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±Days 四馬鹿な幼馴染みと巻き込まれ相談役の平凡ではない日常  作者: 空月
第1章 無理やり転校編

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7.説明不足はトラブルの元



 やたらと金がかかってそうな学園の、こんな豪華さは学び舎にはいらないだろと言いたくなるような建物の中。

 背後で自動ドアが閉まる音を聞きながら、私は努めて冷静に、カンナの首根っこを掴んだ。


「……で? これはどういうことなのか裏事情含めて理路整然と簡潔に教えてもらおうか」


 頭一つ分は身長に差があるので、あまり迫力が出ないのが口惜しい。現に首根っこ掴まれた当人は、さして顔色も変えず飄々と返してきた。


「無茶言うね」

「えー、裏事情なんてないよね?」

「本当にユズはおめでたい頭をしてますねぇ」


 こてんと首を傾げたユズに、ミスミが穏やかな顔して毒を吐く。カンナの家が学園経営してるからとりあえずのターゲットにしてるけど、おまえらも当事者――元凶候補なんだが?


「へへー……ってそれ普通に貶してるよね⁉」

「一瞬褒められたんだと思えたその思考回路にびっくりだよ」

「カンナひどい!」


お試し期間だからなと自分にも四馬鹿幼馴染みズにも言い聞かせながら到着した転校先たる金持ち学園。

 デカ長い黒塗りの車から降りて敷地に足を踏み入れて、こいつらの学び舎らしき建物に入るまでの周囲の視線の異常さが私の怒りの火種を再び燃え上がらせた――のだけど、どうにも元凶どもにこの怒りがきちんと伝わってない気がしてならない。

 ……認めたくないが、コイツら、私が自分たちの学園に来たことに浮かれてないか。


 ともかく、こっちの苛立ちを煽るのに全力を傾けてんのかと聞きたくなるいつもどおりのやりとりを悠長に聞いていられる余裕は今の私にはない。ので、会話をぶった切ることにする。


「黙れ馬鹿ども特にユズ」

「名指しされた⁉」

「マジで黙れ頼むから。あんたが口開くとたいてい話が進まないんだよ。っつーかカンナ、人の問いをスルーしてナチュラルに奴らの会話に加わるな。あんたが説明するのが筋だろうが」

「何のことだかわからないな」


 この期に及んでどの口が言ってるんだか。さすがにあれだけざわざわと信じられないものを見るような視線で見られれば何かあることくらいわかるっての。


「笑顔如きでごまかせると思ってんの? 何年幼馴染やってると思ってんだおまえ」

「そんな怖い顔しないでくれないかな。ちょっとからかっただけじゃないか」


 こいつ基本性格悪いよな。知ってたけど。知ってたけど!


「自分の日頃の言動を逐一思い返してからそういう台詞は言え。そうやって人をおちょくるのが趣味なんだか何なんだか知らないが、時と場合と人を選べっての」

「一応選んでるつもりなんだけど――って嘘だよ、待って。ちゃんと話すから出て行こうとしないで」

「次ふざけた言動したらなにがなんでも帰るからな?」


 時と場合と人を選んだ結果がこれだったらさすがに付き合いきれないし縁切るぞこの馬鹿、という気持ちをこめて睨みつける。さすがに反省したのか、眉尻を下げて肩を縮こまらせるのに、多少溜飲が下がる。


「わかったよ。ごめん」


 謝れないことはないだけマシなのかもなと思いつつ、現在進行形でやらかされているらしいことを考えるとそれだけで許せるわけもない。とりあえず黙殺した。


「私たちの立場の方が弱いことは自明の理なんですから、さっさと話してしまったほうが心象的にもよかったんじゃないですか、カンナ?」

「そういう意見はもっと早く言って欲しかったな」

「それはすみません。言うまでもないことだと思っていましたから」

「…………そう」


 表面上は笑顔だが、全く和やかじゃないやりとりだ。この二人だとわりとよくあるっちゃあるんだが。


「おいそこ二人、笑い合いながら不穏な空気を醸しださない。怖がってんのが居るから」

「ああ、ごめんユズ」

「え、オレ確定⁉ いや間違ってないけど! だって何か怪獣大決戦的な怖さがあるんだもん!」

「レンリは困ることはあっても怖がったりはしないですしねぇ」

「…………」


 感情に素直なのはいいことだけど、この扱いを見るとユズはもうちょっと耐性つけた方がいい気がしないでもない。まあ性質的に腹芸組には逆立ちしても敵わないから仕方ないのかもしれないが。

