23.『いつもと様子の違う弱った彼にドキッ!』なイベントが起こったようです。
「なにあれ純粋培養にもほどがあるっていうかどういう育ち方したらあんな子に育つの?」
放課後。この学園から帰宅するには幼馴染みたちによる送迎が必須なので、本日の当番であるカンナを待っていたわけだけど、教室に戻ってきたと思えば早口でまくし立てられた。嫌な予感しかしないけど、話を聞かないという選択肢はもはやない。仕方なく詳細を求める。
「何がどうした」
「さっき、植物庭園で『彼女』に会って――」
「……予想はしてたけどやっぱりおまえもか」
「やっぱり?」
「気にするな。続けて」
予想は大当たり、私の頭痛はマシマシだ。
積極的に会いに行くのは控えさせたのに、この遭遇率。運命かどうかも赤いかどうかも知らないが、何らかの糸――縁的なものは繋がっているのかもしれない。
「植物庭園の奥の方に、ガラス張りの温室があるんだ。だいぶ奥の方にあるから、滅多に人は来ないんだけど――というか、そういうふうになるように設計したんだけど」
「ホントこの学園何でもあるな。……で、あんなに動揺するとか何があったわけ」
「……っ、……」
この幼馴染みは案外繊細だ。リフレッシュ方法にその温室で過ごす、とかがあるんだろう。それは別にいい。この学園の規模感がすごすぎるのも今更なのでどうでもいい。
問題は、『彼女』との接触の何がこいつをあんなに動揺させたのかだ。
さくさく聞き取りを終わらせようと水を向けたものの、反応は芳しくない。動揺のままに話しかけてきたのはカンナの方なので、話すのを渋っているわけじゃないだろうけど、口が重い。
「…………」
「………………」
立ったままのカンナを頬杖ついてじーっと見つめていると、カンナは珍しく「うぅ……」と弱ったように呻いた。
「……ええと、その、」
「…………」
「……あの、ええと……つまり……」
その、見てる方がむずがゆい心地になるような表情の動きで、おおよそのところを察した。伊達に幼馴染みをやってない。
「ああうん、とりあえずその顔で何となくわかった」
「……っ、僕どんな顔してた!?」
「言葉で形容できないような顔。とりあえず悪いことがあったんじゃないのは確実にわかる顔」
事実を述べると、カンナも自分がどういう表情をしていたのか察したのだろう、また「うぅ……」と唸って、今度は俯いてしゃがみ込んだ。もう顔は見えない。
「まあ、あれだ。ひとまずよかったねと言っておいてやる。今朝会ったときよりマシな顔してるし」
「……そう、かな」
ここ最近のカンナは、幼馴染みたちだけのとき限定だけど、雰囲気も顔つきも荒み気味だった。カンナの家周りはゴタゴタが起こりやすいので、どうせそっち関係のせいだろうなと静観していたわけだが。
「荒んでんなと思ってたけど、それがふっとぶくらい『あの子』のことで頭いっぱいになってよかったな」
「よかった……のかな?」
「少なくとも心配してた幼馴染みたちはその顔見てほっとすると思うけど」
「……心配、させてた?」
恐る恐る顔を上げて聞いてきたのに頷くと、「うぁあ……」とまたも唸って顔を伏せた。
「自覚なかったし……気付いてなかった……」
「だろうね。余裕なくなってんなーってのは傍から見てわかってたし、これ以上悪化する前に息抜きでもさせるかって話してたんだけど。もう必要なさそうだな」
「――久しぶりに、よく眠れたからかな」
組んだ腕にこてりと頭をのせて、カンナはそう零した。
大方、温室とやらでぐったりしてたところに『彼女』がきて、クリティカルな行動をしていったんだろうというのは察している。『彼女』も大概、タイミングがいいし行動力あるよな……。そしてそれがこいつらにクリティカルヒットを与え続けていると。やっぱりなんか、あるんだろうな。こいつらと『彼女』の間にも――運命的なものが。
それを利用するのはちょっと心苦しいけど、あまりにも『ちょうどいい』んだから仕方ない。うーん、人でなしの思考かも。
諸々考えてたことを振り払って、私はもうちょっとつっこんで聞いておくことにした。
「顔色がマシになったのはその辺が理由だろうけど。――それだけじゃないよな?」
カンナは疑問には思わなかったらしい。上目遣いで訊ねてきた。
「……わかる?」
「まあ、たかだか添い寝だか膝枕だかであんたがあそこまで動揺するとは思えないし」
「いやそこまでしてもらってはないよ」
『そこまで』ってことは、まあ身体接触があったのは確定だな。そう考えて続ける。
「んじゃ、手を握ってもらったとか頭撫でてもらったとかその辺か」
「……なんでわかるのかな」
「そりゃ、付き合い長いし。っつーかそもそもこの流れで選択肢ってそう無いし」
そう言うと、カンナは細く長い溜息をついて、苦笑した。
「――君に隠し事はできないな」
「あんた他の奴らにだってできないだろうが」
「そんなことない……と思う。君だからこそ、僕は動揺を外に出したようなものだし」
カンナが唇を尖らせて言い募る。うーん、ダウト。
「いや、あんた結構色々バレバレだから。親しい人間にはわかる程度には自分をコントロールできてないってこと自覚したら?」
いい機会なので自覚を促しておく。
いや本当に、隠せてるつもりならちょっと問題あるし。長年の付き合いがあってこそとはいえ、みんな心配するくらいには察してたの気付いてなかったというのは、マジで余裕がなかったんだな~という感じではあるけど、どうかと思う。
「…………」
「不本意そうな顔してるけど事実だし。情緒面に関してはあんたが多分一番未発達だよね」
ミスミがカンナと近い側にいるけど、あっちは感情コントロールがもっとうまい。
「……そう言われると色々複雑なんだけど」
「事実だから仕方ない。まあ発達したらしたで、あんたは生きにくそうだけど。そもそもあんた変なとこ繊細だし」
わかりやすく繊細ではないし、ある面ではめちゃめちゃ図太いとも言えるけど、やっぱり繊細寄りなんだよな。
告げた内容に、ちょっとだけ目を見開いて、カンナはぽつりと言った。
「――似たようなことを、言われたよ」
「『彼女』に?」
「うん。……どうしてだろうね。君みたいに、僕と長い付き合いってわけでもないのに」
「そういう子なんだろ。当たり前に他人の心を思えるってだけの」
そう、当たり前のことを当たり前のようにできるから、『彼女』は幼馴染みたちの特別になったんだろう。
――……私とは、違う。
「そっか。……うん、そうかも」
カンナはほにゃりと笑った。こいつは時々、誰よりも子どものような表情をする。
「まあ、とにかく、『彼女』に迷惑はかけないようにしなよ。もうやらかした後なんだから」
「うっ……。善処するよ」
「是非そうして。んでこっちの手間減らしてくれれば尚良い」
「……本当、君って容赦ないよね」
「そりゃ、容赦してたら釘にならないし」
こいつらのアドバイザーという立場は、基本的に太い釘を刺してセーブさせることから始まるんだから容赦がなくなるのも当然である。
反論が思いつかなかったらしいカンナは、複雑そうな顔で、やっと立ち上がったのだった。
少しでも楽しんでいただけましたら、下部の★★★★★をクリックしたり(評価)、ブックマークに追加、あるいはいいねや拍手ぽちぽちで応援いただけると嬉しいです。




