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第35話 悩み

ランス達はテーブルに4人分のサンドイッチを広げた。

サンが自分の部屋に案内する前に、せっかくだから昼飯買うかと提案したので、校内のパン屋で買ってきていたのだった。


一通り準備を終えると、手づかみで食事をするのに慣れていないジオが、ぎこちなくパンを口に運びながら尋ねた。


「サンの魔法って、音の調子とか高さとか変えられないのか?」


サンはぎくりと背中をこわばらせ、サンドイッチを頬張る手を止めた。


模擬戦は結局、サンの〈音〉魔法が決定打となり、ランス達の班が勝利した。

しかし敵味方関係なく狂音で(もだ)えさせるサンの魔法は、今後の模擬戦で同様の使い方をするわけにもいかないように思われた。


首を横に振って答えた。


「マジで一切変わらない。昔から散々試したんだけどな」


「音の大きさとかも一定なのか」

 

「音量は多少変えられるようになったけど、今日訓練でやったあれが最小だよ。本気出せばあの10倍は出る」


ひぇ、と思わずミオンが小さく怯えた。

まだ不協和音の残響が残っているかのように片耳を覆った。


「じゃあ、家で魔法の練習してた時は、あの倍の音が出てたの……?」


「家ではそもそも、ほとんど練習しなかったな。町が町だったから、超目立って。

でも俺がこの学校受験するってことが決まったら、町の人みんなが楽器持ち寄ってかき鳴らして、騒音消してくれてる中で練習してた」


へぇ、と思わずミオンは感心した。

王都に住んでいるミオンは、町が一つの家族のようになっているサンの故郷が素敵だと思った。


一連の話を聞いたジオは考え込むように手を止めていて、ポツリと呟いた。


「……今後模擬戦でどう使っていくか、ちゃんと考えたほうがいいかもな。

今日みたいな使い方をし続けて、医務室圧迫させるわけにも行かないし」


事実、その日の模擬戦の後、数人が耳の痛みや吐き気や頭痛を訴えて医務室に直行した。

みんな数分後には回復したので大事には至らなかったが、一瞬間医務室はベッドやソファにうずくまる生徒で溢れた。


「俺もう魔法使わないほうがいいだろ。


ジオとミオンだけで勝てそうだし。みんなだって、あんなん近くでかき鳴らされたら迷惑極まりないだろうよ」


「勝てる勝てないは関係なく、魔法は使わないと駄目だろ。魔法の技術を磨くための授業なんだから」


「いいよ別に、技術磨かなくて。そもそも学校入ったのだって、他にやりたいこともなかったからだし。

町の中では人より少し魔力が高かったから、中等学校の担任に勧められて受験しただけだよ。まさか受かるとは思わなかった」


サンは一度そう言い切ってしまったが、発言した後に自分の言葉を反芻(はんすう)しているような表情をしていた。

ジオはそれを感じ取ったため、あえて返事をせず次の発言を待っていた。


「まあでも、町の人からは、『卒業するまでに音を調整できるようになって来い』って送り出されているけど」


補足するように呟かれたのはそんな言葉だった。

サンはなるべく印象に残らないように、今までで1番小さな、力無い声で言っていたが、おそらく1番本心だった。


「……じゃあやっぱ、魔法使っていったほうがいいだろ」


ジオはそういうが、依然サンは自分の魔法について頑なに諦めていた。


「いやでも、どうしようもないんだって。本当に、昔から色々試してみたんだけど、こんな音しか出ないんだよ。

……しかも、魔法って普通、敵意がなければ人傷つけないはずなのに、なぜか俺の〈音〉魔法はどう頑張っても他の人にはうるさいんだ」


「その魔法、サン自身は平気なのか?」


ランスがそう聞いてみると、キョトンとした顔でサンが答えた。


「? 自分の魔法で傷つく人はいないだろ」


サンの反応から、それが魔法を使う人間の一般認識であることがわかった。

ランスにはわかりようがないことなので、とりあえず了解するしかなかった。


「まぁ、だから俺の魔法はもういいよ。あまり人がいないところで自主練とかしとくから。

それよりも今後、ジオとミオンでどう勝っていくか話し合った方がいいんじゃねぇの」


サンがこう言うと、ジオは何か言いたそうだったが、何をいうべきか定まらないようで、言葉を続けなかった。


こうして生まれた沈黙が、ミオンにはいたたまれなかった。

この沈黙が伸びれば伸びるほど、サンの魔法の活用が難しいと言っているように思われた。


かといって自分で妙案を打ち出すこともできなかった。何かを言わなきゃと焦り、頭を巡らし、思わずランスに話を振った。


「ランス君は、どうしたらいいと思う……?」


「え、俺?」


思わずランスは聞き返した。自分は魔法のことなんて何も言いようがないから、完全に油断していた。


「何か道具とか使って良いようにできないか。俺との決闘の時みたいに」


意外そうに会話に入るランスを見て、ジオは発言を促すように声をかけた。


「え、お前ら決闘してんの」


サンはランスとジオの決闘の話を知らず、思わず突っ込んでしまった。

ジオが「ここの2人で決闘して、俺が負けた」と雑な解説を挟んでいる間、ランスは少し考え込んで言った。

 

「……結局音って振動だから、逆位相の振動で打ち消せば音消えるだろうし、調整もできるかもしれないけど」


ランスにとってそれは前置きで、その後いくつか見解を続けるつもりだった。

しかし次の一語を発するより先に、サンが口を挟んだ。


「音が振動って、どういうことだよ」

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