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第72話 過去6(ユートリア)

 その日の国王の発言は、すぐ周りの人の耳にも入った。

みんなフレーシアが国立魔法学校の学長に選ばれたと判断した。


「ユートリア様、今噂になっている、学長の選任方針の話は本当なのでしょうか……?」


フレーシアは必要最低限しか社交の場に現れなかったので、その話の確信を得るために、貴族は恐る恐るユートリアに直接真偽を尋ねた。


「本当ですよ。僕か姉さん、魔法が優れている方が国立魔法学校に、そうでない方が第二魔法学校へ行きます」


ユートリアは聞かれるたびに、特に気にする素振りもなく肯定した。

実際どちらに行こうが、ユートリアにとっては本当にどうでも良かった。あの時口をついた質問は、何か気の迷いのようなものだと思っていた。


しかし貴族はそれを聞くと、全員とても残念そうな顔をした。

そのことについて、使用人の1人はこう言った。


「当然ですよ。あの方々は将来自分の子どもを魔法学校に入れたがっていますから。その時ユートリア様のもとで学ばせたかったんでしょう

次期国王であらせられますし、何よりユートリア様の方が教育も社交も力を入れられていて、努力もされていて、信頼を得ていますから」


また、ユートリアは社交の場や地域訪問の最中、魔法学校に入るかどうか悩んでいる優秀な子どもに会うことがあった。

その時は当然入学を勧めたし、何か問題があれば解消する努力をした。彼らの中には、ユートリアが第二魔法学校に就任しそうだと伝わると、自分もそっちに行くと言い出す者が現れた。


「別にどっちが学長に就任しようが変わらないよ。知名度的にも周りのレベル的にも、君は国立魔法学校に行った方が良いよ」


とユートリアが言っても、考えを変えようとはしなかった。


周りの反応を知れば知るほど、ユートリアは自分が国立魔法学校の学長になれないことで、色々なバランスが崩れているように感じられた。


割と発言力の強い貴族からも、任命方式を考え直すよう進言する手紙が届いたし、当時の魔法学校の理事からも、ユートリアになんとかならないか連絡が来た。


その度に、「国王の意向だから」と紋切り型の返答をしなければいけないのが申し訳なかった。


(僕を国立魔法学校の学長にしてくれたら、丸く収まるのに)


ユートリアはついそんな考えが浮かんだ。が、すぐに首を横に振った。

彼は何度か父親に自分の意見をぶつけたことがあるが、父親が発言を撤回したことなど一度もなかった。

何より魔法の実力で姉に負けている以上、いくら周りの期待の目があろうが何の文句も言えなかった。


しかしついに、一つの覚悟に行き当たった。


(何甘えたこと言ってんだ。僕が姉さんに魔法で勝てたらいいんじゃないか。ちゃんと実力で国立魔法学校の学長の地位を掴み取ればいいんだ。

今まで以上に努力して、費やせる時間を全部魔法の研鑽にあてたら、勝てるようになるかもしれない)


ユートリアはすぐ、魔法の教師に授業の量を増やすよう頼み込んだ。

後継者教育の合間合間の休憩も講義前後の自由時間も全て潰し、魔法の練習に勤しんだ。フレーシアは相変わらず、紅茶を飲みながらミルフィーユをフォークで崩していた。


ユートリアの魔力はそれまで以上にどんどん成長した。

努力だけでも才能だけでも成し遂げられないほど驚きの速さで、国内どころか、世界中を探しても滅多に見られないほど恐るべき実力をつけていった。

最上級の教師すらも早々に追い越して、ユートリアに教えられる人間はほとんどいなくなった。


それでもユートリアは姉に、姉だけには勝てなかった。

ユートリアがどんなに魔力を成長させても、フレーシアは常に彼より少しだけ強かった。ユートリアが快挙を成し遂げるたびに、フレーシアは奇跡を起こした。


「フレーシアに勝つ」という、初めはどちらかというとポジティブに抱いていた目標は、

過度な努力と周りの期待と、何度も労苦が徒労に終わる経験を重ねて、呪いのような渇望へと変わった。

それは、フレーシアに対する嫌悪を増幅させ、隠すこともできなくなった。

ある日の試合の後、倒れたユートリアにフレーシアが手を差し伸べて、


「ユリア、大丈夫?」


と尋ねた。ユートリアは腕を振り払いながら、


「……ユリアなんて、馴れ馴れしく呼ばないでよ。次は負けない、絶対に勝つから」


と言い放った。


その宣言を自ら制約にして、負ければ負けるほど睡眠時間を削り、食事の時間すら惜しみ、ただ毎日懸命に魔法の練習をした。



それでも結局、彼が姉に勝つことはなかった。


14歳になって執り行われた試合も、それまで通りの結末に終わった。

その日までに魔法の訓練に全力で取り組み、最後の力をぶつけたユートリアを、フレーシアはなんということもなくあしらった。


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