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第41話 妥協

学校閉鎖を通知してから数時間後、ユートリアはコーヒーを淹れ直しながら大きく伸びをした。

朝から追われていた脅迫状への対応に、やっと一段落ついたところだった。


とは言ってあまりゆっくりもしていられなかった。

そろそろ学生たちの1日の講義が終わる時間だ。この件に対する問い合わせがたくさん来るだろうから、必要に応じてユートリア自身で対応しなければいけない。


(少なくとも、彼には一度会わないと……)


ユートリアがそう考えていると、秘書のアンナが訪ねてきた。


「1年のランスが、学長と話したいと申し出ているそうなのですが、いかがなさいますか?」


ユートリアはパッと笑って言った。


「あぁ、ちょうど良かった。ここに来てもらえる? 僕も会いたいと思っていたんだ」


ランスが学長の応接間に通されると、ユートリアはニコニコしながら尋ねた。


「ようこそ、まぁ座ってよ。コーヒー飲む?」


「いらない」


ランスはキッパリ断ったはずだが、ユートリアは気にせずランスの分のコーヒーを注いだ。


「君が今日泊まる場所、考えなきゃと思ってたんだ。寮に入っていないからね。

一旦は来客用の宿泊施設に泊まってもらおうと思っているんだけど、どうだろ?」


ランスはそれを聞くと、首を横に振りながら答えた。


「必要ない。それよりも、俺を家に帰らせろよ。

正門が閉鎖されていて、許可のない人間は出られないと言われて、(らち)があかなかった」


「ダメだよ。聞いたでしょ? この学校の生徒を殺すって殺害予告があったんだ。君が外に出るのも危険なんだよ。

この学校はいざという時要塞になるように、学校の敷地のかなりの部分が防壁で囲まれている。


この中にいればだいぶ安全に生徒のことを守れる。しばらくはここにいてよ」


「いやだよ。別に守ってもらわなくてもいいし、万一殺されたら俺の自業自得でいい」


「良いわけないよ」


ユートリアは即座に答えた。


「それに、悪いけど、どこから内部の情報が漏れるかわからないから、学校としてもしばらくの間、そう軽々学内外を出入りしてほしくないんだ」


そのことはランスも理解できるが、だからといって自分が学内にとどまる必要性は未だ感じなかった。


「じゃあ逆に俺のこと学校から締め出してくれないか?

今の俺が持ち出せる情報なんて、学校閉鎖前と対して変わらないだろうし、頻繁に出入りできなきゃ外に情報売る心配もないだろ」


「んああ、そうくるか……」


それは少し予想外の提案だったようで、ユートリアはどう説得しようか考え込む時間が生まれた。

しかし良い答えが出なかったようで、それでいて判断は変わらず、定型文のような説明しか出てこなかった。


「いや、やっぱり駄目だな。君が危険だよ。学校には、生徒を守る役割があるんだ」


ランスは苛立ちを隠しきれず、つい一瞬ユートリアの顔を睨みつけた。

それでも冷静さを欠くメリットはないから、感情を排して言葉を継ごうと試みた。


「生徒の安全を守るっていうのが、学長として重要な責務であるのはわかるけど、それはあらゆる禁止をなんでも正当化する免罪符じゃない」


ランスの抗議を聞きながら、ユートリアはじっとランスと目を見て考え込んでいる様子だった。

紫がかった黒色の瞳は、何の音も響かない宇宙のように静かだった。(つと)めて感情を保持していないと、全て吸収されてしまいそうな、不思議な感覚を覚えた。


「…………ごめん、本当に無理なことを言っているのはわかっているんだ」


やっと話し出したかと思えば、こんな言葉だった。


「ランス君が言っていることはもっともで、ここまで生徒に求めるのは、あまりにも越権が過ぎることは、本当にわかっているんだけど……」


ユートリアは一度目を伏せた。かと思うと、またパッと顔を上げた。


「それでもこの学校の生徒は、万が一にも危ない目に遭ってほしくなくて、できることはなんだってやるつもりだけど、僕だけの奔走と努力じゃどうにもならないことが多過ぎるんだ。


今回学校が閉鎖されるのは1週間。この猶予は僕が決めた。

その間に何も進展させられないようなら、いよいよ学生に制限を受けさせてしまった筋が通らない。


だから、本当に申し訳ないんだけど、1週間だけ、緊急事態下の生活に協力してもらうことはできないかな」


ランスはユートリアの言葉を受けて、返す言葉をしばらく見つけられなかった。


依然行き過ぎた判断だと思う気持ちは変わらないが、ユートリア自身もそれを自覚し、その上で下した結論だとすると、どう抗議すれば良いか判断に迷った。


ユートリアはいつの間にか空になった自分のカップにコーヒーを注ぎ直していた。

ランスはふと、それは今日何杯目のコーヒーなのだろうと、どうでもいいことを考えてしまった。


ランスは喉元まで出かかった色々な反発を口に出す代わりに、目の前に出されたコーヒーカップを手に取って飲み干した。


「……わかったよ、1週間はここにいる。忙しいところ悪かったな」


ランスが立ち去ろうとしたので、ユートリアは書類を引き出しながら、ちょっと待ってと呼び止めた。


「君が今日泊まる所、詳細の資料渡しとくよ。わからないことあったらなんでも聞いてよ。迷惑かけるね」


そう言って紙を渡しながら、


「あぁそうだ、ランス君、弟がいるんだっけ。連絡取る必要があるよね? 使用人派遣しようか?」


と聞いた。


「いやいい。俺の方で連絡する」


とランスは答えた。

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