第68話 過去2(ユートリア)
幸か不幸か、ユートリアには結局、その生活に耐えられる忍耐力があり、要領も良く、王としての素質のようなものもあった。
知識はどんどん身についたし、対人関係を築くのもうまかった。何人もの貴族の名前を一瞬で覚え、関係性を理解し、大人顔負けの社交能力も披露した。
そして魔法も、生来の才能と努力で、すぐ最初の教師の実力をも追い越した。
使用人や教師や貴族、その他彼の周りにいるほとんどの人は彼を手放しに誉めた。しかし父親がユートリアの成果に対し反応を示すことはなかった。
「父さん、僕、必要な歴史学の勉強を終わらせたよ。先生が言うには、普通は後2年かかるって」
ある日の夕食の席で、ユートリアは何の気なしに言ってみた。
こう言われたところで褒めるような人ではなかったが、一応父親の課した義務をこなした反応が、少しくらいあるのではないかと考えたのかもしれなかった。
父親はユートリアを一瞥して言った。
「そうか、地理学は終わったのか?」
その時がおそらく、ユートリアが父親に父親であることを最後に期待した日になった。
その日以降、彼は目の前の相手を父親だと思わないようになった。警戒混じりの礼儀作法で身を固め、敬語で話しかけた。
それすらも、国王は気にしていない様子だった。
ユートリアはその後も、彼に降りかかる過度なレベルの教育と重い責務の中にしては、かなり真っ直ぐに成長した。
国王との距離感を見直してからは、自分の立ち位置を楽しむ余裕さえ見せ始めた。
自分の身分の高さを自覚しながらも、その場所に対する執着は微塵も無いらしく、できることをのびのびやっていた。
できることが増え、自立し、国王と離れれば離れるほど、彼の心は軽くなった。
そんな彼でも、ただ1人、父親と同じくらい苦手な人間がいた。
それが彼の唯一のきょうだいで、同じ魔法を持って生まれた、双子の姉のフレーシア・ロシュフォールだった。
彼女はユートリアが感情を爆発させていた時も、夕食の席で国王の反応を引き出せなかった時も、無感動なまでの透明な瞳でただじっと見つめていた。
初めのうちはユートリアと同じ後継者教育を受けさせられたが、すぐ免除されることになった。その理由はただ、「向いてなかった」からだった。
フレーシアと話したことがある人間は、皆同じことを言った。
「あの子は、人の気持ちがわからない」
ユートリアとフレーシアは、ごく小さい頃は一緒に遊ぶこともあった。同じように後継者教育も受けていた。
国王が主催する式典やパーティーでは同系統のドレスコードに揃え、ユートリアは弟としてフレーシアをエスコートしていた。
男女であったが双子だったため、容姿もよく似ていた。初めのうちは当たり前のように2人一緒で、周りの人間も2人を同じように扱っていて、お互いそれを当然のように受け入れていた。
しかしすぐ、2人は同じように扱われなくなった。というより、扱えなくなった。
外見はそっくりだった2人だが、中身は全く違っていた。




