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第37話 支援

サンが生まれ育った町は、魔法列車や乗合馬車を乗り継いで、丸二日はかかるような場所にあった。


ほとんどの家が楽器職人を生業にしていた。

工房の扉には鍵がかけられておらず、勝手に入っても怒られないどころか、


「あぁ、ギター屋のせがれか。もっと近く来い」


と言って楽器の部品を加工する様を目の前で見せてくれた。

楽器を作っていない時に尋ねると、その家で作る楽器の演奏方法を仕込まれた。


道を歩けばどこからでも楽器の音が聞こえた。

子どもたちは遊びの一環で合奏をしていたし、大人も顔を合わせると一曲合わせることが珍しくなかった。


音の調和に彩られた町の中で、サンの魔法は異常だった。

うっかり発動させでもしたら、全てをかき消すほどの騒音で辺りの調子を一斉に崩した。


かと言ってその魔法で、周りの人との間に亀裂が入ることはなかった。


「またサンの魔法か、相変わらずすごい音だな」


と軽く小突かれることはあったが、


「仕方ないだろ。生まれてこのかた、これなんだよ」


なんて言い返すとガハハと笑い飛ばされた。特に人間関係で困るようなことはなかった。


しかしそれでも、サンは自分の魔法が嫌いだった。


他人の魔法ではなく、自分の魔法だからこそ、むしろ心置きなく嫌悪感を抱いた。


うるさく、騒々しく、不快をまき散らすだけの煩音。なるべく使いたくなかった。


音色や音程を変える苦心は何度もした。人がいない隙を狙って、隠れ隠れ魔法を発動させながら、変われ、変われと何度も念じた。

それでもサンの願いなどまるで届かず、一向に変わる気配もなく、ずっと同じ雑音をまき散らすことしかできなかった。


学校は大好きだったが、魔法を使わなければいけない実技の授業は嫌いだった。

しかしなぜか、人よりも魔力は随分高かった。魔力が上がれば上がるほど、音の大きさが増していくようで嫌だった。


「サン君の魔力だと、もしかしたら、国立の魔法学校に入れるかもしれませんよ。一度目指してみませんか?」


そう言ったのは中等学校の担任だった。

王都から派遣されてきた人で、たまに都市の話を聞かせてくれる人だ。


「国立魔法学校って、行って何すんすか。この町でそんなの通っている人、聞いたことないですけど」


サンの町では、漠然と「国立魔法学校はすごい」という認識はあったが、通ったことのある人は1人もいなかった。

中等学校を卒業したらすぐどこかの職人に弟子入りするか、自分の魔法を活かせる仕事を探して、町を出ていく人しかいない。


「魔法の天才たちに囲まれながら、一緒に切磋琢磨して、自分の魔法を磨ける場所ですよ。

サン君はすでに僕よりも魔力が高いんですから、実力は十分です。きっと実りある3年間になると思いますよ」


担任の先生にそう言われたと、自宅で父親に報告すると、


「すげぇじゃん、行け行け」


と返された。


「でも、行って何の意味あるのかわかんないよ。普通に中学出たら働いた方がいいんじゃねぇの?」


「それはわかんないけど、学校で魔法磨いたら、もしかしたらその魔法の音色とか変えられるようになるんじゃないか?」


そんなうまくいくかな、とサンが呟くように返して、その時の話は終わった。


しかし次の日、町を歩いていると


「おいサン! お前国立魔法学校受けるのか!? 学校の先生から聞いて、親父さんも『そうだ』と言ってたよ。すげぇじゃん!」


と話しかけられてしまった。


国立魔法学校に入る奴が現れるかもしれないというのは、小さい町ではサンが思っていたよりもニュースになっていて、引くに引けない状態になった。


仕方なく町民と学校の先生の助けを借りて、受験のための魔法の練習を始めた。


その結果、ギリギリだったが合格することができて、町全体がお祭り騒ぎになった。


町を去るとき、乗合馬車に乗り込む際、町中の人が集まった。


「こいつの弾き方忘れたらタダじゃおかないぞ」


と山のように楽器を手渡された。


「いや、普通に運べねぇよ。別口で送って」


と言って断ると、後日律儀に学校まで送付された。


結局家で魔法を練習している間も、受験のために町中から応援されていた時も、何をやっても魔法の音が変わることはなかった。


音量を多少抑えることは可能になったが、それでも十分うるさかった。


父親には「音変えられるようになってこい」と言って送り出されたが、変えられる気は少しもしなかった。


どんなに努力しても、どう足掻(あが)いても、ずっとこの音と付き合っていくしかないと思っていた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「変わった……!」


ミオンの声を聞いて、サンは今響いている音が自分の魔法の音だとやっと気づいたみたいだった。

その高音は煩わしいところなんて一切なく、むしろ心地よいくらいだった。


「変わった……」


サンは呼応するように呟くと、パッとランスの方を向いた。

ランスと目が合うと、驚きの感情が爆発したかのように叫んだ。


「変わっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! た!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


ランスは思わずまた耳を塞いだ。


「すげぇ! やば! まだ信じらんねぇ!!! 今まで、本当に何やっても変わらなかったのに! こんなことあんのか! すげぇ! 夢みたいだ!!!」


興奮冷めやらぬ様子で、溢れるように感動を口にした。

想像以上の反応にランスが気圧(けお)されていると、サンは今まで以上の笑顔で言った。


「ランスのおかげだな、ほんっとうにありがとう! 俺今日で学校入った目的達成したわ。

まじで、もう今卒業しても良い」


「いや、お前今日が初日だろ」


なんとか冷静に突っ込んだ。


横から見ていたミオンも感激していた。サンが喜んでいることに喜んでいるみたいだった。

ジオはもう少し冷静に驚いていた。突拍子もないと思われた科学の説明が裏打ちされたように見えたからだ。


「まぁ、いずれにしても今後の授業で困ることはなさそうだな。良かったよ」


ジオがそう言うと、


「おう、任せろ。もう全部大丈夫」


とサンは親指を立ててみせた。

元々音に対して人より素養があるからか、もうすでに音色を変えるコツを掴んだようで、色々な音を出して楽しんでいた。


その時、小屋をノックする音が聞こえた。

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― 新着の感想 ―
良かった~、サン、良かった。(T^T) 自分が変われたって気づく瞬間って感動するんだよね。
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