 とりあえず普段から言動が子供っぽい上童顔だとはいえ、180オーバーな大の男が『だもん』はどうかと思う。


 と、レンリが何か伝えたそうな顔をしているのに気付いた。


「ん? レンリ、どうかした――って、ああ」


 水を向けると同時、多分予鈴だろうチャイムが鳴り響く。

 ……というかこの建物内に他の生徒が入って来ないんだけど。嫌な予感しかしない。


「おや、もうこんな時間でしたか」

「うっかりしてたね。まあ別に特に支障があるわけじゃないけど」

「ってことは一限サボるの?」

「ふふ、駄目ですよユズ。そんな言い方をするとまるで私たちが授業を放棄しているみたいじゃないですか」

「そうそう、授業よりももっと大切且つ有意義なことのために授業に出ないんだから」


 悠長すぎるやりとり、というよりツッコミどころがありすぎるやりとりに、頭痛が増した。

 思ってたよりこいつらダメかもしれない。


「いや待てそこ。何て言い訳しようが単なるサボりだから。授業放棄以外の何物でもないから。っつーか今この瞬間のどこが授業よりも大切且つ有意義なんだ」

「それはもちろん、あなたと言葉を交わしているという点においてですよ」


 きらきらしい笑みでミスミが言ってくるが、もちろんときめくわけがない。っつーか寒い。


「そういう台詞はあんたらを見てきゃーきゃー言ってるお嬢さん方に言ってやれ。ほら見ろ鳥肌立っただろうが」

「事実を言ったまでなんですけどね」


 肩を竦めるミスミに、思わず胡乱な目を向けてしまう。


「常々思ってたけど頭沸いてんじゃないのかおまえ」

「…………」


 ……待て、なんでそこでレンリが反応する。


「レンリ、なんで微妙に悲しそうな顔をするのかわからないというかわかりたくないんだけど、あんたもミスミと同意見とかじゃないよな?」

「現実は認めないと駄目だよ? レンリも授業より君と話す方を優先したいってことなんだから、そこは喜んであげたらどうかな」

「いや無理。思考回路が意味不明すぎて理解できない」


 っつーかこいつら全体の思考回路が理解できなくなってきた。前からこんなじゃなかったよな? 暴走しすぎだと思うんだけど。


「ええー、なんで? オレわかるよ? カンナもわかるよね?」

「まあ、元々の発言主は僕だからね」

「だよね。なんでわかんないのかわかんないよ? ただ一緒に居られて時間も気にしないで話せるのが嬉しいってだけなのに」


 当たり前のことを言うようにユズが言って、他の面子もうんうんと頷く。何だこの空間。


「――……だーっ、もううるさい! っつーかカンナ、おまえあわよくばこのまま説明せずにすまそうとしてるだろう、とっとと説明しろ!」

「あ、照れてるー」

「ユズの言い方はストレートですからねぇ」

「照れ隠しで八つ当たりとかするんだね、君でも」

「…………」


 この反応を腹立たしく思わない奴がいたらお目にかかりたい。特に微笑ましいものでも見るような目をしてる組に対して。

 こう、何かの糸が切れるような心地がした。その衝動のまま口を開く。


「……よしわかったおまえら実は私に帰って欲しいんだな? お望みどおり帰ってやるよ今すぐに!」

「わーっ、待って待って何かよくわかんないけどオレが悪かったから帰らないで‼」

「すみませんもう茶化しませんから――ほらカンナ!」

「ええっとごめん、本当にちゃんと説明するから、っていうか君交通手段持ってないんだからそんな無謀なこと言わないで――痛っ!」


 帰る宣言した途端にわちゃわちゃと通せんぼしようとしてくるやつらの隙間をさくさく通り抜ける。確かに言うとおりだがこっちを馬鹿にしてるとしか思えない内容を口にした奴には衝動のまま脇腹を手刀で刺した。


「……カンナ……馬鹿」

「レンリまで怒ってるー!」

「今のはカンナが悪いですよ、全面的に。なんであなたはこういうときに限って失言するんですか」

「失言って?」

「とか言ってるうちに出てっちゃったじゃん! もうみんな馬鹿だよー!!」


 後ろでぎゃいぎゃい言ってるのは無視して早足でその場を後にした。そろそろさすがに手が出そうだった(というか出してしまった)ので頭を冷やしたいのが正直な気持ちだった。



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