第9話 お見合。
「それで?ディオン様は今はどんなお仕事をなさっていらっしゃるので?」
「え?…」
「…ああ、息子は今は私の下で、秘書のような仕事をしてもらっております。はい。」
ハンカチを出して汗を拭きながら、ディオン様の父親が答える。
「もうお一人方、ジェラルドと言う息子さんがいらっしゃいますよね?この方の弟さんになりますか?」
お嬢様?何を言い出すんですか?
「ええ、はい。ジェラルドという三男がおりますが…中々優秀で、16の年にさっさと王城の事務官試験を受けて家を出まして…」
ご自分のお父様が話している途中で、かぶせるように話を始めたディオン様。
「ああ…あれは、うちのごく潰しでね。父が戯れに女中に産ませた子だよ?あいつの母親が亡くなったから仕方なくうちで引き取ったけど、さっさと出て行ったし。僕と兄の母はそれこそ伯爵家の出でねぇ…血統が違うからね。義弟、って言うほどの者じゃないんだよ。あなたは全然気にしなくていいですよ。ねえ、父上。」
「…え?…ああ…」
いままでしどろもどろの受け答えをしていたディオン様が、ここぞとばかりに誇らしげに語る。
先ほどから…就職の面接か?と言う感じの会話が続いている。色気も何もないわね。
エマは引き気味に、お嬢さまが銀髪の青年に矢継ぎ早の質問をし、それに青年の父親が答える、と言う問答を見ていた。
…お嬢様?色恋、は?どうされましたか?見失いましたか?
これではいつものお見合と変わりませんわ!!しかも、義弟君の話などしておりません!
「こ、ここは、ほら、若い者同士で…ディオン、アリス嬢に庭でも案内して差し上げなさい」
汗を拭きながら、ディオン様の父親がそう言って…お嬢さまはめんどくさそうに席を立った。
「アリス様、ご案内いたします。手を。」
そう言ってにこやかに笑いながら手を差し伸べるディオン様。いい男であることは間違いございませんが…あの時の青年か?と言われると…似てはいるけど…雰囲気が随分と違う気がします。私にはもう、何が何だか。
手を取られて庭に向かうお嬢様の3歩ぐらい後ろをエマは歩きながら困惑していた。
「あの夜は…甘く切ない夜でしたね」
そう言いながら、中庭の東屋でお嬢さまと並んで座った男が、お嬢さまの金色の髪をもてあそんで…手で払い落されています。
「…は?どの夜ですか?」
「またまたあ…恥ずかしがっていらっしゃるんですか?僕たち知らぬ仲でもないのに…ね?アリス?」
「は?あなたに名を呼ばれる筋合いなどございませんが?どなたかとお間違えではないですか?」
お嬢様のイライラが…ひしひしと伝わってまいります。
…しかも…あの一件は真昼間でしたが…夜も…?いつの間に…?しかも…のどが渇くほど甘ったるい声…。
微動だにせずにエマが聞き耳を立てる。
「僕のことが忘れられなかったんでしょう?ね?僕も、あなたがこんなに美しい方だったなんて…ついてたな」
「…は?」
そう言いながら、いきなり覆いかぶさってお嬢さまにキスを…しようとしたディオン様が張り倒されている。
がばりと立ち上がったお嬢さまが、転がっているディオン様を完全に見下ろしている。
「よくわかりました。父上の勘違いだということが。エマ、帰りましょう。父上を呼んできてください。」
おおおおおお…お嬢様?




