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第64話 豹変

 王室の調査隊は、脅迫文を送りつけ学校を襲撃した犯人、ゼクスへの尋問を行っていた。

魔封じの手錠で押さえつけて、多少荒々しい強引な手段で、犯行前後の行動や動機、拠点、被害者との接点を問い詰めた。


しかしゼクスは決して口を割らなかった。下を向いて表情を隠し、何を言われても聞こえていないかのように黙秘を貫き、前髪を掴まれ顔を無理やり上げられたら挑発するような不敵な笑みを浮かべる始末だった。


王室の調査隊が情報を引き出すのに手こずっていると、魔法学校の使いが新しい伝令を届けにきた。

ゼクスに対する質問項目を1つ増やしてほしいとのことだ。

調査隊員はその意図がわからなかったが、王子の命令とのことだったので素直に遂行することにした。


「おい、〈人間を溶かす液体〉の魔法を使う人間は、もう1人いるんじゃないのか?」


それを聞いたゼクスは、明らかに顔色が変わった。

貼り付けたような笑顔は消え、表情を失い、蒼白した。


「なんでそれを……」


つい口をついて出たその言葉を、調査隊が見逃すはずがなく、すかさず詰め寄った。


「おい、もう1人いるのか? どんな奴だ?」


ゼクスは自分の言葉にハッとして、すぐ首を振り、かと思えば止めどなく溢れる言い訳を止められなかった。


「いや、違う……俺は何も言っていない、俺のせいじゃない。違う、違う、お前らが勝手に気づいたんだ、そうだろ? 俺は悪くない、俺の責任じゃない」


様子のおかしいゼクスに困惑し、隊員は繰り返した。


「おい、もう1人いるんだな? どんな奴か言え」


それまで何をしても沈黙を貫いてきたゼクスに対し、隊員は困惑を隠せなかった。肩をガッと掴んで追求した。

ゼクスはそれまでの態度を一変させ、(せき)を切ったように話し出した。


「あの人は……周りから見たら、どう見ても真面目で、善人にしか見えない。

でも……違う、本当のあの人はそんなんじゃない。あの人の本性は、この世で1番の悪だ。本当だ、信じてくれ……信じて……」


「わかった、信じる。信じるから、言え、どんな奴だ」


「あの人はいつも、メガネに、整えた髪で、先生みたいに身綺麗な格好をして、悪人だなんて、絶対に、誰も信じないほど、真面目だとか、無害な雰囲気を纏っていて……でも違う、そんなんじゃない……


この世で一番無害そうな、この世でいちばんの悪人なんだ」


その後、何かから解放されたように、ゼクスは隊員の質問全てに答えた。

恐怖の渦中にいるような目で、守ってくださいと懇願するような目で、できる限りの情報を(つまび)らかに伝えた。

その後、調査隊による身体検査によると、ゼクスの身体には焼け(ただ)れた傷跡が無数に見つかったらしい。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「……お嬢さん、どうしましたか? こんな時間に出歩くなんて、危ないですよ」


丸いメガネに整えた髪の、身綺麗な格好をした男が、道ゆく少女に声をかけた。


「道に迷ってしまわれたのですか? 僕でよければ、ご案内しますよ」


男の提案に少女は礼を言い、国立魔法学校に行きたいと伝えた。


「そこの生徒さんなんですか?」


男はさりげなく質問した。


「……そうなんです」


紫がかった黒髪の少女は、少し躊躇いがちに答えた。

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