第56話 襲来
次の瞬間クラス全員の目に映ったのは、防壁の方へ追い込むように生徒を取り囲む透明な液体の巨人だった。
首の部分から鎖が伸びるように液体の魔法で繋がれ、その末端にこの魔法を操る男が立っていた。
男はフードを取り払った。
威圧するような赤い瞳でぐるりと生徒を見回した。
刈り込まれた金色の髪と、耳から下がる無数のピアス、左の肩から頬の部分まで覆うように掘られた刺青は、あからさまに敵意を押し付ける意図があった。
「……待った甲斐があった。30……31…………33人もいるじゃねぇか」
教員がスッと前に出て叫んだ。
「何ですかあなたは!?」
男はニヤリと笑っていった。
「……シークといえばわかるか?」
その言葉に教員も生徒も衝撃を隠せなかった。
今国の調査隊が血眼になって探している脅迫文事件の犯人が、全てを嘲笑うかのように白昼堂々現れるとは思ってもいなかった。
教員が聞き変えした。
「シーク……あなたが脅迫文の……!? どうやって侵入したんですか!?」
シークは不敵に笑いながら、扉を押さえつけていたはずの鎖と錠前を見せつけるように取り出した。
遠目から見てもボロボロで、まるで溶かされたようだった。
「出入り口がわかればこんなもん、何の意味もねぇんだよ」
そういうと挑発するように左手でバキバキと砕いてしまった。破片がバラバラと地面に落ちた。
生徒はそれを見て、自分たちを取り囲む水の巨人が、今市街地を騒がせている、そしてこの学校の生徒も襲った〈人間を溶かす液体〉の魔法なのだとわかった。
シグリアの一件は学校からの注意喚起もあり、みんなある程度知っていた。
「ふざけないでください……! あなたの狙いは何ですか!?」
教員が前に進んで怒りをぶつけると、
「狙い?」
とシークは睨みつけた。
「決まってんだろ、そんなもん。この国の馬鹿に、正しい在り方を説くためだよ。
『魔力の弱い人間が、魔力の強い人間の奴隷になる』
それがこの社会の正しい在り方だ」
焦点の合わない目を見開いて、シークはさらに続けた。
「この国の王は、人間は皆平等だと言いやがる。
馬鹿言っちゃいけねぇ。反吐が出るね。魔力が1000や2000しかない連中と、俺が、同等なわけねぇだろうが!」
シークはわざと最後の語気を張り上げて、苛立ちを押し付けるように言った。
高笑いしながら、逃げようと動いた生徒の近くの巨兵をわざと大袈裟に動かし、逃しはしないと威圧した。
「ここにいる奴らも、上に立つべき『選ばれた』人間なのに、毒されやがって。だから浄化しにきたんだよ」
教員は生徒を逃がせる道を探したが、相手の魔法は退路を完全に塞いでいた。
「本当は脅迫文送った後、片っ端から市街地に降りてきたガキを殺して、国と学校の面子を叩き潰そうと思ったんだが、想像以上にここの学長が臆病だったもんでな。まさか学校の閉鎖までするとは思わなかったよ。
だが学校閉鎖なんて仰々しい対策をとった上で、甚大な被害を出したとなれば、もっと評判だだ下がりだ。
だからこの際、無理矢理にでも押し入ってやろうと思ったわけだ」
そう言うとシークは魔法の巨人の一匹を進軍させた。巨人は大きな手を握り、生徒に向かって殴りかかった。
教員は魔法を発動してそれを防いだ。
「なっ……!?」
魔法を受けた教員は、相手の魔力が自分より高いことに気づいた。
自分の魔法がどんどん削られ、巨大な手がどんどん近づいてくるのを感じた。
ジオが後ろから支えるように魔法を放った。
その魔法は教員の魔法を押しのけ、金髪の男の魔法を捕らえた。
ジオの方が、その教員より魔力が高かった。
その日、代理で授業をしていた教員の魔力は4800ほどで、ジオに劣ったが、講義にあたり支障はないと考えられて任されていた。
ジオと侵入者の魔力は、ほとんど拮抗しているらしかった。
しかしわずかにシークの方が高いのか、少しずつ少しずつジオの方が押されているようにも見えた。
このまま競り合っていればジオの方が分が悪かったかも知れない。しかしシークは突然、ジオと対峙していた魔法を解除した。
「驚いた。お前、相当魔力高いな。俺の魔法にここまで耐えるなんて。気に入った。
ここにいる奴らは皆殺しにするつもりだったが、救済のチャンスをやるよ。
〈琥珀〉の魔法の女を差し出して、俺の仲間になれ。そうすれば見逃してやる」




