第99話 措置
ランスは自分の考えを言葉にしなかったが、ヨルクには察しがついたようだった。
窓際の席に近づくと、静かに緑色の背表紙に視線を落として、しばらく考え込んでいた。
ランスが声をかけないでいると、ヨルクはまた口を開いた。
「じゃあこの本、素手で触ったら危ないんだな。……手袋とかしたら大丈夫か?」
「えぇ!? 先生、まだその本読むつもりですか?」
後ろで聞いていたサンが驚きのあまり口を挟んだ。
「今聞いた話だと、それ毒の本ですよ。毒本。処分した方がいいんじゃないですか?」
「え、いや、処分なしないよ、少なくとも。
ただでさえこの時代の本は時代の煽りで度々焚書にあって、貴重なんだ」
ヨルクは慌てて本を庇った。
ミオンは
「でも、読むのも危ないんじゃ……」
と口を挟もうとしたが、ヨルクが昔の本を大切にしているのは痛いくらいにわかっていたので強く説得できなかった。どうしよう、と言いたげな目でランスを見上げた。
ランスとしても、貴重な古書を処分させるつもりはなかった。
以前博士が緑の古書を買い取ってきた時は、〈浮遊〉の魔法で触れないように持ち上げて、スキャンして電子データとして残し、一応紙にも写した。その後密閉して、注意書きを付して保管した。
さすがに全く同じことはできないので、代替の案を考えようとしていた。
「……俺の弟、〈浮遊〉の魔法を使えますから、触れずに複製できると思いますよ。
写本を作って、原本は保管したらいいんじゃないですか?」
サンやミオンは、無難な提案だと思った。
しかしヨルクはまたチラッと本に目を向けてから、どこか迷った様子で聞いた。
「弟、何歳?」
ランスには少し予想外の返しで、
「えっと…………9歳くらいです」
と驚きながら答えた。それを聞くとヨルクは
「そうか…………じゃあやめた方がいいな。子どもには刺激が強すぎる」
と言った。
サンはそこで、その美しい緑色の表紙に、題名が書いていないことに気づいた。
「そもそもそれって…………」
何の本なんですか、と尋ねかけたところで、廊下の奥から足音が近づいてくるのがわかった。




