第82話 質問
「せっかくだしこの最初の授業、みんなからの質問を何でも受け入れる時間にしよう。
何でも聞いていいし、どんな質問だって全部正直に答える。聞きたいことがあるやつから、挙手してくれ」
唐突に現れた担任と、情報がほとんどないまま質問する時間を与えられ、クラス全員困惑していた。
ヨルクの言葉を聞いた後も、すぐ手を上げる者はいなかった。教室には声を潜めて会話する声がかすかに聞こえた。
静かな教室の中で、一つ手が上がった。
「お、まずはサンだな」
当然のように名指しして、ヨルクは質問を促した。
「……魔力いくつっすか?」
さすがのサンも、おそるおそるといった様子だ。最初の質問として、かなり無難なのもが選ばれた。
「昨日測ったら、6666」
「え、マジすか! すげぇ」
「な、めっちゃキリいいだろ」
魔力の高さとは別の部分を、なぜだか自慢げにアピールした。
そのどこか子どもっぽい物言いに、思わず笑みをこぼす生徒が何人かいた。
サンの質問を端緒として、ポツポツと手が上がり始めた。
「年齢いくつですか?」
「今年で28。この学校の中ではまだまだ若手だから、お手柔らかにな」
「好きな食べ物何ですか?」
「校内のパン屋のホットドッグ。あれはマジでうまい」
「嫌いな色は?」
「特にないけど……部屋の壁紙だったら一番嫌だなってのはオレンジ」
「最近悩みとかありますか?」
「冗談抜きで、年。いやまじで、最近ほんとに体にガタがきてる。アラサーの体調不良舐めてた。常にうっすら具合が悪い」
「彼女いますか?」
「いねぇわ」
「彼氏は?」
「それもいねぇわ。独り身だよ」
その後もいくつか質問が続き、新担任の人柄が補強されていった。ほとんどの生徒にとって、最初に抱いた印象と大きくかけ離れなかった。
会話の中でその担任は、クラス全員の名前も魔法も頭に入っていることが伺えた。少しずつ場が馴染んでいき、信頼関係のようなものが構築され始めた時だった。
「お、じゃあ次、ジオ行こうか」
「……右腕、どうしたんですか?」
誰も聞かなかったが、おそらく誰かが聞かなくてはいけない質問だった。
ジオはそういうとき、空気を読んで先陣を切ることがあった。
クラスの誰もが息を呑み、ヨルクの言葉を待った。ヨルクは少し間を置いて口を開いた。
「……よく聞いてくれたな。みんな気になってたと思う、良い質問だ。 10点加算」
「え、何の点数ですか」
「俺の気分でたまるポイント。100点貯まったら、なんか昼飯とかるよ」
「え! いいな、俺には? 最初に聞いたよ」
サン思わず間に入った。あまりの親しみやすさに感化され、敬語で話すのも忘れていた。
「あはは、そうだな。サンにも加算するか、8点くらい」
「めっちゃ刻むじゃん」
サンの反応を無邪気に面白がった後、ヨルクは続けた。
「ただまぁ、申し訳ないんだけどあまりストーリーとかないんだよな。生まれつきなんだ。この腕」
そう言いながら、本来右腕が収まるはずのシャツの袖を取ってひらひらと靡かせた。




