あっ、やばい。動揺して、口調がロアみたいになってしまった。
ふぬぅぅくぅ。姫って言われた…。姫扱いされた。全身がかっ、痒い。またもや鳥肌・冷や汗が出てきた…。
私偽者なのに…。偽者…。ふんぬぅ。なのに何故、私は七面倒臭い仮面なんか被っているんだ?必要ないよな。でも、うちの国の姫として来ている訳で…こう、体面があるし…。
煩悶していると、前方からまた爆笑が聞えてきた。
そのあまりの凄まじさにはっと我に返り、いつの間にか席に戻り、身体を折り曲げて笑い転げているディーゼをまじまじと見つめた。
と、笑い過ぎて涙の滲んだ目と目が合い、むっと眉間に皺を寄せる。
「何が可笑しいのだ?」
腕を組み小首を傾げると、ディーゼはまたまた爆笑した。
「ん?君が。だって俺、素の君知っているからさ…。あまりの違いように、もう、一目見た瞬間からずっと笑い堪えるの必死だったんだ。あぁ、やっぱり君、素の方が断然良いよ」
「ふんむぅ…。そうは言われてもだな、こちらとしても一様はうちの国の姫として来ている訳だから…。でも、人否獣人違いだろうし…どうしたものか…」
「人違い?」
真剣な顔で大きく頷く。
「そう、人違い。きっと本物の獣帝に会ったら、“何だこの娘。いらぬ。どこかに捨ててまいれ。”と言われて、即刻どこかにぽい捨てされると思うぞ」
「いや、絶対にそれはないと思うよ」
ディーゼは一瞬、奇妙な顔をしたかと思ったら、今日で何度目かの爆笑をした。
最後まで読んで下さった、とても優しい方へ
最後までお付き合いをしてくださり、ありがとうございました。
つづき頑張りますので、宜しければ次回も読んでやってください。
ぁ、どうしよう。ディーゼさん、ただたんに笑い上戸のお兄さんになってる?!凄く普通の人っぽい(今の所は…)
と言うか、フィデイアと偽獣帝ことディーゼ、何となくいい感じに…。あれ?あれ?
この二人、意外といける?
あれ?
そう言えば、ディーゼの名前、実は第4話で出てきてるんです。が、フィディアがその時、それを人の名ではなく、獣人特有の言い回しか方言とかだと思っていたので、普通の言葉っぽく平仮名表記と言う何とも言えない…。
阿呆娘、フィディア…。