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第33話 サンの魔法

「本当に俺たち、何もしなくていいんだな。今度の模擬戦では、トランプとか持ってくるか」


サンが冗談混じりにつぶやいた。ジオは冗談言うなよと呆れていた。


どこからか魔法が飛んできて、ジオが鉄で盾を作って防いだ。

まだ生徒は半数ほど残っている。


生き残りの生徒は少なくとも無策で突っ込んでくるようなタイプではなく、どこから魔法が飛んできたのか、ジオは判別できないようだった。

魔法の飛んできた方向に鉄魔法を集中させていたが、そこには誰もいなかった。


ジオの死角から、また魔法が飛んできた。ジオがそれを防ぐと、タイミングを少しずらして反対方向から飛んできた。

さっき少し目立ちすぎたのか、残った生徒がゆるやかに連帯している。


「……残りの相手に魔法を当てるのはしんどそうだな」


ジオがそう言い終わるか終わらないかのとき、もう一度、周りからあらゆる魔法が飛んできた。

しかし今度の襲撃は先ほどと違っていた。全員が話を合わせたように、魔法の方角やタイミングが絶妙にずらされていた。真上からも、真下からもきた。


姿を見せないことを第一に考えているようで、いくつかの魔法は狙いが定まらずあさっての方向へ向いたが、それがかえって気を散らされた。

ジオとしては、魔法を防ぐこと自体はまだ余裕があるみたいだった。しかし攻め込む隙は失っていた。


「……ジオ君、私、魔法当たっても大丈夫だよ」


ジオの魔法で守られていたミオンが突然口を開いた。


「え、そうなのか。わかった」


ミオンの意図が分からず、ジオは困惑したまま承知した。ミオンがジオの側から少し離れ、わざと隙を作った。

当然のように狙われ、いくつもの魔法がミオンを直撃した。


しかしミオンの上着はどんなに魔法で貫かれても、眩しいくらいに白かった。


「……〈治癒〉の魔法で、他の魔法を相殺できるのか。すごいな」


ランスがそういうと、ミオンは少し照れながら言った。


「うん、攻撃はできないけど、自分のことは守れる。

他の人を守ることもできるけど、その時は……あっ! 危ない!」


そういうとミオンはランスの手をぎゅっと握った。その瞬間、ランスは誰かに魔法を当てられたのがわかった。

しかし痛みや傷ができたわけではなく、上着も白いままだった。


「……こうやって、守りたい人に触っていないといけないの」


突然手を引っ張ってしまって、申し訳なさそうにミオンは言った。

ランスは自分を包み込む〈治癒〉魔法のオーラが他の魔法を防いだのだと気付いた。


ジオはミオンがわざと魔法を受けた時、生徒が物陰から出てきたのを見逃さなかった。

あらゆる魔法を防ぎながらも、間隙を縫うように魔法を放ち、その生徒を仕留めた。


「……やっぱ少しくらい隙を作った方が、姿を現してくれそうだ」


「へぇ。じゃあ、わざと隙を見せたらどうだ?」


サンが聞くとジオが頷いた。


「一回わざとバランス崩して、魔法を全部解除してみる。すぐ防衛体制取れないくらいに。


そうしたらチャンス逃さず仕留めに来る奴がいると思うから、サンの魔法でそいつら(ひる)ませてくれ」


「え」


サンは露骨に嫌な顔をしていた。


「いや俺の魔法、防御とかできないし。相手に効くかも分からないぞ。普通に袋叩きにあって負けるかもしれない」


「それを確かめるためにやるんだよ。今後の授業のことを考えると、今日使ってみた方がいいだろ」


ジオはそう言って、ミオンも見たいと同意した。

サンは渋々承諾した。


「……じゃあタイミングみてやってみるから、合図くれ」


ジオはそれを聞くと、足元の岩を蹴飛ばし、その勢いで倒れ込んだ。演技だとしたらうまかった。

戦いの渦中の生徒は全員その作為性に気がつかず、近くにいたランスがわずかに違和感を感じる程度だった。


生き残りの生徒は思惑通り、このチャンスを逃さぬように身を乗り出し、ジオに魔法を直撃させようとした。

(うずくま)ったジオを中心に、全ての魔法が吸い寄せられるように集まった。


「今」


ジオがそう言ったのを聞くと、ランスは反射的に耳を塞いだ。サンは人差し指を前に出した。



突如、訓練場一体に、耳をつん裂く狂音が響いた。



(たけ)り狂った霊長類の金切り声のような、研磨加工されたガラス板に爪を立てているような、

ろくに手入れもされていない曰く付きのバイオリンを軋ませているような、


そんな言葉でも足りないほどの形容し難い煩音(はんおん)が、二重にも三重にも重なり、重なるたびに不協和音を累乗させ、

聞いた者は不快と恐怖を(つかさど)る神経を直接(ひね)り上げられるほどの怖気(おぞけ)を感じた。


本能の全てがそれを拒絶しようとしている。背筋に感じたことのない寒気が走り、背中の神経をブチブチ引き抜かれてしまっている錯覚を覚える。

耳に意思があったら自死していたかもしれない。高台の鷹が逃げ出すほどの深い音が響いた。


ジオに向けて魔法を放っていた生徒は、音が身体を通り抜けるや否や、とても立っていられなくなった。


大きな隙を作るのも構わずに、魔法を手放し、あらん限りの力で手の平を耳に押し付けた。それでも背筋が萎縮するを抑えることができず、膝が地面に付くのを防ぐことができなかった。呼吸すら浅くなった。


ランスもミオンもジオも、合図とともに耳を塞いだが、骨を響かせて音が届いた。

他の生徒と同様に不快の波に()てられた。


他の人よりはいくらかマシな対策が取れていたので、ジオは凍りつく背筋に耐え魔法を放った。

放射状に放たれた魔法は、(もだ)える生徒たちを同時に貫いた。倒した後で、ジオはまだ背中に残る不快感に耐えられず、また思い切り(うずくま)った。


ランスは顔を上げることができず、ミオンもしゃがみ込んで地面に髪がついてしまいそうだった。


遠くで見ていたユートリアでさえ顔を(しか)めていた。


「……ほらな、だから言ったんだ」


サンは死屍累々を前に言った。

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― 新着の感想 ―
よ、、、予想外でした、サンの魔法。(^^;)
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