第51話 ノアと学長
全てを語り終えたユートリアは、くるりとシグリアの方を向き直った。
もう普段の表情に戻っていた。
「……さて、シグリアさんはしばらく医務室で休んでいた方がいいかな。
気分が落ち着いたら部屋に戻って。タール先生、ついていてあげてくれる? 僕らももう戻ろうか……て、あれ? 君は?」
ユートリアは普段の調子に戻ると、やっとシグリアが休んでいるベッドの傍に、知らない少年が休んでいるのに気づいた。
「すみません。勝手に入れてはいけないってわかっていたんですけど……」
シグリアが大変恐縮そうに頭を下げた。
「私、この子のおかげでここまで戻って来れたんです。それで、正門に置き去りにするのも危ないと思って連れてきてしまって……。
それにこの子、この学校に用事があるみたいだったから、誰か教員の先生に確認していただこうと思っていて……」
シグリアはそう言いながら、ノアの肩に手を添えた。
「そうなんだ。君、誰に用事があるの?」
ユートリアは視線を合わせて尋ねたが、人見知りなのか、じっと見つめられるだけで返事をもらうことができなかった。
どうしたもんかと首を傾けると、いつの間にか到着していたジオがノアを見つけた。
「え、ノア、だよな。どうしてここにいるんだ?」
驚きのあまり声を出したジオに、ノアが気づいた。表情がパッと明るくなった。
「菓子折りの人」
そう言いながらユートリアを通り越して、ジオに飛びついた。
ユートリアは唖然として言った。
「え、ジオ君の知り合い? その子ジオ君に会いにきたの?」
ジオは首を横に振りながら、
「いや、この子ども、ランスの弟ですよ」
と答えた。
ユートリアはタールにシグリアを任せ、ジオと一緒に退出した。
ミオンも一緒に医務室をでた。本当はシグリアについていたかったが、ユートリアが教員に生徒を任せた以上、自分がいるわけにもいかないと思った。
「……さて、まずは君にお礼を言わないとね。シグリアさんを助けてくれてありがとう」
ユートリアはノアに向かって言った。
先ほどシグリアから無事学校に辿り着いた経緯を説明してもらい、ノアの果たした役割が大きいことがわかった。
ノア本人は特に自分の功績を自覚していないらしく、ポカンとした様子でユートリアを見ていた。
「君はランス君に会いにきたの? 」
ノアはこくっと頷いた。そっか、とユートリアは返答したが、どうしようか少し悩んでいた。
今回はシグリアと一緒に逃げてきたこと、また教員がそばにいて見張れたことを受け、一度入校を許したことは許容できた。
しかし本来は生徒との関係が証明できない限り、入れるわけにはいかなかった。
「何か、ランス君の弟だってわかるものはないかな」
ユートリアにそう聞かれ、ノアは持っていたカバンをガチャガチャと漁った。特に証明書の類は見つからなかった。
勢い余ってカバンをひっくり返すと、旅費やクッキー缶やおもちゃのようなガラクタの類が色々散らばった。
ユートリアとジオ、ミオンの3人は、ばらばらとこぼれ落ちたガラクタの類を拾い集めた。
「……あ」
ジオが何かに気づいたように声を出した。
しゃがみ込んで手に取ったのは、黒い光沢を放った手のひらサイズの板だった。
ジオはそれに覚えがあった。
学校閉鎖が通知され、学長室に飛び出していったランスの後を追った時、ランスが手に持っていたものに似ていた。
ランスは何やら、それに話しかけていたように見えたが、遠目からはよくわからなかったし、一緒にいたサンは気づいてなかったみたいなので流していた。
拾い上げると、大きさの割には重かった。
ノアにそれを差し出しながら、自分でも特に期待はしないまま、ダメもとで問いかけてみた。
「これ使って、ランスのこと呼び出してみたらどうだ?」
ユートリアもミオンも質問の意図が分からず、頭に?を浮かべたままジオを見た。
ノアは「そっか」と気づいたような素振りを見せ、スマートフォンを起動した。
黒い板が突然カラフルな色彩に染まった。かと思うと浮かび上がった模様がノアの指の動きに合わせて生き物のように動いた。
その時点でジオもミオンもユートリアも、声を上げたいほど驚いていたが、まだ何かが起こると直感し、言葉を押し殺して見守っていた。
突如、黒い板から声が聞こえた。




