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第7話 ジル君のお兄さん。

そこからの旦那様の行動は早かった。驚くほど早くあの別荘地に来ていた青年を特定した。


…ドナシアン子爵家のご子息。


良かったですね、お嬢さま。平民ではなかったので結婚話も早く進みそうですね。


旦那様が言うには…たとえ平民でも、親戚の家に養子に取らせてから婿に取る、と息巻いておられましたので…ようやくその気になったと思われるお嬢さまの行く末も、安泰でございますね!


怒涛の勢いで、旦那様が子爵家に見合いの申し出を入れて…今、着飾ったお嬢さまと旦那様と私は、王都に向かう馬車の中である。

こう言っては何だが…うちのお嬢さまは華やかさこそないが、おしゃれして黙って座れば物凄い美人さんだ。話さなければ、な。妹さんたちと違って…華やかさの代わりに、毒舌を手に入れたようだな。


「お父様?私これから小麦の収穫の段取りもあって忙しいんですけれど?」

「……だって、お前…もうすぐ子供が…」

「ああ、そのことでしたか」

なんてことないように、お嬢さまは窮屈だったのかレースの手袋を外しながら笑った。

「先方に責任を取らせるおつもりですか?ふふっ。」

「…そりゃあそうだろう!」

「そうですか?別にいいと思うけど。ふふん。お父様はどっちがよろしいですか?金髪と、向こうに似た銀髪の子。かわいいでしょうねぇ」

「……」


にこやかに微笑むお嬢さまと…対照的にどんな顔をしていいかわからずに苦悩する旦那様。そうですわよね…どちらに似ても初孫ですものね…。は・つ・ま・ご!


エマはハラハラ、ドキドキしながら二人の会話を聞いていた。


「で?どうして私が着飾る必要があるのかしら?」

「は?…いや、ウエストは絞らないようなドレスにしたが…」

「ええ、まあ?楽ですけど。先方さんに言って、うちの婿に貰ってしまう気ですか?私は構いませんが、家族が寂しがるのじゃございません?」

「……」


会話が…すれ違っている気がする。旦那様…ファイト!


王都のはずれにあるドナシアン子爵邸に着く。うちのタウンハウスと比べるとこじんまりとはしているが、中々歴史のあるお宅らしい。門を通り過ぎて、馬車寄せにつける。

「長兄は跡取り息子でもう嫁がいる。お前の相手は、次男坊だ。」

「は?なに?私もお見合なわけですか?」

「い…いやなのか?」

「いや、まあ…いいですけど。まあ、あの子なら。」


そうでしょうお嬢様!嫌なはずないじゃないですか!旦那様!


応接室に通されて、お二人の座った後ろに控える。


「たいへんお待たせいたしました」

そう言いながら入ってきた、父子。


そうそう、こんな感じの銀髪でね…え?でも、きちんとした格好をしているからかしら?とても似てはいるけど…こんな、軽そうな、軟派っぽい子だったかしら?あ、眼鏡を外したから?

エマは…頭の中であの別荘で会った青年の眼鏡を取って、髪を撫でつけて、にやりと笑わせてみた…ほんの少しの違和感。似てるけど。


その男は、にっこり笑って旦那様にお辞儀をすると、お嬢さまの手を取って、指先にキスをした。


エマは…銀髪の青年をまじまじと見つめた。





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