第73話 過去7(ユートリア)
最後の決闘の夜、ユートリアは国王の謁見室に足を運んだ。
国王から正式に学長の任命を受けるためだった。ユートリアが到着すると、すでにフレーシアは来ていた。
感情をなんとか隠しながら、ユートリアは真っ直ぐ国王の方を向いた。
もう父親だとは思えなくなって随分時間が経っていた。なるべく他人行儀にことを進めたかった。
初めのうち、本題に関係のない確認事項や報告の際には、ただ淡々と返事を繰り返した。
「……最後に、国立魔法学校と国立第二魔法学校の学長について、
模擬試合に勝った方を国立魔法学校の学長にすると言ったが、撤回する。
ユートリアを国立魔法学校の学長に任命する」
ユートリアは言葉を失った。周りの使用人と共に、驚きで顔がこわばっていた。
フレーシアは相変わらず、無表情のまま静かに聴いていた。
「……ちょっと待ってください、話が違うじゃないですか。僕かフレーシア姉さんか、魔法で優っている方を国立魔法学校の学長に任命するんでしょう?」
困惑を隠せず、震える声で言葉を挟んだ。
「撤回すると言っている。他の人間も、ユートリアが本学の学長になることを望んでいた」
そんなこと、ずっと前からわかっていた。なのになぜ、今更撤回するつもりになったのか。
ユートリアは少しの間、訳が分からず言葉を発することが出せなかったが、ある考えに行き当たった。
1年前、国王が間接的にフレーシアを国で一番の学校に送る決断をした時、その意図が分からなかった。
それでもなんとか理由を見つけて、自分を納得させた。
しかしそれが、間違っていたんだ。「何か考えがある」と解釈することがそもそも間違えていたんだ。
この人は、何も考えていなかった。
ユートリアとフレーシア、どちらがどちらの学校に行こうが、どうでも良かった。
周りの人間がどんな反応をするか、他の人がどうあってほしいと考えているのか、何よりユートリアとフレーシアがどう感じるか、そういったことに、何一つ思い当たっていなかった。
だから適当に、本当に何も考えず、魔法が優れたものを任命するのが妥当に見えるから、そうした。
周りの人間が思ったよりも別の結果を望んだから、また何も考えず結論を翻した。
「……今更撤回されても、困ります。僕は姉さんに負けたんだから、国立第二魔法学校に行きます」
国王の発言はユートリアの今までの努力を最も蔑ろにしていた。
震える手を握りしめながら、なんとか言葉を絞り出した。
「馬鹿なことを言うな。もう決めたことだ」
国王は相変わらず、わがままな子どもに呆れるような視線をユートリアに向けていた。
(違う、理不尽なことを言っているのはそっちだろ。考えなしに判断して、自分勝手に結論を出して、また翻して。周りに迷惑かけているのはそっちだろ)
言いたいことはいくつもあったが、何を言ってもわがままとしか受け止められないと思うと、また声が詰まった。
ユートリアはなぜか、柄にもなくフレーシアに助けを求めるように視線を向けた。
「姉さんはいいの……?」
フレーシアはまたいつものきょとんとした顔で見つめていた。
弟の瞳から困惑の感情を読み取ると、あまりにも純粋な言葉を投げかけた。
「私が言ったわ。ユートリアがあんなに国立魔法学校の学長になりたがっていたから、私からお父様にお願いしたの」
ユートリアの頭にその言葉の意味が届くまで、しばらくかかった。
フレーシアはゆっくりと立ち上がり、顔をこわばらせる弟に向かって言った。
「どうしてそんな顔をするの? 喜ぶと思ったのに」
ユートリアはもう、何も言うことができなかった。
確かにそれは目標だった。国立魔法学校の学長という肩書きは、努力が報われた時に後からついてくる成果だ。
しかし今事実としてあるのは、その目標のために寝る間も惜しんで努力を重ねた1年間であり、その努力も虚しく姉に勝てなかったという結果だ。
国王と姉の決定は、ユートリアがその手で一つ一つ積み重ねた経験と事実を嘲笑い、一瞬で蹴散らしていってしまう。
しかし姉には、それらが一切わかっていなかった。姉にとって自分は、ただ、国立魔法学校の学長になりたいと思っているだけの人間だった。
欲しかったその地位を与えられたら、素直に大喜びすると思っていたんだ。




