第40話 学長の判断
授業が始まる少し前、学校の教職員達が集まり、緊急の会議が開かれていた。
「──というわけで、こちらが今朝8時頃、王室宛に届いた書簡です。
同じものが、国内の印刷場にも届いているみたいです」
ユートリアは書簡を受け取り、迷いなく開いた。
『国は、選ばれた若者らの思想を歪め、正しくあるべき世界を説かず、〈平等〉という虚像を敬う。
それにより若者は汚れる。汚れは広がる前に排除しなければならない。
よって、私は国が学校機能を解体するまで、学生を殺し続ける。 J・シーク』
「あまりに典型的な『修正者』の脅迫文だね。随分と自分に陶酔しているみたいだ。辟易する」
ユートリアは報告者が持ち込んできた他の報告書にも目を通す。
「変に遠回しな表現がつらつら並んでいるけど、この学校の生徒に対する殺害予告だけははっきりしているね。
出所について、王室はどれくらい調べがついているの?」
「ほとんど何もわからない状態です」
王室から派遣された兵士は、初めて会ったユートリアにドギマギしながら報告した。
取り急ぎ脅迫文の内容のみ伝えることが目的だったため、続報が来るまで大した内容を共有できなかった。
ユートリアはまた脅迫状に目を落とした。
「王室を敵視する集団はいくつかあるけど、この『J・シーク』という署名は初めて見るし、手紙の形式も筆跡も見たことない。
既存の組織が犯行声明とか出す時は、自分らの活動だとわかるように同じ手口を使うだろうから、今の所は単独犯か新興勢力の線が強いかな」
「……というか、ただのいたずらではないでしょうか?」
王室の使者からの報告を一緒に聞いていた教員の1人が進言した。
「……タール先生はそう思うんだね」
ユートリアがそちらに目をやって聞いた。
「十中八九そうでしょうね。内容が稚拙で、いかにも顕示欲を満たしたがりそうな輩が書くことです。
私はもう20年はこの学校で教師をやっていますが、こういった手紙は度々ありましたよ。
まぁ、ユートリア様が就任してからは初めてのことかもしれませんが……
大抵は暇人のお遊びか、愚か者のストレス解消です」
ユートリアはそれを聞いてからも、どこか考え込む様子だった。
教員がすかさず言葉を続けた。
「今回は他に被害があるわけでもありませんし、真に受けるだけ損ですよ。
王室が調査を続けているようですし、続報を待ちましょう」
会議室に解散の雰囲気が流れた。
講義が始まる時間も迫っており、皆ユートリアの締めの言葉を待っているようだった。
「いや、学校を閉鎖しよう」
ユートリアの発言は誰も予想しておらず、その場にいた全ての人間が言葉を失った。
学長は構わず続けた。
「看守長は正門を閉じて。許可証を持った生徒以外出さないようにして。
担任と学年主任・副主任は連携して、生徒の所在の確認と、外に出ている生徒がいたらなんとかして連絡を。
学校内に避難するよう呼びかけて、必要に応じて家族も保護して。
他の人は校内外の警備強化、関係者への通知と説明、生徒の生活物資の確保にあたってもらう。それぞれに指示を出すから対応してほしい」
「ちょっと待ってください、ユートリア様。そんなことしたら大きな影響が出ますよ……⁉︎
何もなかったら生徒や関係者が無駄に不満を募らせるだけですし、そこまでする必要なんてないですよ」
タールは困惑し、立ち上がって反発した。
「でも、本物の脅迫状の可能性はあるよ」
「そりゃ、万に一つはありますけど、いちいちこんなに大ごとにしていたらきりが無いですよ」
「大ごとに決まっているじゃないか。王室にこんな脅迫状を送ってくるなんて。
こんなもの送っても、学校側が何も対策しないって思われる方が問題だよ」
「ですが、本当にただのいたずらで、何もなかったらどうするんですか?」
「何もなかったらなかったで、良かったねで終わればいいじゃんか。万全を期すに越したことはないよ」
タールはまだ説得の言葉を探しているようだったが、ユートリアは続けて畳み掛けた。
「それにこの学校は、今みたいな状況以外にも、何かあった時に閉鎖して、生徒や市民を守る要塞にならなきゃいけない。
そういった時の対応方法を確立しておけるって意味では、損することでもないでしょ」
ユートリアがそういうと、教員は顔を顰めながらそれ以上何も言わなかった。
事なかれ主義のその教員は、食ってかかるのも面倒だという表情で小さなため息をついた。
ユートリアはやっと会議終了の合図を出し、次の仕事に取り掛かりに行った。




