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涙は残った  作者: 高橋翔
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己しか守れない者に生きる価値などない

 そこから一週間後、面白いことに、私はこの訓練所に入った。

 強くならなければとか、仲間は背中を押してくれるとか、かりそめの理由で一丁前に顔を上げ、同僚や教官に宣言した。


 「人を助けるために」


 違うだろう?そんなことこれっぽっちも考えてないだろう?

 あなたは自分が助かったことに対する安堵や、自分が原因で起こった仲間の死を忘れるために。自分以外にもあなたのように弱い人間を探すためにここに入った。

 

 面白い意味がわかっただろう。たったこれだけのために、私は再び能力を使用することになる。


 だが意外にも、訓練場に入った後も私の心はどこか空っぽだった。

 授業も、訓練も、頭の片隅にある仲間の顔や血の匂いで全然集中していなかったと思う。


 ここが死後の世界で、選ばれた者しか来れないということは、入ってすぐの授業で知った。

 その他にも、ここは天国と言われていること。ここは宇宙と同じくらいの無限の広さをもっていること。この世界の地図というものはなく、今のところ半径1002kmまでの範囲しか開拓できてないこと。それ以上先の世界では、見たことのない紀元前の生物がたくさん生存していること。その生物たちには人間如きが勝てることはほぼないということ。私がいるこの場所は0000679という名称であること。ここは現世の17倍長く生きれること。ここに来た瞬間現世の記憶がほとんど消えること。そのため日本人が生息しているところは、記憶をなくし勉強もできない人たちのために至る所にひらがなで書かれていること。家族の名前や顔が思い出せず、精神崩壊で自殺する人が多いこと。水や食料は食べなくても死なないこと。だが食欲はあること。お金はなく、代わりに量子というものが金銭的なものになっていること。現世での量子の定義は、物理学において用いられる、様々な物理現象における物理量の最小単位であるというものだが、この世界ではまったく定義が違うこと。その量子はダンジョンにあるモンスターの体の中に蓄えられていること。量子は生物の体の中に入る性質があること。既に人間がこの世界に入る前には他の生物に9割9分の量子が取り込まれていること。量子は生物に力を与えてくれること。人間の場合、刻まれた能力を活性化するのに必要不可欠なものであること。さらに莫大な量子を得れば不老不死になれること。老人は刻まれた能力を使いこなせないので若い子達の得た量子から一定数をもらっていること。この世界の若い子達は皆必ず訓練所に入るということ。その中でもここは人は多いこと。この訓練所は合計9棟あり、能力の強さによって区分けされてること。能力の強さは色で判断していること。虹色7色の波長が長い順に能力が強いこと。さらに黒色があり、黒のみ別格の強さを持っていること。黒の能力保持者は100人に1人いるかないかでいろんなところで優遇されていること。この訓練所も黒のみ2棟使用できること。ここで半年に一回に行われる試験を鑑みて同じ色の中から順位が決まること。試験の内容は勉強の成績と訓練所で作られた機械型モンスターの討伐数で判断すること。試験で亡くなった人は少なくないこと。たまに機械型モンスターが暴走することがあり、厳重に保管されていること。試験はまもなく


 ぶつぶつとそこにいないもう1人の自分と話した。きっと他の訓練兵に不気味だと思われただろう。その視線に気付きながらも、私は構わず続けた。


 それから変わらない日々が続き、一ヶ月が過ぎた頃だ。いつものように1人で朝会に向かい、定位置である隅っこの席に座る。

 笑っている他の訓練生が遠くに見えて、私だけ取り残されている気がした。

 また考えてしまう。

 私が弱いせいで。状況判断ができないせいで。

 現世の保持記憶が平均以上。稀に見る黒の能力。そして戦闘向けであるにも関わらず、私は味方を1人も守れない。まさに弱者。


 なのに、


「それでは今から試験の結果発表をする。」


 私には学問もない。才能もない。ましては人を思う心さえもない。

 だが、私には常に自信というものがあった。

 そして、勝つことに子供のようなプライドを持つ自分だが、ここ最近、人生初めて最下位でも受け入れられると感じた。

 この訓練場に入って初めての試験だ。だが、皮肉なことに――私は最後に名前を呼ばれた。


「首席――高畑たかはた るい


 一気に周りの視線が一点に集まる。

 ありえない。右腕なしのあいつが?そんな声が上がってもおかしくない目つきで皆見てくる。

 だが、一番そう思ったのは私だ。


 この試験での戦闘において、状況判断力、計画力、持久力など多様の能力を判断し、順位づけるものだ。少なくとも状況判断力は間違えなく下。それなのに、一位を取った。

 ではあの時、なぜ私は立ちすくんだ?なぜ仲間は死んだ?なぜ、私は今のうのうと生きているのだろうか?なぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜ


 俺は、笑うことも、誇ることもできなかった。

 ただ立ち尽くし、押し寄せる声から逃げるように目を伏せた。

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