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第80話 人選

 ユートリアの秘書のアンナは、学長が普段より機嫌が良いことに気がついた。

脅迫状の事件がひと段落ついてから数日しか経っておらず、それも王女の介入で解決というユートリアにとっては望ましくない結果に落ち着いていたため、彼がこんなにも嬉しそうにしているわけがわからなかった。

それとなく理由を聞いてみたが、ちょっと良いことがあってね、と誤魔化すように流された。


ランスが引っ越してから、通学にかかる時間が浮いたこと、またユートリアの少々しつこい交渉の成果が実り、2つのことが決まった。


1つは、あの時ノアと遠隔でコミュニケーションをとっていた不思議な道具「スマートフォン」を貸してくれるということだった。

他人の前で使わないという条件のもと、あの場にいたユートリアとジオ、サン、ミオンに配られた。


「使い方に慣れるまでは、電話とチャットの最低限の機能しかつけていない」とのことだったが、何が不足しているのかユートリアには全くわからなかった。

使い方を教わると、本当にいつでもどこでも会話ができて、夢のような道具だった。

一つ注意しないといけないのは、この道具は飼い犬に食べ物を与えるように「充電」をしないといけないことだ。

詳しいことはわからなかったが、ノアが良い感じに工事をして、各人の部屋に充電ができる場所を作ってくれた。


そしてもう1つの朗報は、今後、時間が合わせられた時に「科学」の授業をしてくれるのが決まったことだ。

これはスマートフォンの仕組みだとか、襲撃者の魔法がなぜ別の魔法だと分かったのかだとか、ジオとの決闘でどうしてあんな攻撃ができたのかとか、何度も何度も尋ねた結果、そもそも科学がわかっていないと理解できないとのことだったので、勢いに任せて教わる約束を取り付けた。

早速この前最初の授業を受け、全くわからず玉砕したところだったが、教えてくれる以上少しずつでも理解していくつもりだった。


「……様、ユートリア様、お聞きですか」


考え事が多く、しばらくの間アンナの声が届いていなかった。

ユートリアはハッとして聞き返した。


「あぁ、ごめんぼうっとしてた。何?」


「1年1組の担任の件ですが……セレア先生もお断りしたいとのことでした」


「あー……そっか、困ったな……」


1年1組の担任探しはユートリアが思っていたより難航していた。

手の空いている職員は何人かいたが、教師である以上、なるべく学生より高い魔力の人間を起用したい。

しかし今年は歴代の新入生の中でも目を見張るほど魔力の高いジオがいて、彼より強い人となると候補がずいぶん絞られた。

その上ランスに対する警戒が教師の間でまだ残っており、代理授業はともかく、担任として職務を全うできる自信が誰にもない様子だった。


「どうしようか、アンナ興味ない?」


「……妹のクラスの担任に正直興味はありますが、あなた専属の治癒魔法師であることも、私の重要な役割です。

適任者がいないのなら、王室に要請するのも選択肢の一つかと」


そうすると、国王の配下の人間が派遣されることになる。無論ユートリアにとっては最後の選択肢だった。

この学校の教員たちだってユートリアが配属される前からいたし、その意味では王室の息がかかっているわけだったが、全員の個性や人となりをユートリアはちゃんと知っていた。自分に対する態度も判別できていた。全く知らない人が急に派遣されるのとは話が違うのだ。


しかしこのままではずっと担任不在のクラスになってしまう。自分の意固地で学生たちの学業生活にこれ以上支障をきたすわけにもいかず、ユートリアは頭を抱えた。


職員のリストをパラパラとめくると、もうほとんど適任者が残っていないのがわかった。

最後のページに、条件に合致していたが、まだ交渉していない職員を見つけた。


「最後にこの人に話持ちかけてみるよ」


「その人は……無理だと思いますけど……。確かに能力的には問題はありませんが……」


「まぁ、聞くだけ聞こうよ」


そういうとユートリアは席を立った。


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