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第38話 成長

「誰だろ。寮父のアドルフ爺さんかな。ちょっと見てくる」


サンはそう言うと、ノックされた扉に向かった。来客を出迎えると、予想外の人物だったようで

「え!」


と叫ぶ声が聞こえた。


その声に反応してランスたちが扉に目をやると、聞き慣れた声が耳に入った。


「あれ、みんないるんだ。楽しそう。僕も誘ってくれたら良かったのに」


そこにいたのはユートリアだった。ランスはここで会うとは思っていなかったので、思わず顔を(しか)めた。

ジオも驚き、立ち上がって一礼した。


ユートリアはランスと目を合わせて言った。


「サン君の寮にも入れてもらったんだね。どお? 気に入った所があったら今からでも準備するよ」


まるで予定調和であるかのように営業をかけられ、ランスは返事もせずじっとユートリアを睨んだ。


「びっくりした。学長ですよね。どうしたんすか」


サンが驚いて尋ねると、


「あぁそうだ。君に用があって」


そういうとユートリアは見慣れた水晶を取り出した。


「サン君、風邪で休んでいて魔力測定受けられていないでしょ?

入学したらすぐ測らないといけないから、やってもらおうと思ってさ。本当は授業で声かけようと思ってたんだけど、忘れてた」


あぁ、とサンは納得して、学長に外で対応させるわけもいかなかったので、中に招き入れた。

ユートリアが魔力測定器を準備している間、サンは上着のポケットから指を切るための小さなナイフを取り出した。


「魔力測定って、毎回ナイフで指切るのか? 痛くねぇの」


何の気なしにランスが尋ねると、


「もう随分やって慣れたからな。

血以外の体液でも測れるから、小さい頃は口の中に綿入れて唾液つけて、ピンセットで測定器にポンポンして測ってたけど、

大体10歳くらいでその測り方がダサいみたいな雰囲気になって、ナイフ欲しがるんだよ。な。」


サンはそう言うとジオに同意を求めた。


「いや、俺血でしか測ったことないけど……」


「えぇ!? まじ? 俺の地元だけなのかこれ」


サンが困惑してミオンの方を見ると


「私も血しか使ったことない……けど私、魔法が〈治癒〉で、すぐ治せるから気にしなかっただけかも……」


「まじかよ……」


サンはそこそこ衝撃だったようで、質問主のランスそっちのけで困惑した。

その様子を見ていたユートリアは、あははと和やかに笑っていた。


「お待たせ。準備できたよ」


魔力測定器が机の一角に展開された。

サンはその前にたったが、ふと周りを見回すと全員の視線が集中していて指にナイフを入れるのを躊躇った。


「めっちゃ見られてる。そんな面白い結果でないけどな。俺魔力すげぇ低いよ」


この学校に入った時点で一般人より魔力が高いのは当然だったが、今ここにいる第一学年の主席と次席より見劣るのもまた確かだった。


「別に気にすんなよ。高校から魔力ぐんと伸びる奴だって多いし。あと初日の授業だとこれ、クラス全員の前でやるぞ」


ジオがそう言うと、サンは自分の今の状況が幾分マシに思えたらしい。

向き直って自分の指に切り込みを入れ、血を(したた)らせた。


「…………あれ?」


浮かび上がった数字を見て、サンは困惑を隠せないようだった。ジオとミオンも()せない様子で結果を凝視している。

ランスは他の人の反応の理由がはっきりとはわからなかった。


水晶の中の数字は、3472と浮かんでいた。


「どうしたの? 何かあった?」


周りの反応に違和感を感じたユートリアが質問した。


「……俺、魔力、こんなに高くないんですけど。1ヶ月前の入試では、3033とかでした」


「え」


ユートリアは自分の胸元からナイフを取り出し、指を切って血を吸い込ませた。


「……別に測定器が壊れているわけじゃなさそうだけど」


ランスの位置からはよく見えなかったが、浮かび上がる数字を見て、サンが仰天しているのがわかった。

ユートリアはそんなことはお構いなしにポツポツと言葉を次いだ。


「……1ヶ月くらいで、魔力が400も上がったってこと? ……そんなこと信じられない。ありえない……」


それがどれほど信じられない増加なのか、ランスには判別つかなかった。

しかし入学初日に担任のゾフィが「魔力は卒業までに大体1000くらい上がる」と言っていたのは覚えている。

そう考えるとこの魔法学校で真面目に勉強すれば、1年で300くらいは上がるのだろう。


何かの本で、「魔力は若い時に成長しやすく、個人差はあるが、15〜18歳が最も伸びやすい。成人してからはあまり高くならない」と読んだ気がしたので、

1年で300というのが魔力成長のほぼ最高速度と言って良いのかもしれない。


そう考えると確かに、1ヶ月で400は異例の速さだ。


「どういうことだろう、君、何か心当たりはある?」


ユートリアにそう聞かれ、サンは答えた。


「いや、特に何も……

あ、そういえばさっきランスのアドバイスで、魔法使いこなせるようになったんです。それか」


サンは合点がいったようにランスを見た。

ユートリアは「どういうこと?」と尋ねた。


「なんかさっき、音変えられないって話をみんなにしたら、ランスに科学の考え方教えてもらったんですよ。

あれ、これ言って良いんだっけ? まぁ良いか。


それでその考え方使って魔法使ったら、音変えられたんです。

俺の中で生まれてから1番の進化だったんですけど、それで魔力も上がったんすかね」


それが原因かわからなかったが、この異様な伸び率を説明づけられるのはそれしかないように感じた。

ユートリアは目を輝かせ、ランスに向かって言った。


「すごい、それが本当だとしたら、とても画期的じゃないか。僕も今度教えてもらわなくちゃ」


ランスはこんなことになるとは思わず、返事もせず目線を逸らした。

ユートリアはもっと聞きたいことがあったようだが、この後の予定も詰まっていたようで、名残惜しそうに退出した。


「ユリア様には良いけど、あの説明、他の誰かには勝手に言うなよ」


ジオはそう言ってサンに釘を刺した。


サンは


「そうか、(わり)ぃ」


とランスの方を向いた。


科学という言葉は、それだけで他人に否定的な印象を与えることもある。

ジオが言わなければ、ランスは自分で同じことを言ったと思うのでありがたかったが、学長でも良くねぇよと思った。

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