第62話 犯人
結局シークの襲撃の後、学校は臨時休校になった。
と言っても犯人確保のニュースは学校中に流れ、大した怪我人も出なかったので、少しずつ校内は前向きな雰囲気を取り戻していった。
ランスはサンと一緒に、またジオの寮でくつろいでいた。ノアはランスの隣でスリープモードに入っていて、すやすやと眠っているように見えた。
するとガチャっと扉が開いた。ノックもせずに入ってくるのは1人しかいなかった。
「やあ、みんないる。よかった。さっきは本当にありがとうね」
ユートリアはそう言うと空いているソファに座った。
あの現場に到着する以前の顛末は、一通り聞き込んでいるみたいだった。
ユートリアはあの男の身柄は無事王室の調査隊に引き渡せたこと、
先日襲われたシグリアを除いて、特に生徒たちには被害なく事件の幕が下りそうなことを伝えた。
「今回の襲撃犯、魔力は5489だったよ」
その事実は概して予想通りだったが、だとしてもやはり、ジオよりも僅かに高い魔力の衝撃は大きかった。
ジオがあのまま応戦していても、勝ち目はなかったかもしれなかった。
「じゃあ、魔力マジで高かったんすね」
サンは驚愕を顔に浮かべて言うと、
「うん、君たちが早々僕を呼んでくれてよかったよ」
とユートリアは答えた。
続けて、調査隊の報告を踏まえたあの男の正体を語った。
「当然といえば当然だけど、J・シークはやっぱり偽名だったみたいだよ。
王室の調査隊の身元調査によると、本名はゼクス・ティエリー、23歳。意外にも中流貴族の出身だ。
魔力も身分もそこそこ高い分、わがまま放題な生活が受け入れられていたところがあって、酒とかギャンブルに明け暮れて、黒い商売に手を出して、家族から縁を切られて落ちぶれていったらしい」
その中で選民的な思想に傾倒して、自分の転落を環境のせいにして、今回の事件を起こしたというのが、調査隊の見解だとのことだった。
これから本人の証言と照らし合わせる作業があるらしいが、経歴や前科から察するにほとんど確定と言っても良いらしい。
サンは犯人の人物像が、思ったより詳細に暴かれているのに驚いた。
「調査隊の方でも、そんなにわかってたんすね」
「うん、その割には今回の事件、相手に先手を取られ続けていたけどね。
不甲斐ないな。王室の調査隊ともう少し連携強化した方がいいみたいだ」
そう言ってユートリアは一連の事件をまとめようとしていたが、ジオはどこか違和感を感じていた。
ここ数日間ユートリアが纏っていた、緊迫した雰囲気はなくなっている。けれど事件が終わったことを、心から喜べていないように見えた。
しかし特に言及はしなかった。今朝侵入されたことに対する、自責の表れだと解釈した。
ランスはユートリアの話を黙って聞いていた。考え込んでいるのか単に興味がないのか判別つかなかった。
「……まあだから、学校閉鎖は今日にでも解除するよ。迷惑かけたね」
ユートリアは少し躊躇うようにそう言った。
サンもジオも、特に学校閉鎖で迷惑を被ったわけではないので、軽く受け流すように返事をした。
ただ、ランスにとっては良い知らせのはずだったから、そこにいた全員、自然とランスの反応を待った。
しかしランスの口から出たのは、次のような言葉だった。
「いや、まだ閉鎖は解除しない方がいい。
多分、シグリアの腕を溶かした魔法と、今朝襲撃してきた奴の魔法は別だ。
〈人間を溶かす液体〉の魔法は、少なくとも、もう1人いる」




