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第77話 過去3(フレーシア)

 2人が13歳になったばかりの時、家族3人の夕食の席で、突然父親がこう言った。


「魔法学校の学長には、王室の人間がなることになっている。だから2人が14歳になったらそれぞれ、国立魔法学校と国立第二魔法学校の学長に任命する。

14歳の誕生日に、魔法の模擬試合を執り行って、勝った方を国立魔法学校の学長にする」


自分が、国立魔法学校か国立第二魔法学校、どちらかの学長になる。フレーシアにとってはどうでもいいことだった。


彼女にとって、肩書は通り過ぎるものだった。

国王の子息として、催事や公務の中で、王都の親善大使に、文化交流会の代表に、神嘗祭の稚児に、商会のパトロンに、辺境領の領主になっていたり、ならなくなったりしたらしいが、フレーシア自身な何も変わらなかった。


大人数の前で言葉を言ったり特別な振る舞いを求められたりしたが、特に難しいことではなく、頼まれたことをやったら終わった。

それらの仕事もだんだんとユートリアに任されるようになり、フレーシアが自分につけられた肩書きを意識することはほとんどなくなった。


だから今回も、何かが変わるとは思っていなかった。

ただユートリアがとても驚いた様子だと思った。


その後、ユートリアは今まで以上に魔法の研鑽に力を入れ始めたと聞いた。


ある日、フレーシアがいつもと同じようにユートリアと魔法で決闘をして、勝つと、横たわったまま、顔を腕で覆って動かなくなってしまった。

大怪我をしたわけではない様子なので、フレーシアは不思議に思い、近寄って声をかけた。


「ユリア、大丈夫?」


ユートリアは差し出された手を、腕の下からちらりと見た。目元の隈が濃くなっていた。

フレーシアの手を無視して立ち上がり、


「ユリアって呼ばないで。次は絶対に勝つから」


と言った。


フレーシアはどうしてユリアと呼んではいけないのかわからなかった。ただ、とても悲しかった。

あまりにも悲しかったので、ぐるぐると頭の中で思考を巡らせて、一つの結論に辿り着いた。


(お父様は、魔法が優れた方を国一番の魔法学校の学長にすると言っていたから、ユリアはそっちに行きたいのね。

私が勝つと行けないから、嫌な気持ちになるのかな)



フレーシアは本当にどっちでも良かったから、ユートリアを国立魔法学校の学長にするよう父親に言った。

父親は頷いたので、ユートリアは喜ぶと思った。


しかしなぜか、ユートリアは喜ばなかった。


「どうしてそんな顔をするの? 喜ぶと思ったのに」


と聞いても、黙って顔を伏せるばかりだった。心配になって、近づくと、後ろにぐいっと押し退けられた。

そのまま走ってどこかへ行ってしまった。フレーシアは、ユートリアが立ち去る理由がわからなかった。


次の日、ユートリアはすぐに魔法学校に出立してしまうと聞いた。

もう今まで以上に会えなくなってしまうから、フレーシアは見送りに行った。


昨日謁見室から走り去った理由は結局わからず、どうしてと聞きたかった。

しかし呼び止めたユートリアの顔が、聞くなと言っているような気がした。


何か言わなければ、フレーシアはそう思ったが、なんて言ったらいいのかわからなかった。

こういう時どうするべきか、大人にはなんと言っていたか思い出そうとした。


「人とのコミュニケーションで、一番大切なのは共感です。あなたと私、同じ考えを持っていますと伝えることが大事ですよ」


フレーシアは、ユートリアと何を共感しているのか考えた。

ユートリアは国立魔法学校の学長になりたくて努力をしていた。自分はどちらでも良かった。

でも魔法の実力は自分が上だったから、父親に頼んで変えてもらった。けれどユートリアはそれが気に入らなかった。



ユートリアは自分に勝てていたら、ちゃんと最初の決まり通りに国立魔法学校の学長になれていた。

そうしたらきっと、嬉しかったに違いない。


「私もずっと、同じことを考えていたの。あなたが私に魔法で勝てていたら、きっと、全部良かったのにって」


ユートリアはただ無表情のまま、どこか憐れむような目でフレーシアを見つめた。


ああ、私、また間違ったんだ、とフレーシアは思った。


ユートリアが去った後、フレーシアは隣の執事に聞いた。


「ねぇ、どうしてユートリアは、あんなに悲しい顔をしたの? 私、何を間違ってしまったの?」


執事は黙って、困ったように笑い、何も答えてくれなかった。


フレーシアは立ち去った馬車の跡に目を落とした。ユートリアは行ってしまった。

紫がかった黒髪の束が肩からこぼれ落ち、フレーシアと(わだち)の間を揺蕩(たゆた)った。


ずっと昔、まだユートリアと2人で講義を受けていた時、飲み込むのが遅い自分に、ユートリアが教えてくれたことがあった。

弟の説明で補って教科書の文字をなんとか理解しようと顔を伏せた時、耳にかけていた髪が落ちた。

ユートリアは表情も変えず、ふと思い出したかのように呟いた。


「姉さんの髪、本当に綺麗だね」


フレーシアが顔を上げると、ユートリアはもう次の単元に目を通していた。

フレーシアの長い髪は、その日から伸ばし始めた。

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