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第91話 蚊帳の外

「もし本当に慢性ヒ素中毒だとしたら、どこかで日常的にヒ素を摂取しているということになる。

それがどこかを特定して、これ以上、摂らないようにしないと」


「あぁ、そっか。でも、調べる方法あるのか?」


サンが尋ねた。


「ヒ素が含まれてるかどうかは検査する方法がある。

だから先生が口に入れているものをしらみつぶしに調べれば、いつかは原因に行き当たると思う」


ランスが答えると、今度はジオが言った。


「じゃあ学食とか購買とか、あとは校内で提供される飲料水とか、その辺から調べればいいのか」


「そうだな、けど…………」


ランスの続く言葉を待たずに、ヨルクが横から口を挟んだ。


「いやあの、ちょっと待て、そんな大事(おおごと)にしなくていいから」


学校内の飲食施設に、微量でも毒物が含まれているなんて噂が流布したら大変なことになる。

相変わらずまだどこか軽く捉えていたヨルクは、校内を巻き込んだ話に発展しそうになり、慌てて口を挟んだ。


「俺以外に、症状出ているやついないんだ。

今日怪我を治してもらったわけだし、案外このまま治るんじゃないか。

もう少し様子を見てみるよ」


ヨルクの言葉を聞いたランスは、真っ直ぐ教師の方を向いて言った。


「……先生」


「どうした?」


「普通に大事(おおごと)なので、黙っててください」


あまりに率直な物言いに、ヨルクは面食らって言葉が出なかった。

サンとミオンが同意すると、もう完全にランスの方を向いて、続く言葉を促した。


ランスはこの若さに特有の、今朝まで全く知らなかった他人の問題に本気で取り組める柔軟性と、

一度関われば即座に相手を自分の物語に取り込んでしまう牽引力をなめていた。完全に自分の話題に疎外されていた。


「すごいな、これが若さか……」


と独り言のように呟くと、横からジオが、


「いやまぁ、あの言い方はないと思いますよ」


と一応フォローを入れていた。


もう主導権が完全にランスたちに渡っていた。ヨルクは色々諦めて学生たちの成すに任せることにした。


教師を黙らせたところで、ランスは改めて言葉を続けた。


「けど、学校で出されているものに毒性が含まれていたとは限らない。別のところで摂っていたのかもしれない。


「そうなの……? 他にどんな場面があるの?」


ミオンが尋ねると、サンが横から口を挟んだ。


「それこそ、誰かがわざと入れたんじゃねぇの」


サンはあまり深く考えずに発言したようだったが、ミオンは明らかに青ざめた。

ランスが言葉を続けた。


「その可能性も当然あるけど、他の可能性もあると思ってる」


「……本当か? 何だ? 一体」


サンは少し考えてみたが、何も思いつかず尋ねた。

ランスは普通に言ってのけた。


「先生が、自分から毒を摂っている」

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