第54話 仕様
「まぁ、ノア君の確認取れて良かったよ。僕はそろそろ行こうかな。じゃあノア君、学校の生徒助けてくれて本当にありがとうね」
「は? 待て、どういうことだ」
「あれ、言ってなかったか、ごめん」
ユートリアは学校の生徒が襲われ、ノアに助けてもらったことを説明した。
ランスは驚いてノアの方を向いて言った。
「危なかったじゃねぇか。大丈夫か? あまり1人で危ないところ行くんじゃないぞ」
ユートリアがノアの代わりに答えた。
「まぁ1人で路地裏とか行かないほうが良いのはそうだけど、ノア君、〈浮遊〉の魔法で上手に攻撃捌いたみたいだよ。
多分、結構強いと思うし、そんな心配しなくても良いんじゃ無いかな」
ランスはノアの、もとい博士の魔力がどのくらいあったのか知らなかった。博士が目の前で魔力を測ったことなんてなかったからだ。
強いのか弱いのかも判別つかなかった。
しかし仮に博士の魔力が強かったとしても、ランスにはノアを心配する十分すぎる理由があった。
ノアは絶対に、魔法で人を傷つけることはできない。
そういう仕様になっていた。
この仕様は、博士がなんとしてでも盛り込みたかったものらしく、構想ノートで何度も念押しされていた。
人に魔法を使わないこと、魔法で浮遊させた物を人に当てないこと、その他、魔法で人間そのものに干渉することを一切禁じていた。
もしもそれが自分を守る手段であっても、絶対にしないよう作り上げられていた。
あくまで被造物であること、その範疇を出ないことが、自分の魔法を機械に託した博士自身の責任だと自覚しているらしかった。
つまりノアは、敵に対峙した際、逃げるか、防ぐか、一方的に痛めつけられるかしかない。
ランスはノアの外郭や内部部品が多少損壊した程度なら直せた。
しかしノアが徹底的に破壊され、博士が残した魔法の流れを止められてしまってはどうしようもなかった。
今ノアが無事にこの場にいることすら奇跡のように感じた。
ランスはノアが持たなければいけない危機意識について、もう一度検討しようと考えていた。
考え込むランスを不自然に思ったユートリアは、その訳を聞いた。
ノアは自衛ができない旨を端的に伝えると、
「そうなんだ。軽率なことを言ってしまったね。ごめん」
と驚き謝罪した。
ユートリアはジオの部屋を出て、校舎の外に出た。
ぐるりと外壁を見回る守衛に声をかけ、正門も非常用出口もしっかりと施錠されていることを確認するよう命じた。
非常用出口は鍵が埋め込まれているところもあれば、大きな錠前と鎖で塞がれている箇所もあった。
守衛はその一つ一つを精査して、すべて問題なく扉を塞いでいることを確認した。
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2日後、深夜、男はフードを目深に被り、学校の外から見つけた非常口の前にいた。
木々に隠れ塀の外からはほとんど見えないこの扉を、看守の目を掻い潜りながら探し出すのに2日もかかった。
それでも執拗に探したのは、この扉がどこかにあるいう確信があったからだ。
ここ数日間ずっと正門等の主要な出入り口が閉まっていたのに、あの生徒が校内に逃げおおせているということは、別の出入り口があるはずだった。
グッと扉に手をかけると、扉が開いた。錠前も鎖も意味をなしていなかった。仕込みがうまくいっている。
人知れず忍び込んだ男は暗闇に身を隠しながら何やらぶつぶつと呟いていた。
「舐めやがって……ふざけやがって……あの女、絶対に後悔させてやる……」




