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ほんとにほんとにほんとにほんとに本が好き

作者: 朝比奈和咲

 ※フィクションです! 寸評にはそれっぽいことが書かれているかもしれませんが、それは私の勝手な妄想であり、寸評に書かれたことが現実で起きたかどうかなんて私は知りません。

 また、かなり多くの本から引用させて頂いております。引用させて頂いた図書名等は後書きにて掲載させていただきます。


 (あらすじ)

 日刊○△新聞の朝刊一面に掲載された4月1日~7日までの寸評コラムです。この寸評を書いた人はあまりにも本が好きだったようです。それを原文のまま紹介します。

 

20XX年 4月1日 ○△寸評


 四月になった。この四月から新天地で活躍される方も多いことだろう。私もその一人である。今日からこの欄を任されることになった。

 入学、入社、転居、留学など。自分の知らぬ新たな場所で生活を始めるとき、胸膨らむ期待と同時に大きな不安が付きまとうものだ。私も様々な思いを抱きながら、筆を震わせてこの文を書かせて貰っている。

 そんな人たちにエールになればと思い一つの文を贈る。―この場所を知らず 夢の地を目指し 夢の地に着いて この場所を知らず― 時雨沢恵一のキノの旅の第四巻より。この一文をどう解釈するかはあなた次第である。

 そしてこの一文の下には英文が一つ書かれている。―Wherever I go, there I am.―

 どう翻訳するかはあなた次第である。翻訳の仕方で解釈の仕方も変わることだろう。翻訳も解釈もあなた次第で決まる。それは隣人も同じ。新天地では初対面の人と多く出会うだろう。様々な解釈に触れながら、新天地で活躍することを願う。



 20XX年 4月2日 ○△寸評


 ―「ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい。以上」― 谷川 流の小説『涼宮ハルヒの憂鬱』に出てくる台詞である。ヒロインの涼宮ハルヒが率いるSOS団にはこの台詞通りの人たちがいて、毎回騒動を引き起こすストーリーとなっている。

 日本の国会議員たちも何人かSOS団に入れる素質があるかもしれない。

 昨日の予算会議での話。「いつか必ず成果が現れる」と言いながら野党に科学的根拠が無いことを問い詰められ、「私には分かるから良いんだ」と言いきった大臣がいる。政治献金問題を追及されて「受け取っていない。ただ、そこに有ったから驚きだ」と言った大臣もいた。二人とも超能力者のような事を言っている。

 SOS団の正式名称は『世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団』。国会にSOS団は当然ない…、はずだが、騒動を起こす人が尽きないのはどういうことか。冗談はさておき、頑張れ、選ばれた人間たち。



 20XX年 4月3日 ○△寸評


 ○△宇宙開発機構の先日の会見。翌朝に発射される予定だった衛星ロケットに異常が発生したらしく発射は延期になったのこと。「どこに問題があったのですか」という記者の質問に責任者の回答。「一から説明して分かりますか?」記者側が爆笑したという。

 ―「いちからか? いちからせつめいしないとだめか?」― 著:あずまきよひこ『よつばと!』の主人公、小岩井よつばの台詞を思いだした。面と向かって言われたらイラッとするこの台詞も、相手が五歳の女の子と分かっていればお笑いで済ませられるというもの。

 昨夜、□○庁が庁内のパソコンから外部に戸籍等の個人情報が流出したことを明らかにして謝罪した。記者会見にて責任者曰く「原因は現在調査中」とのこと。どうせシステム上の原因を一から説明されたところで私には理解できないだろう。

 会見を聞いて「またか」と思い笑ってしまった。笑いごとではないのだが。一からの解明を早急に願い、再発防止を求む。



 20XX年 4月4日 ○△寸評


 ―「前が見えねぇ」― この欄でこの台詞を読んで笑った方がいたのなら、たぶん私と同じ漫画を思い出したに違いない。漫画クレヨンしんちゃん第二巻で主人公が給食室よりシチューを運びながら吐き捨てた台詞である。未読者の方にはどうしてこの台詞が笑えるのかと思われてしまうだろうが、それは原作を一読すれば分かってくれるかと思う。

 モダンホラーの巨匠、スティーブン・キング氏は自身の著『小説作法』の中で ― 文章とは何か ―という質問にこう答えている。― もちろん、テレパシーである ― なるほど、「前が見えねぇ」という台詞を聞いただけで笑った私はその通りかもしれないと思った。その言葉を聞いただけであのシーンを思い出し笑うのもテレパシーだろう。

 ―「先が見えねぇ」― 街の至る所で最近聞こえるこの言葉はいつどこで生まれたのか。聞くたびに淋しい思いをさせるこの言葉がいつか笑いに変わる日を待ちながら、今日も日経平均株価を見る人がいる。



 20XX年 4月5日 ○△寸評


 桜が見ごろである。今年の東京は例年より少し早くから満開になるそうだ。

 学生時代、進級と同時に配られる国語の教科書が好きだった人は少ないかもしれないが、そんな国語の教科書に少しでも親しんで貰おうと、文科省が今年から教科書の内容を大幅に改定した。

 主な試みとして第二教科書が作られた。小学五年生から配られるこの第二教科書、使用するかどうかはその学校に任せられるが、小説好きな私にとって驚きの中身となっている。

 以下、中学一年生の第二教科書に収録された短編の著者。筒井康隆、星新一、スティーブン・キング、アーサー・コナン・ドイル、アガサ・クリスティ、横溝正史、乙一、司馬遼太郎、時雨沢恵一、宮部みゆき、宮沢賢治、井上ひさし、あんびりぃばぼぉ・かずぅ。質も量も素晴らしい内容、只で読める学生が羨ましい。

 書店で絶賛発売中。今年は桜の見える公園で読書というのはいかがだろうか。本好きの私からもお勧めできる一品である。



 20XX年 4月6日 ○△寸評


 神保町の古本街に行く。当然ながら古本がたくさんその街にはある。

 古本の声が聞こえると言うと、たぶんホラーに思われるかもしれないが、本好きの方々ならなんとなく分かって貰えるのではないだろうか。以下、私が昨日聞こえた古本の声。

「はい、タケコプター!」「残念ながらタケコプターは科学的に不可能」「お前がそう思うんならそうなんだろう お前ん中ではな」「メロスは激怒した」「おのれ、どこへ行く」「ランニング状態で足を止めた」「パースエイダーは、何か持ってますか?」「おまえ、クロケー、できるかい?」「はじめ、ここは町のどの辺なの?」「ここはハァ吉里吉里国なんだものねっす」「クラムボンは死んでしまったよ………」「山村貞子の予知能力は百発百中のはずだが……」「この棒は、ぼくらの云うことを聞いて、なにか思ったでしょうか?」

 この声はまだ続いたのだが、記載範囲に限りがあるのでここまでにしておく。本は楽しい。



 20XX年 4月7日 ○△寸評


 この欄を任されてからちょうど一週間。どうやらこの欄は私に荷が重すぎたらしく、また力量も不十分であったことから、今回が最終回となってしまった。

 最後なので、私が皆さんに読んで貰いたい本を一つだけ紹介して終わりたいと思う。ショウペンハウエル氏の『読書について』という本である。本が好きな方、これから本をたくさん読もうとしている人に読んで頂きたい本である。

 ―「読書とは他人にものを考えてもらうことである。一日を多読に費やす勤勉な人間はしだいに自分でものを考える力を失ってゆく」― 本書から引用させて貰った。

 果たしてこの言葉通りなのだろうか。その答えは私には分からない。しかし、あなたが読書家であるならばこの言葉を頭のどこかに引っかけて置いてもいいかもしれない。

 ただ、本は素晴らしい物であることは間違いないと私は思う。だから、皆さんにも多くの本に親しんで貰えることを願いながら、私は去るとしよう、バイバーイ。



 20XX年 4月7日 日記


 仕事をクビにされた。担当者曰く、「お前、やりすぎ」ということらしい。

 自由に書いていいよと言われたから自由に書いたのに、やって見たらこのザマだ。

 明日からまたバイトを探さねば。まあ、またフリーライターの仕事でも始めるとしようか。

 と、思っていたら夜中に担当者から電話があった。

 どうやら新コーナーのコラムを書いてくれとのこと。

 今度は何を書いても上から文句を言われないらしい。担当者曰く、私にぴったりのコラムらしい。

 タイトルが『ほんとにほんとにほんとにほんとに本が好き』というらしい。

 好きなだけ本について語ってくれとのこと。クビになった○△寸評のようにぶっ飛んだことを書けとのこと。

 ぶっ飛んだとはなんだ。私はものすごく真剣に書いていたのに。失礼な担当者だ。

 しかし、仕事をもらえたのはありがたい。来週から始まるらしい。

 仕事が見つかってよかった。よかった、よかった。



 

 お読み頂きありがとうございました。


 寸評の一つ一つを独立させた形で完成させながら、七つ全てを合わせて一つの小説として完成させるということに挑戦してみました。書いていて楽しかったです。


 以下、引用一覧です。


 4月1日

 『キノの旅』 時雨沢 恵一  (メディアワークス)

 4月2日

 『涼宮ハルヒの憂鬱』 谷川 流 (角川書店)

 4月3日

 『よつばと!』 あずまきよひこ (アスキー・メディアワークス)

 4月4日

 『クレヨンしんちゃん』 臼井 義人 (双葉社)

 『スティーブン・キング 小説作法』 スティーブン・キング著 池央耿訳

 4月6日

「はい、タケコプター!」 『ドラえもん』 藤子・F・不二雄 (小学館)

「お前がそう思うんならそうなんだろう お前ん中ではな」『少女ファイト』 日本橋 ヨヲコ (講談社)


「メロスは激怒した」 『走れメロス』  太宰治 

「おのれ、どこへ行く」 『羅生門』 芥川龍之介

「ランニング状態で足を止めた」 『リアル鬼ごっこ』 山田悠介 (文芸社)

「パースエイダーは、何か持ってますか?」 『キノの旅』 時雨沢 恵一  (メディアワークス)


「おまえ、クロケー、できるかい?」 『不思議の国のアリス』 ルイス・キャロル

「はじめ、ここは町のどの辺なの?」 『はじめ』 乙一 (集英社)

「ここはハァ吉里吉里国なんだものねっす」 『吉里吉里人』 井上ひさし (新潮社)


「クラムボンは死んでしまったよ………」 『やまなし』 宮沢賢治

「山村貞子の予知能力は百発百中のはずだが……」 『リング』 鈴木 光司 (角川書店)


「この棒は、ぼくらの云うことを聞いて、なにか思ったでしょうか?」 『棒』  安部公房 (新潮社)


4月7日

 『読書について』 ショウペンハウエル 


 以上です。


 お読み頂きありがとうございました。

 ご意見、ご感想等、何かあればどうぞお気軽に。

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