第53話 お願い
「大丈夫? 治りそう?」
ユートリアはランスの正面のソファに座り、問いかけた。
ランスはジオの寮の休憩室で、隣にノアを座らせて取れた右腕の様子を見ていた。
ユートリアの隣にミオンが座り、ジオとサンはランスのそばに立って事の次第を眺めていた。
「直るよ。少し部品が欠けているけど、素材はある」
そういうとランスはノアが持ってきていた予備の素材を手に取って、何やらノアに語りかけた。
ノアはそれを〈浮遊〉の力で持ち上げ、加工し、肩の関節部分の部品を一度解体してから組み立てた。
腕はすっかり元の状態に戻り、手を閉じたり開いたりすることもできるようになった。
真正面からその様子を見たユートリアは不思議そうに黙ったままその様子を見ていた。
「へぇ、すごいな。ランスの弟のこれ、義手なのか?」
サンが興味深そうに尋ねた。
ランスは一瞬考え込んだが、隠し通すのも難しいと判断して答えた。
「義手というか、こいつの身体全部作り物だ。この際言うけど、弟でも、人間でもない」
そこにいた4人は、その驚愕の事実をうまく飲み込めていない様子だった。
ランスが証明するために顔やら足やらの外装を外して中の基盤を見せると、ユートリアはえぇっと叫んだ。
「ちょっと待って、この子、科学の力で作られた人形ってこと? そんなこともできるの?」
「いや、こいつは科学だけじゃ作れない。科学と魔法の混合種だよ」
ユートリアはランスの一言で、魔法の禁忌に触れていることを直感した。
「……誰の魔法?」
静かに核心に迫る質問に、ランスは目を合わせず答えた。
「先代科学者だよ。こいつを作った張本人だ」
ユートリアは前に、ランスが魔法学校に来たのは先代科学者に頼まれたからだと言っていたのを思い出した。
ということは、この子はランスへの遺産みたいなものなのだろうかと漠然と考えた。
とりあえずこの話題を、今このタイミングで深入りするのはやめようと判断した。
サンは相当驚きながらも、ユートリアほど深い事実まで察しなかった様子で、ノアを随分肯定的に捉えていた。
「へーすげぇ、本当に生きているようにしか見えん」
と言ってもう、ハイタッチしたりシークケンしたりして遊んでいる。
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「そうだ、他にも色々聞きたいことがあるや。ランス君と会話がでいていた道具、あれは何? どういう仕組み?」
ユートリアが手をパンと合わせて話を切り替えた。
周りの人も興味を持っている様子で、少し身体が前のめりになった。
ランスはその問いかけに答えようがなかった。
説明したくないという気持ち以前に、科学知の結晶であるスマートフォンの仕組みを魔法使いに説明できない。
「簡単に説明できるものじゃない。あの仕組みをちゃんと理解するには、その前提になる知識が多すぎる。1から説明していたら、多分年単位で時間が飛ぶ」
「……そっか、つまり、時間をかけてしっかり基礎から教えてもらわないといけないんだね。
それはじゃあ、後でちゃんと時間とって教えてもらうとして……」
聞き捨てならない前提が入ったが、ランスが言及する前にユートリアは言葉を続けた。
「あれ、僕も欲しい」
「は?」
無遠慮なまでにまっすぐなお願いにランスは困惑した。
「……いやだよ。他人に知られたら面倒だし」
「じゃあ、とりあえずここにいる4人に配ってよ。お願い。
すぐに連絡が取れる、あんなに便利な道具、君とノア君だけじゃもったいないよ」
「俺も欲しい!」
屈託のない目でサンも同調した。ミオンも静かに頷いて、期待の目でランスを見ていた。
「いや、でも」「お願い! ねぇお願い、お願いお願い」」
学長の相変わらずの押しの強さにランスは相当うんざりした。
正直渡すつもりはなかった。
ここにいる者たちだけの秘密にできるかは怪しいし、何より、ユートリアから連絡が入るのは嫌だった。
しかし断りの文句を唱え続けても学長が引く気がしなかった。
無駄なやり取りに時間を割くのも面倒なので、逃げの文句を口にした。
「……少し考えさせてくれ。色々と考えないといけないことがあるから」
ユートリアは歯切れの悪いランスの物言いに、明らかに納得してはいなかった。
しかし性急にことを進めるのも良くないと思ったのか、これ以上追求するのをやめた。
ランスは頭を抱える素振りをして背もたれに体重を預けた。
ノアはよく状況を飲み込めてなかったが、賑やかな雰囲気を楽しんでいる様子だった。ニコニコしながらランスを見上げている。
ランスはいまいち、ノアが自分から電話をかけてきた理由が掴めなかった。
何かあったら連絡しろと言ったが、人前ではあまり使わないように教えていた。
実際、学校に到着するまでは電話をかけて来なかった。
忘れていただけかもしれないが、それならどうして、学校について電話をかける発想になったのか。
そういえば昨日ノアに電話をかけた時、ジオに見られていたような気がする。
「……ノア、誰に言われてスマホ使ったんだ? ジオか?」
ランスがなんとなく聞いてみると、ノアはコクっと頷いた。
ジオを見上げると、案の定目を逸らしていた。




