表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/303

第40話 学長の判断

 授業が始まる少し前、学校の教職員達が集まり、緊急の会議が開かれていた。


「──というわけで、こちらが今朝8時頃、王室宛に届いた書簡です。

同じものが、国内の印刷場にも届いているみたいです」


ユートリアは書簡を受け取り、迷いなく開いた。


『国は、選ばれた若者らの思想を歪め、正しくあるべき世界を説かず、〈平等〉という虚像を敬う。

それにより若者は汚れる。汚れは広がる前に排除しなければならない。

よって、私は国が学校機能を解体するまで、学生を殺し続ける。 J・シーク』


「あまりに典型的な『修正者』の脅迫文だね。随分と自分に陶酔しているみたいだ。辟易する」


ユートリアは報告者が持ち込んできた他の報告書にも目を通す。


「変に遠回しな表現がつらつら並んでいるけど、この学校の生徒に対する殺害予告だけははっきりしているね。

出所について、王室はどれくらい調べがついているの?」


「ほとんど何もわからない状態です」


王室から派遣された兵士は、初めて会ったユートリアにドギマギしながら報告した。

取り急ぎ脅迫文の内容のみ伝えることが目的だったため、続報が来るまで大した内容を共有できなかった。


ユートリアはまた脅迫状に目を落とした。


「王室を敵視する集団はいくつかあるけど、この『J・シーク』という署名は初めて見るし、手紙の形式も筆跡も見たことない。


既存の組織が犯行声明とか出す時は、自分らの活動だとわかるように同じ手口を使うだろうから、今の所は単独犯か新興勢力の線が強いかな」


「……というか、ただのいたずらではないでしょうか?」


王室の使者からの報告を一緒に聞いていた教員の1人が進言した。


「……タール先生はそう思うんだね」


ユートリアがそちらに目をやって聞いた。


「十中八九そうでしょうね。内容が稚拙で、いかにも顕示欲を満たしたがりそうな輩が書くことです。

私はもう20年はこの学校で教師をやっていますが、こういった手紙は度々(たびたび)ありましたよ。


まぁ、ユートリア様が就任してからは初めてのことかもしれませんが……

大抵は暇人のお遊びか、愚か者のストレス解消です」


ユートリアはそれを聞いてからも、どこか考え込む様子だった。

教員がすかさず言葉を続けた。


「今回は他に被害があるわけでもありませんし、真に受けるだけ損ですよ。

王室が調査を続けているようですし、続報を待ちましょう」


会議室に解散の雰囲気が流れた。

講義が始まる時間も迫っており、皆ユートリアの締めの言葉を待っているようだった。


「いや、学校を閉鎖しよう」


ユートリアの発言は誰も予想しておらず、その場にいた全ての人間が言葉を失った。

学長は構わず続けた。


「看守長は正門を閉じて。許可証を持った生徒以外出さないようにして。

担任と学年主任・副主任は連携して、生徒の所在の確認と、外に出ている生徒がいたらなんとかして連絡を。

学校内に避難するよう呼びかけて、必要に応じて家族も保護して。

他の人は校内外の警備強化、関係者への通知と説明、生徒の生活物資の確保にあたってもらう。それぞれに指示を出すから対応してほしい」


「ちょっと待ってください、ユートリア様。そんなことしたら大きな影響が出ますよ……⁉︎

何もなかったら生徒や関係者が無駄に不満を募らせるだけですし、そこまでする必要なんてないですよ」


タールは困惑し、立ち上がって反発した。


「でも、本物の脅迫状の可能性はあるよ」


「そりゃ、万に一つはありますけど、いちいちこんなに大ごとにしていたらきりが無いですよ」


「大ごとに決まっているじゃないか。王室にこんな脅迫状を送ってくるなんて。

こんなもの送っても、学校側が何も対策しないって思われる方が問題だよ」


「ですが、本当にただのいたずらで、何もなかったらどうするんですか?」


「何もなかったらなかったで、良かったねで終わればいいじゃんか。万全を期すに越したことはないよ」


タールはまだ説得の言葉を探しているようだったが、ユートリアは続けて畳み掛けた。


「それにこの学校は、今みたいな状況以外にも、何かあった時に閉鎖して、生徒や市民を守る要塞にならなきゃいけない。

そういった時の対応方法を確立しておけるって意味では、損することでもないでしょ」


ユートリアがそういうと、教員は顔を(しか)めながらそれ以上何も言わなかった。

事なかれ主義のその教員は、食ってかかるのも面倒だという表情で小さなため息をついた。


ユートリアはやっと会議終了の合図を出し、次の仕事に取り掛かりに行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