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第4話 エーヴちゃん。

それからというもの…エーヴちゃんとジルが遊びたがったこともあって、朝の散歩もご一緒させてもらった。その後は決まって、僕がコーヒーを御馳走になっている間、エーヴちゃんの中庭で二人(2頭)はかけっこをする。


エーヴちゃんは金色の毛並みに、金色の瞳。エーヴちゃんのお姉さんは綺麗な金髪にアンバーの瞳なので、似ているな、と思う。

ここはコラリー伯爵家の別荘らしい。僕が借りている別荘はずい分はずれにあるが、ここは湖から近い一等地のようだ。


昼にはエーヴちゃんのお姉さんが多めに作ってくれたお昼ご飯を持って、みんなで湖までピクニックに行ったり…退屈しないで休暇が過せた。

エーヴちゃんのお姉さんも、なかなか楽しい人だった。政治や経済にも明るく、普段ならあまり話さない僕とも議論になったりして…それがまた心地よかった。

女性は…と言ってもそんなに話したことはないけど、おしゃれやお菓子の話が好きなのかと思っていた。

馬に乗って町まで新聞を買いに行くのに、馬に乗れない僕を乗せて行ってくれたり。

「ちゃんとつかまっていなさいよ?」

女性にしがみつくのも初めてで…ドキドキだった。



その日も、湖の反対側に小さな林と草原があって、民家もなく、犬を放しても支障がないことを聞きつけてきたエーヴちゃんのお姉さんに誘われて出かけた。いいお天気だ。

慣れたもので…リードを外してやるとジルはエーヴちゃんと走っていった。楽しそうだ。

王都の小さい借家の小さい庭しか知らなかったジルがエーヴちゃんと草原を弾丸のように走っていくのを見て…なんだか申し訳ない気になる。もう少し貯金がたまったら…ジルと田舎に引きこもってもいいかもしれない。田舎の町役場あたりに仕事を探して…そんなことを考えた。


「うちの領は田舎だからね、エーヴは放し飼いみたいなものよ。雪が降るとね、どこでも駆け回れるようになるから楽しいらしくてね、呼んでもなかなか帰ってこなかったり。うふふ。」

「いいですね。ジルは狭い中庭しか知りませんから…のびのびとできる田舎暮らしもいいかもしれませんねえ。」


持ってきた敷物に寝転がって、どんどん小さくなる二人の(2頭)姿を目で追っていたエーヴちゃんのお姉さんが言うのに答える。

敷物の端っこをお借りして膝を抱えて座っている僕は…


…雪、かあ…。オオカミ犬というくらいだから、雪にも強いんだろうな。


雪原の上を楽しそうに走るジルの姿を想像した。


「それに…うちのジルはまだ雪を知りません。いいですねえ…」


何げなく言った僕の言葉に、お姉さんがガバリと起き上がって、

「あら、じゃあ、雪が降るころうちにジル君を連れて遊びに来なさいよ。エーヴも喜ぶわ。うちの仕事もひと段落するし。あの子、発情期のたびにお見合させられてるんだけど、気に入った子がいないみたいでね?連れてこられた血統の良いオス犬と、もう、大げんかよ。あんなに相性のいい子はなかなかいないと思うのよ。」


少し離れたところに待機していたお姉さんの侍女が、なぜだか、ぷぷっと吹き出して笑っている。


…?


遠くで、キャン、と小さくエーヴちゃんの叫び声が聞こえて…僕たちは食べかけていたバケットサンドを置いて、慌てて二人を(2頭)探しに出かけた。

「あの林の方ですよね?」

「キツネ罠にでもかかってしまったかしら?」


慌てていたので近道をしようと、藪を超えていく。

エーヴちゃんのお姉さんのスカートが葉っぱまみれになったが、本人も気に留めていないようだ。手を貸しながら、僕たちは鳴き声のした方に進んだ。


藪をかき分けて僕たちが見たものは…。


「じ…ジル…お前、なんてことを!」


走り出そうとする僕をエーヴちゃんのお姉さんが止める。

「だめよ。始まったら、止めちゃダメだって羊の交配の時に獣医さんが言ってた。」

慌てふためく僕とは対照的に…お姉さんはほっとしているような…?満足げな顔で重なる二人(2頭)を眺めている。

「え?でも…うちのジルは…血統書なんかないですよ?大事な…伯爵家の飼い犬に…なんてことを…」

僕は…繰り広げられる光景に思わず顔が沸騰しそうになって顔を覆う。なんだか…見てはいけないものを見た気がして…いたたまれない。


「うふふっ。ジル君の子供なら、かわいい子が産まれそうね。楽しみだわ。」

お姉さんに頭を抑え込まれて、藪に隠れるような姿勢で二人(2頭)を見守る。お姉さんから、野花のような優しい匂いがする。そんなことを思って、また恥ずかしさで体温が上がる。








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