第52話 腕
突如、黒い板から声が聞こえた。
「ノア? どうした、何かあったのか?」
それは3人にとって聞き覚えのある、ランスの声だった。
「ランス君!? 何これ、どういうこと!?」
ユートリアが驚いて叫ぶと、電話口のランスはさらに驚いた様子だった。
「は!? なんでお前がいるんだよ。ノア、今どこにい『えええええええええ!!??? 何これ!!!??』」
おそらくランスの後方にいる、サンの声が割って入った。
「サン君!? 君ら、ジオ君の部屋にいるんじゃないの!? 何でこんなに離れているのに会話ができているの!?」
ユートリアがジオの方を向いて、「ジオ君、何か知っていたの?」と見つめた。
「いや、俺も今、驚いてるところです……」
ジオが首を横に振って応じた。
「ランス君、私たち、ノア君と一緒に医務室の前にいるよ。
ノア君がランス君に会いにきて、私の友達と一緒に学校の中に入ったの。
それでランス君の弟だって伝えるために、この道具使って、それで……」
ミオンは周りと同じくらい頭の整理がついていなかったが、ランスの質問に答えるために何とか言葉を紡いだ。
ランスは何か考え込んでいるようでしばらく応答がなく、その代わりに後方で通信を試みるサンの声が延々と響いていた。
「……1回、ノア連れて、こっちに来てくれないか。その方が話が早い」
ランスは何かを諦めたように言い、電話を切った。
また黒い画面に戻ってしまったスマートフォンを覗き込みながら、ユートリアは2人に目配せをした。
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ノアはランスと通話している間、周りが騒いでいるのを不思議そうに見ていたが、ジオにランスのところに行こうと呼びかけられ、嬉々としてついて行った。
途中、少しわかりづらい段差があった。校舎に慣れていた3人は難なく飛び越えたが、ノアは気づかずつまづいてしまった。
「あ、大丈夫?」
言いながらユートリアは右手を差し出し、ノアの手を引いて立ち上がらせようとした。
グッと手に力を入れた時、バキッと不穏な音がした。
ユートリアに引っ張られた右腕は、肩の付け根から外れた。
それに気づかれず握る力を弱められたため、右腕はそのままボトっと床に落ちた。
「うわああ! どうしよう、腕、取れた!!!」
ジオとミオンはユートリアの声に驚いて振り返った。
「わあああ!!!??」
ミオンは突然のことに叫ばすにはいられなかった。
混乱したまま右腕を肩に近づけ、治癒魔法を使った。
「あれ? なん、何で?? 腕、くっつかない、あれ……?」
「うわぁ、どうしようどうしよう」
ユートリアは焦り、ミオンは少しパニック状態になって、2人で腕をくっつけようと苦心していた。
ジオもかなり驚いていたが、少し引いた視点から冷静に目に入ったままの事実を伝えた。
「あの、落ち着いてください。当の本人、全く痛がっていませんよ」
ジオにそう言われノアの表情を覗き込むと、不思議そうにポカンとしているだけだった。
あれ、と思い取れた腕の付け根部分を見ると、血や肉の代わりに無機質な金属や知らない素材で構成されていた。
「本当だ。びっくりした……。
義手なのかな? それにしては精巧だけど……。なんにせよ良かった……のかな……?」
ミオンもそれに気づいて胸を撫で下ろしたみたいだった。
取れた腕を抱えてジオの寮に向かった。




