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第45話 勧誘

車掌が一旦説明をしようと後方車両に続くドアを勢いよく開けた。


すると目の前に1人の人影が現れた。


「きゃ」


車掌と危うくぶつかりそうになったのは、先ほどまでのあの隣に座っていたあの少女だった。

車掌は咄嗟に謝ったが、少女はその言葉をもう聞いていないようで


「列車が止まってしまったのだけれど、何かあったの?」


と尋ねた。


「あぁ、すみません。魔法切れで、動かせなくなってしまったんです」


と車掌が返すと、フードを目深に被ったその人はツカツカと魔法石に近づき、その前にかがみ込んだ。


魔法石に手を掲げ


「これに魔法を注げば、列車は動き出すの?」


と聞いた。


「その通りですが、その魔法石で列車を動かすには、最低でも魔力が2500は必要なんですよ。恐縮ですが私も動かすことができなくて。

だからその、難しいと思いますよ。お客さんにそのくらいの魔力があれば別ですけど……」


車掌がこう言い終わるか終わらないかのうちに、少女は魔法を注いだ。

ノアはその時、尋常じゃないほどの魔法の圧力を感じた。


ガコン、と大きく車体が揺れた。少女の魔法を喰らった魔法石は、息を吹き返したかのように、というより、電気ショックで無理やり蘇生させられたかのようにまた勢いよく回転し出した。


車掌もヴィルと呼ばれた少年もも驚きのあまり言葉を失った。

魔力の高さもさることながら、少年が魔法を発動させている間見せていた労苦の表情すら、少女は浮かべていなかった。


静かな目で回転する魔法石を眺め、ふと顔を上げてノアを見つけ、


「あら、ここにいたのね」


と変わらない声音で呟くように言った。


「や……あの、ありがとうございます。助かりました」


車掌は言葉の限りお礼を言ったが、その少女はどこかぼうっとした雰囲気で


「私がすぐに、進みたかっただけだから」


と言った。


列車を動かす役目を背負った少年は、無理する必要がなくなったからかぐったりと倒れ込んだ。


「ヴィル、少し休め」


と車掌が言うと、すみません、と小さく呟きながら機関室の隅で座り込んだ。


ノアは心配して、カバンに入れていたクッキーを差し出した。ヴィルは小さく礼を言って口に放り込んだ。


その様子を、不思議な少女はじっと見ていた。


「ねぇ、あなた。魔力はどれくらいあるの?」


不意に少女が尋ねた。


「……俺っすか? 2970くらいですよ」


「国立魔法学校に入らなかったの?」


少女の質問に、なぜか車掌が肩をこわばらせた。


「……落ちたんすよ。この魔力じゃ、今年の受験は難しかったんです」


「他の学校は行かないの?」


「家族もいるんで、学費だけでなく、奨学金も出るような、待遇良い所じゃないと入れないんで」


ふーん、と少女は呟いた。自分から聞いたのに、まるで興味を惹かれていないようだった。

ヴィルはもう諦めた過去の話を持ち出され、少し機嫌が悪くなったが、恩人であるため邪険に扱うこともできなかった。


少女はまた唐突に口を開いた。


「でも、とても優秀な魔力だから、学校入ったほうが良いと思うわ」


だから入れないんですよ、とヴィルが答えるよりも先に、少女は魔法石から手を離し、胸元から紙を取り出した。

魔法列車は慣性で動き続けている。サラサラと何か書いてから、ヴィルに渡した。


「東の街に、国立第二魔法学校があるわ。そこも国の学校だから、学費とかも、多分大丈夫。

この紙を持って行ったら今からでも入れるから、気が向いたら来るといいわ」


そう言うと、また魔法石を見つめて黙った。

ヴィルはあっけに取られながら、少女に手渡された紙を読んだ。


その表情から、少女の言葉が冗談ではなかったことを伺えた。

ヴィルが


「あの、待ってください、あなた、もしかして──」


と言葉を継ごうとしたところ、少女は唇に人差し指を当てた。


ノアは一連のやり取りが解釈できず、ヴィルをじっと覗き込んだ。

その少年は手紙をグッと握りしめながら、目の奥をぱちぱちと興奮させている。

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