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第5話 拒絶

「魔法は《基本魔法》《身体魔法》《製造魔法》の3種類に分けられています」


全員の魔力の測定が終わり、ゾフィは魔法実習の授業を続けた。

と言っても最初の実習なので、軽く魔法の基礎をおさらいするだけだ。


「しかし大切な魔法は《基本魔法》だけ。

後の2種類は人によって、魔法によって、使えたり使えなかったりします。


ですので、授業では《基本魔法》のことを主に取り上げ、またそれを指して単に『魔法』と言ったりします。

それ以外の魔法は授業で取り上げませんが、自由参加の講習などがあるので調べてみてください」


そう言い終わり、ゾフィは手を掲げた。


「そういえば良い忘れていましたが、私の魔法は〈紙〉です」


言いながら、パッとゾフィの手にカードのような紙が現れた。もう魔法が始まっていた。


気がつけばカードは何重にも折り畳まれた紙片になり、ゾフィが腕を前に掲げると、紙は菱飾りのように広がった。

紙はまるで操られた蛇のように動き、ひらひらと舞っていた葉にあたると、葉が真っ二つに切られた。


「基本魔法の絶対的なルールとして、魔法の持ち主の意のままに操れるということがあります。しかし……」


ゾフィがパッと紙から指を離した。魔法は瞬く間に消えてしまった。


「指から魔法が離れると、魔法は消えてしまいます。

まあ指でなくても良いのですが、魔法は絶対に体の一部と繋がっていなければいけないのです。


知っているよと言う人が多いかもしれませんが、中間テストでもうっかり指から離してしまって、魔法が消え、追試になってしまう人も多いのですよ。

どうやって指から魔法を離さず使いこなすかも、一人一人に大切な課題です。


この基本的なルールを、今一度頭に入れておいてください」


そこまで言い終わると、ゾフィは最後に作り物のような笑顔で笑った。


「それでは、後の時間は自習にしましょう。


みなさん、改めてお互いの魔法について聞いてみてください。

学校の敷地内だったらどこに行っても構いません。ぜひ学校探索の時間としても使ってください。


ホームルームは11時30分からです。それまでには教室に戻ってくるように」


ゾフィがそう言うと生徒たちも一斉に立ち上がり、お互いの魔法を見せ合ったり、質問をしたりしていた。

当然ランスのところには誰も来なかったので、早いうちに集団から離れた。



校庭を出て、中庭の方に行った。

ベンチがあったので腰を掛け、現状を整理した。


まず自分は同じクラスの生徒には当然歓迎されていないし、一部からは明白な敵意が向けられている。


一応受験を受けて、合格通知を送付された以上、無理やり追い出されはしないはずだ。

しかし担任までが退学を望んでいるのは明白で、魔法の使えない自分がこの学校に通う意義がないのも確かだった。

その上なぜ通っているのかすら、自分で把握していない。


「……どうにもならないな」


現状維持するしかないという結論に至った。

クラスの人には申し訳ないが、自己中心的な抵抗を続けることにして、ランスはこれ以上考えることをやめた。


「うわぁ、こんなところで、一人で何してんだ? 猿」


もう聞き飽きた声に馬鹿正直に振り返ると、相変わらず取り巻きを連れたノートンが立っていた。


「お前、さっきは驚いたよ。魔力測定器があんなに全然動かないの初めて見た。

血が落ちたのにも気付いてないみたいだったな。よく今まで生きてこれたな」


そう言って相変わらずニタニタと笑いながら近づいてくる。

ランスは立ち上がり、一定の距離を保つために後ずさったが、ノートンが歩みを止めないのですぐに壁際に追い込まれてしまった。


「今は授業中で、魔法を見せあったりする時間だぞ? 何かやってみろよ」


ノートンは(あお)るように手招きしてきた。

ランスは何もしようがなかったので、口を開くしかなかった。


「……だから、魔法は使えないんだ」


「じゃ、俺が先に見せてやるよ」


ドゴッという衝撃とが走り、ランスは自分が蹴られたのだとわかった。

ノートンの太い足が腹部にめり込み、数秒呼吸の仕方を忘れた。気道は通っているのに肺が膨らまなかった。

うずくまり、咳き込む反動でなんとか呼吸をした。


ノートンはギャハハと笑ってその様子を眺めながら、校舎の外壁に手をついた。その壁はランスの背後にもまわっていた。


次の瞬間、ランスは上から地面に押さえつけられる感覚を覚えた。


ノートンが自分の魔法は〈変形〉であると、自己紹介の時に行っていたのを思い出した。


ノートンの発した〈変形〉魔法は石造の壁を手の形に変え、ランスの頭部を押さえつけた。

その手はずんずんと沈み込み、ランスは地面に手をついて、首の重さを支えなければいけなかった。


「お前さぁ、筆記で何か不正して入ったんじゃねぇの?

だってありえないだろ。あの魔力で、筆記だけの成績で入るとか。


問題盗み見るとかして、筆記に挑んだ以外に考えられないよなぁ? 白状したらどうなんだ?」


後ろの取り巻きがゲラゲラ笑っていたが、ランスには足元しか見えなかった。

ノートンの表情も見えなかったが、おそらくニタニタ笑っているのだろうと思った。


「おい正直に言えよどうなんだ? どうやってテスト盗んだんだ」


ノートンはランスの腕を蹴った。衝撃で肘が曲がり、ほとんど地面に額がついた。


「……何もやってねぇよ」


ランスがそう言って石の手の間からノートンを睨みつけた。

パッと頭上の重石は消えた。急な軽さに驚いてランスが思わず振り返ると、石の手はハンマーのように形を変えており、ランス向かって振り落とされた。


とっさに腕でうけると、骨が折れたような鈍い音が鳴った。

痛みに(うめ)いて目を瞑ると、横腹に蹴りが入った。


取り巻きも参加した一方的な尋問がしばらく続いた。

不正しただろという言いがかりを繰り返し、ノートン達がやっと飽きた頃には、ランスの身体中に殴打の跡が残った。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


身体中の打撲痕を眺め、ランスはしばらくその場に留まっていた。

中庭の時計を見ると、11時半までにはまだ時間があった。ランスは大きくため息をつき、痛む身体をなんとか動かして座り直した。


ランスはノートンの口から発せられた「盗んだ」という言葉や、(せき)を切ったように始まった武力行使から、彼が本気で自分を追い出すことにしたのだとわかった


始めのうちは魔法が使えないと抜かす変人をケラケラと揶揄(からか)っていただけだった。

しかし実際に信じがたい魔力測定結果を目の当たりにし、ランスを人間だと考えるのはとうにやめ、本格的に異物とみなすことにしたらしい。


それで筆記試験の結果に疑いを持ち、本人の口から不正の自白を引き出そうとしたのではないだろうか。

もっともこれはランスの想像であり、ノートン本人がここまで考えているのかはわからないが。


そう考えたところで、ランスが改めて起こせる行動なんてなかった。

もちろん不正をしたわけではなかったが、していないことを証明する手段もない。


今のランスにできることは、もうなるべく他の人に会わないように細心の注意を払う他なかった。

ホームルームの時刻まで息を潜めて時間を潰し、それが終わったら逃げるように帰ろうと思案を定めた。


「あの……!」


唐突に聞こえた声に、ランスは驚いて顔をあげた。

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